【解説】「国防権限法」成立で台湾巡る米中関係のゆくえ(油井'sVIEW)

NHK
2022年12月27日 午後3:41 公開

アメリカで成立した「国防権限法」に中国が反発を強めていると見られています。

「国防権限法」は国防予算の大枠を決める法律ですが、この中に台湾に対する5年間で最大100億ドルの軍事支援中国による偽情報やサイバー攻撃に対抗する台湾への支援、アメリカ政府の職員が最長2年間、台湾で留学・勤務する交流プログラムなどが盛り込まれたのです。

アメリカ議会では当初「台湾政策法案」という名前の軍事支援法案の成立を目指してきましたが、ホワイトハウスは「中国との緊張を高める危険性がある」として議会と交渉し、懸念される表現や条項を削除した上で国防権限法の中に盛り込む形で成立させました。

ある意味、議会側も譲歩した形ですが、上院外交委員会のメネンデス委員長は「今回の法律は台湾の真の抑止力のためにここ数年で最も重要な法律の1つになる」とその意義を強調しているのです。

アメリカ議会で危機感を強めている台湾について、中国の習近平国家主席は先の党大会で「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが決して武力行使を放棄せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と述べています。

アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は「習主席は武力行使以外の手段を優先すると公には主張している。しかし習主席が2027年までに戦争開始の準備を整えるよう軍の指導部に指示を出したことも私たちは把握している。この10年が進むにつれ軍事衝突の危険性は高まる」と気になる発言をしたのです。

2027年は中国人民解放軍創設100年にあたるほか、習近平国家主席が3期目の任期を終える年ともなります。

去年4月に、当時のアメリカ軍の司令官がこの2027年に向けて台湾有事のおそれがあると警告し注目されましたが、同様の見方が政権内に広がっている懸念を感じさせます。

アメリカは来年の早い時期に、ブリンケン国務長官が中国を訪問する予定です。

米中両国は台湾をめぐる関係悪化に一定の歯止めをかけられるのか、来年早々にも試されることになります。


油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は2分55秒あります)

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