ロシア軍による占領が続く南東部のメリトポリでは、ロシア側による"プロパガンダ"の影響が徐々に人々を飲み込もうとしているといいます。SNSを駆使して住人に情報を伝えているオリガ・レオンチエワさんは「街に残る人たちが『私たちは見捨てられるかもしれない』と動揺している」と危機感を語ります。情報戦に対抗するための"武器"は、砲撃でも断ち切ることのできない「人と人とのつながり」です。
"ロシア軍は真っ先にメディアを占拠した"
オリガさんはメリトポリの住民で、現在は近隣の町に避難しています。
2014年に起きたロシアによるクリミアの一方的な併合をきっかけにウクライナ人としての意識に目覚め、ロシアに対抗する活動に関わるようになったといいます。
軍事侵攻以降は医薬品などを提供する活動を続けながら、メリトポリに残る住人に"外の世界の情報”を届けてきました。
オリガさんは、ロシア側がメディアを支配することをいかに重視しているかを証言しました。
「ロシア軍が最初に街に来た時に、真っ先に行ったのがメディアを奪うことでした。新聞、テレビ、ラジオ、報道機関を次々と占拠していったのです。そして今は人々がウクライナ側の情報を得られないように、インターネットのサイトをブロックしようとしています。街の人々は異なる意見を聞けない状況に置かれてしまったのです」
<ロシア軍の車両が街を走るようになったメリトポリ>
SNSを駆使して"真実"を伝えたい
その後ロシア側が強化したのが"プロパガンダ"の浸透でした。
メリトポリにはロシアの国営メディアが流されるようになり、"ロシア軍は解放者だ"とする一方でウクライナ政府への非難を連日続けています。
過酷な生活を強いられる市民の姿を伝え、"ウクライナ政府が国民を見捨てている"と報じているのです。
オリガさんは「残された住民たちはロシアによる一方的な報道にしか触れられない中で、徐々に不安を覚え始めている」と語りました。
「ロシア側のメディアは決められたシナリオの通りに伝えているだけで、すべてうそです。ただ、彼らはそのプロパガンダをとても上手にやってのけます。映像をうまく撮影し、巧みなプロパガンダに仕立て上げるのです。『ウクライナはあなたを必要としていません、だから私たちが守ってあげましょう』と何度も繰り返し語り続けています。『もしかすると彼らの言うことは本当で、私たちは見捨てられてしまうかもしれない』と不安を感じる人もいます。私は『誰も見捨てない』と言い続けていますが、逆に『じゃあウクライナ軍はいつになったら助けてくれるの?』と聞いてくる人も出てきています」
いまオリガさんはフェイスブックやインスタグラムなどを活用し、知り合いを通じてメリトポリ市内に残る人々向けて情報発信を続けています。
幅広い情報を伝えることで、ロシアが繰り広げる情報戦に少しでも対抗しようというのです。
<メリトポリで起きた抗議活動について伝えるオリガさんの書き込み>
5月末に投稿したメッセージでは、メリトポリで依然としてロシアの占領に抗議行動が起きていることを伝えました。
「祖国への愛は、戦車やミサイルでも破壊できない」と訴えています。
「本当は何が起こっているのか、人々が知る必要があります。私はそれを手助けしたいのです。フェイスブックでもテレグラムでも何でもいい、活用できるすべてのリソースを使っています。人々が疑問を発し、それに答えるための対話の場を作ろうと思います。ロシアは私から家を奪い自由を奪いましたが、住民同士のつながりは奪うことはできませんでした。私はいまそのつながりを生かし、街の住民のためにできる限りのことを行いたいのです」