ロシアによる軍事侵攻が続く中、IOC=国際オリンピック委員会が、軍事侵攻後、除外してきたロシアとベラルーシの選手について「パスポートを理由に競技への参加が妨げられてはならない」として国際大会への復帰を検討すると明らかにしました。これに対し、ウクライナ政府は強い不快感を示す一方、国際社会の中にはロシアのアスリートの中には戦争に反対している選手もいることから国籍で差別すべきはないという意見も強く、議論は割れています。油井キャスターの解説です。
(「国際報道2023」で1月26日に放送した内容です)
・IOC「いかなるアスリートも差別なく扱われる権利」ウクライナ政府は“強い不快感”
25日IOCは理事会を開き、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手について、去年2月、両国の選手や役員を国際大会に招待したり、参加を許可したりしないよう、大会主催者などに勧告した対応について協議しました。
理事会の後に声明を発表し「オリンピック憲章ではいかなるアスリートも差別なく扱われる権利を有する。パスポートを理由に競技に参加することが妨げられてはならない」などとして、国際大会への復帰を検討することを明らかにしました。
そして両国の選手の復帰について、以下の条件をあげています。
- 自国を代表しない”中立”の立場
- ウクライナでの戦争を積極的に支持していないこと
これに対して、ウクライナ政府はこれまで、ロシアとベラルーシの選手の国際大会への復帰に反対してきました。ゼレンスキー大統領は「ロシアを国際大会に復帰させる考えは『世界はテロを容認している』とロシア社会に示すのと同じだ。IOCがロシアの参加を認めればロシアはプロパガンダに利用するだろう」と話しています。
また、今回の発表を受けてウクライナのクレバ外相は、早速、ツイッターに次のように書き込み、強い不快感を表明しました。
<クレバ外相の投稿内容>
「IOCはロシアによる戦争犯罪を無視している。IOCは、パスポートを理由に競技への参加が妨げられてはならないと主張するが、ウクライナの選手たちは、パスポートを理由にロシアによって殺害され続けている」
ウクライナ政府によりますと、去年12月14日の時点で、ロシアによる軍事侵攻で、命を落としたウクライナのアスリートは184人。政府関係者は、今週も、スケートの選手がバフムト近くの戦場で死亡したと明らかにしています。
ウクライナ政府の間では、今回の戦争は、もはや、プーチンの戦争ではなく、ロシア国民が大勢支持しているロシアの戦争になりつつあるとして制裁の対象もロシア国民に広げるべきだという意見が強まっています。
・“ロシアのアスリートには戦争反対の選手も” 議論割れる国際社会
一方、国際社会の間では、ウクライナに同調する意見がある一方で、ロシアのアスリートの中には戦争に反対している選手もいることから国籍で差別すべきはないという意見も強く、議論は割れているのです。
現にJOC=日本オリンピック委員会の山下泰裕会長は、「選手たちに罪はないし、パスポートで差別すべきじゃないという意見もある。復帰の方向で可能性を探ることは決して間違っていないと思う」と述べ今回のIOCの方針を支持する考えを示しました。
この問題、対応を間違えれば、ボイコットなど大きな政治問題化しかねない火種ですが、パリオリンピックの成否は、平和の祭典にはふさわしくない戦争をやめさせることができるかどうかではないでしょうか。
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油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
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(この動画は3分10秒あります)