カナダ政府はプーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪の1人、アブラモビッチ氏の資産2600万ドル(約36億円)分を没収する手続きを開始すると発表しました。
フリーランド副首相兼財務相は声明で「オリガルヒは軍事侵攻の共犯者だ。きょうの発表は残忍なプーチン政権を支持する代償を支払わせる我々の決意を示している。ロシアの資産がウクライナ再建のために使われるのは、正当かつ適切だ」と述べ、ウクライナの復興や賠償金にあてる考えを示したのです。
今回のこのカナダの対応は極めて異例な措置として注目されています。
というのも国際社会では、制裁で「凍結」した資産を各国政府が「没収」することは、所有者が変わるだけに国際法上認められないという否定的な意見が根強いのです。
カナダでは6月に議会で「没収」を可能にする法律を成立させ、今回初めて「没収」に踏み切ったのですが、これはG7の中でも初の試みです。
G7はこの問題を6月26~28日にドイツで行われた首脳会議で議論しましたが、その時の共同声明は「ロシアの凍結資産を国内法に合致してどう活用するかを含め復興支援の選択肢を模索する」と慎重な表現にとどまりました。
その後は目立った動きは見られなかったのですが、ここに来てEUも動き出しています。
フォンデアライエン委員長は「ロシアとオリガルヒはウクライナの損害を賠償し、復興費用を負担しなければならない。我々には、ロシアに支払わせる手段がある」と述べたのです。
ただEUはカナダ政府と異なる手段を模索しています。
カナダはロシアの資産を「没収」するのに対して、EUは国際法上問題が指摘されている「没収」ではなく、資産を「運用」し、その運用収益をウクライナの復興にあてる案を検討しているとしています。
莫大な復興資金や賠償金をロシアに払わせる仕組みを作ることで、欧米としては国内世論にも配慮する思惑と見られますが、具体的な手段はG7の間でも異なっていて、課題となっています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分35秒あります)