習主席のサウジアラビア訪問は、アメリカとサウジアラビアの同盟関係が冷え込む中でのことだけに、米中の覇権争いかと注目されています。
アメリカとサウジアラビアの関係悪化の一因は、4年前にサウジアラビア人ジャーナリストのカショギ氏がトルコで殺害された事件です。
バイデン政権は、殺害計画にムハンマド皇太子が関与したとして厳しく非難してきました。
さらにサウジアラビアなどのOPECプラスが、バイデン政権の要望を無視する形で10月に原油の大幅な減産を決定したことから、バイデン政権は「失望」を表明し、サウジアラビアとの関係を見直すと明らかにしたのです。
いわば力の空白を突く形で、中国はサウジアラビアとの関係強化に動き出しているのです。
さらに習主席は今回、サウジアラビアだけでなくアラブ諸国との初の首脳会議を開催する予定で、中国外務省はそれを前に「新時代の中国・アラブの協力」と題した報告書を発表。
「世界が大きな変化を迎える中、中国とアラブ諸国は戦略的協力を深め、新時代の運命共同体を構築する必要がある」と訴えているのです。
また中国外務省の報道官は、アラブ諸国の若者を対象に行われた世論調査を宣伝しています。
アラブ諸国以外の国でどの国が自分たちの同盟国と見ているかという質問に対して、78%が中国と回答し、中国がトップだったとアピールしているのです。
さらに興味深いのは、アラブ諸国の若者の82%が民主主義よりも安定を重視していると回答し、64%が西側の民主主義は自国で機能しないと回答したと紹介していて、中国政府の価値観と一緒といわんばかりのメッセージをSNS上で発信しているのです。
中国政府が目指すアラブ諸国との新たな関係。
エネルギーの調達先や兵器の売却先としても期待を寄せているほか、欧米から批判を受けているウイグルの人権問題で同じイスラム教の国々から批判が出るのを抑え込みたい狙いもあると見られます。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分51秒あります)