イギリスのスナク首相は14日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、追加の軍事支援の一環として陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」を供与することを伝えました。ウクライナに欧米製の戦車が供与されるのは初めてです。今後の焦点は、イギリスに続いてドイツなど他の国も戦車を供与するどうかに移っています。油井キャスターの解説です。
(「国際報道2023」で1月16日に放送した内容です)
各国がウクライナに相次いで戦車を供与する動きについて、ロシア政府は、次のような声明を出してSNSで拡散しています。
「平和を望むイギリス国民は失望している。戦車の供与は戦闘を激化させ、一般市民を含む犠牲者のさらなる増加になるからだ」
「イギリス政府がウクライナ市民の命を見下している証しだ。ロシアが表明した交渉による解決を無視し、戦闘を長期化させる目的だ」
ロシア政府は、自分たちの攻撃でウクライナ市民が犠牲になっている点には一切触れておらず、こうした情報戦を通して、「市民の犠牲」と「戦争の長期化」の責任を欧米の政府に押しつけたい思惑が窺えます。
ウクライナのゼレンスキー大統領はツイッターにイギリスの決定を受けて「他のパートナー国に適切なシグナルを送る決定で感謝する」と書き込みました。
さらに欧米の3か国は、今月はじめ、戦車よりは攻撃力が劣る、歩兵戦闘車などの供与を発表しました。イギリス製が決まったことでドイツ製やアメリカ製の戦車が供与されるかが焦点で、特に注目されているのがドイツ製のレオパルト2です。
ドイツは、供与についてこれまで慎重な姿勢を崩しておらず、イギリスの決断がドイツを後押しするのか注目されています。
ドイツに圧力をかけているのは、イギリスだけではありません。
ドイツ製のレオパルト2は欧米の多数の国が保有していて、ポーランドなどはウクライナに供与したいとしていますが、製造国ドイツの承認が必要です。ドイツの決断次第では、複数の国が一気にレオパルト2を供与する可能性があるのです。
しかし、そのドイツには気になるニュースもあります。ランブレヒト国防相が1月16日、辞意を表明したのです。
ランブレヒト国防相は、その言動をめぐってたびたび批判を受けていました。最近では、花火が打ち上がる新年の祝賀ムードの中でウクライナ情勢について適切ではない発言をSNSに投稿したなどとして批判の的となっていたのです。
ドイツでは、今週19日にアメリカとドイツの国防相会談、20日にウクライナの軍事支援を協議する閣僚級の国際会議が開かれる予定で、ウクライナの軍事支援にとって節目となる重要な会議です。
国防相の辞任による影響は、現時点では不透明ですが、ドイツ政府がウクライナの軍事支援にどのような決断を下すかは、今後の戦況にも影響を与えかねないだけに各国の目が注がれています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。