世界的な物価高・インフレの中で、なぜかインフレ率が比較的低いのが日本です。というのも日本人の頭の中には「きっと物価はそれほどあがらない。賃金はもっと上がらない」という考えがあることが要因だといいます。物価動向の分析が専門の東京大学大学院の渡辺努教授は「物価が上がらないのは消費者にとってはうれしいですが、それは決していいこととは言えない」と指摘しています。
(「キャッチ!世界のトップニュース」で10月3日に放送した内容です)
“デフレマインド”の脱却を―“賃金上がる社会は作れる”と信じることが鍵
渡辺努教授:ロシアのウクライナ侵攻の影響で、エネルギーの価格が上がるということが起きていますが、輸入価格が上がるほどには、国内での価格は上がっていません。つまり、どこかの企業がある意味、犠牲になって、そのコストの上昇分をのんでいるわけです。
渡辺教授:とりわけ大企業よりも、むしろ中小企業の方が割を食うような苦労を大変多くされていて、しわ寄せがいってしまっているだろうと思います。とにかくいろんなコストを削減しなければいけません。人件費が上がりそうとなれば、じゃあ人を切りましょうとなります。消費者の方から見た時に、十分な賃金の上昇はなく、むしろ賃金は落ちましたという中で、価格は上がっていきます。結局のところ消費者の方にしわ寄せがくることになるわけですね。
グローバルインフレと言われる状況の中でも、価格の上乗せが十分にできない日本。
これまでにしみついた「物価も賃金もあがらない」という予想を振り払うべき時に来ていると、渡辺教授は考えています。
渡辺教授:“デフレマインド”とか言いますけれども「賃金は上がらないものだ、価格も上がらないものだ」と新型コロナの感染拡大前には多くの人たちが信じていましたし、賃金についてはいまだに多くの方、特に働いている労働者の方々は、自分の賃金は当然のように上がらないという前提で物事を考える。賃金が上がる社会を日本で作るというのはできない相談ではないと思います。他の国ではできていますし、過去日本でもやって来たわけですから、「賃金を上げる社会が作れるはずだ」と思えるかどうかが鍵だと思いますね。
数年単位でインフレ続く可能性に…必要なのはwithインフレの暮らし?
高橋彩(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):欧米は物価が上がりすぎて困り、日本は賃金や物価が上げられなくて困る。同じ事態でも予想が違うと全く異なる状況になるということなのですね。
小林雄(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):ちょうどいいインフレ率は、日本やアメリカでは2%程度とされていますが、そのあたりに持っていけるかというのは、非常に難しいことで、これは欧米でも同じなのです。中央銀行が一生懸命、金融を引き締めてインフレ退治をしようとしているのに、政府では困窮する人々の生活を救うため、例えばアメリカでバイデン政権が学生ローンの一部帳消しを打ちだしたり、イギリスのトラス政権が大規模減税案を打ちだしたりする。こうした政策は、国民の使えるお金を増やすことになるので、インフレを加速させてしまうのです。渡辺教授も50年ぶりのインフレを前に、中央銀行と政府の対応がちぐはぐになっている側面があると話していました。
高橋:これからインフレはどこまで進んでいくのでしょうか?
小林:渡辺教授は、過去のパンデミックでは、流行が収束してからもインフレ傾向が10年程度は続いたとしていて、今回も数年単位で影響が続く可能性があると話していました。また、いま世界ではグローバル化の逆回転が起きています。できるところで効率的に作るというのがグローバル化ですが、アメリカと中国の対立などからも見て取れるように、多少高くても信頼できる国で作り、信頼できる国の製品を買いたいという傾向が強まっています。この傾向が続くとすれば、それはいやおうなく価格を押し上げる要因になります。これからはインフレと付き合いながら暮らしていく、そうした時代に入っていくのではないかと渡辺教授は話していました。