【ウクライナからの声⑧】 “お父さん、孫が生まれたよ“

NHK
2022年3月24日 午後4:03 公開

3月15日、私たちは悲惨な状況が伝えられるマリウポリからの声を求めて、SNS上に投稿されたメッセージを探っていました。見つけたのが、父と弟がマリウポリの地域防衛部隊にいるというディアナさんの書き込みでした。連絡をとってみると、ディアナさんは第3子を妊娠中。まさに陣痛が始まったところでした。あわてて取材を切り上げようとする私たちに対して、「私の出産は大丈夫だからマリウポリのことを伝えてほしい」と訴えたのです。

“父と弟はマリウポリで救出活動をしている“

ディアナさんはマリウポリ出身。

ロシアの侵攻が始まる前はキエフに住んでいましたが、今は攻撃を恐れて西部のチェルノフツィに避難しています。

故郷に残った父と弟は、地域防衛部隊に入って支援物資の配達や負傷者の救出を行っているといいます。

毎日懸命に無事を確認しようとしていますが、連絡をとること自体が難しい状況となっています。

「父と弟とは数日に1回しか連絡がとれません。今日はやっと手を尽くして彼らが生きていることを確認できました。電波の状況はだんだん悪化しています。電波があるところに人が集まると、そこにすぐミサイルが飛んでくるのです。だから彼らからの電話はとても短く、20-30秒程度にとどめているのです」

すでに3000人以上が犠牲となり、少なくとも10万の市民がロシア軍による包囲の中で避難できずに残されているとされるマリウポリ(3月24日現在)。

父と弟から知らされる現状は、日に日に厳しさを増しているといいます。

「マリウポリの状況は最悪です…食べ物も水も足りていません。数日前までは井戸に水をくみに行けましたが、今は激しい爆撃のせいで外に出られなくなりました。街に食料はほとんどなく、飢きんがすでに始まっています。遺体の山々は街中に放置されています。死体を片付ける人がいなくて、埋葬する場所もないからです。5日前までは遺体を布団でくるんで、ざんごうの中に集団墓地を作っていましたが、今はひどい爆撃のせいでそれもできなくなってしまいました。今できるのは負傷した人を探して、病院に運ぶことだけです。医者たちは何とか働いているといいます」

“マリウポリは最後の血の一滴まで抵抗する“

マリウポリの窮状を語りながら、ディアナさんは時おり陣痛の痛みに顔をしかめました

それでも父と弟から聞いた話を伝えてほしいというディアナさん。

一番の訴えは「マリウポリの空を世界で守ってほしい」ということでした。

「父と弟はマリウポリの弱点は空だと言っていて、空を守ってほしいととても強く願っていました。ロシア軍は地上で占領できないからこそ、あんなにひどい爆撃を行っています。ヨーロッパが飛行禁止区域を設定してくれないのであれば、防空システム、無人航空機、戦闘機などが必要です。街の人は爆撃でただただ死んでいく。人々をいま救える方法は、空を閉じて、水をくみに行けるようにすることなんです」

ディアナさんに話を聞けたのは15分ほど。

最後に世界の人に知ってほしいという強い覚悟を語りました。

「マリウポリは降伏しません。最後の血の一滴まで抵抗し続けます。問題は犠牲者の数です。犠牲者を少なくするため、世界が助けてくれることを願っています。空を守らないといけません。あんなひどい爆撃の中では、人道支援も役に立ちません。停戦と防空がないかぎり、人は爆撃と飢きんで死に続けます。防空システムが必要なのです」

通話が終わって2時間後、ディアナさんは元気な女の子を出産しました。

SNSに載せられた写真には「お父さん、あなたの孫が生まれたよ。心はいつもあなたの隣に」とメッセージが添えられていました。

戦火の中で生まれてきた娘にどんな希望を託すのか。

連絡がとれたら、また思いを聞いてみたいと思います。