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中国「一帯一路」構想の現状 欧州諸国で高まる警戒感

NHK
2021年5月21日 午前9:33 公開

特集ワールドアイズ、今回は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の現状についてお伝えします。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で5月17日に放送した内容をまとめました)

習近平国家主席が、2013年に提唱した、一帯一路。中国からヨーロッパを目指して西へと進みながら、巨大な経済圏を構築しようという構想です。陸上では、ユーラシア大陸を横断する鉄道網が整備されているほか、海上でも、東南アジアからアフリカ、そしてヨーロッパの港をつなぐ、ルートを構築しています。

ヨーロッパへの入り口の1つとなっているのが、地中海に面したギリシャのピレウス港です。中国の国有企業が買収に乗り出して以降、この港は急速に拡張され、いまでは物流の一大拠点となっています。

欧州で警戒感高まる中国「一帯一路」

一帯一路構想による中国主導の経済圏は、ヨーロッパのどこまで進み、これからどう広がっていこうとしているのか。中国経済が専門で一帯一路の動向に詳しい科学技術振興機構の大西康雄(おおにし・やすお)さんに聞きました。

大西康雄さん:一帯一路の西の一番端は、中部ヨーロッパまで来ていると理解していいと思います。それは本来、海洋、海運が中心とする貿易航路だったわけですが、ヨーロッパと中国は陸続きなので、中国の経済地帯を一気通貫でつないで、カザフスタンからロシア、ヨーロッパに抜けるというルートが開拓されています。

このルートは非常に発展していて、昨年2020年の数字を見ても、往復で1万2400本の列車が運行されています。今後も発展が見込まれるわけです

中国「一帯一路」欧州諸国に警戒感

ヨーロッパとの間で貿易の大動脈ができあがりつつある「一帯一路」。中国が主導権を握る経済圏の拡大に、ドイツやフランスなどヨーロッパの主要国は警戒を高めています。

大西康雄さん:ヨーロッパ側の警戒感ですが、最近は政治的な問題が前面に出ていますが、その前から中国の投資自体のあり方に疑問が出てきていました。
例えばドイツの工作機械メーカーのクーカ(KUKA)という世界的に有名なメーカーを中国が買収し、一気に先進的な技術を手に入れ、中国の競争力を強化するという意図が非常に明確だったわけです。
革新技術を中国が入手してしまう。そのことでライバルとして登場するのではないか、という警戒感が強いと思います。

小林雄(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):そうしたヨーロッパがかなり中国に警戒感を強めていることを中国側はどう受け止めているのでしょうか。

大西康雄さん:中国もこのことは理解していて、中国は実は中部、東ヨーロッパ諸国との間で多国間の枠組みを持っています。「17+1」という言い方になっている、こうした多国間枠組みで協力しましょうという姿勢を見せて、警戒感に対して応えようとしていると思います。

変容する中国「一帯一路」

巨額の資金力を武器にヨーロッパまで進出してきた中国。しかし、いま、一帯一路の資金源となってきた経常収支の黒字幅は減少傾向に。大西さんは、政府主導の巨大プロジェクトから民間企業中心の投資へと変化する流れが生まれていると指摘します。

大西康雄さん:経常収支が大幅黒字を続けていたときは、投資もどんどん拡大しましたが、今はそれほど経常収支に余裕がなく、外に回すお金も少なくなっているという現実はあると思います。当初は政府が主導して、さまざまな援助プロジェクトを建設するという方式が主でしたが、これは一段落したと見ていいと思います。今後の対外経済政策は、企業レベルでの投資をちゃんとやっていくと。企業レベルですので、当然、お互い利益があがるようになっていく方向になると思います。

一帯一路進める中国 アメリカとの対決は

「量から質」へと軸足を移しながら、中国はヨーロッパのさらに西を目指しています。対立を深めるアメリカは、これにどう対抗するのか。大西さんは、アメリカには中国と経済圏を切り離す選択肢はないと考えています。

大西康雄さん:アメリカの産業界はもうすでに中国に対してデカップリング(分離・切り離し)をするなと言っています。デカップリングされると、アメリカの産業界が儲かるチャンスを失うわけです。中国に投資をすれば儲かるわけです。そのチャンスを失うというのを非常に恐れているので、アメリカと中国の間の新しい冷戦だという人がいますが、それは一定程度当たっていて、冷戦というのは全面的なホットな戦いにはならないということを意味しています。世界が経済的にあまりにも相互依存していて、デカップリングできない。それを前提にしていますが、争うべき分野はあります。非常に先進的な分野で主導権は渡したくないとアメリカも思っている。その点ではやはり対立、摩擦が続いていくと思います。

欧州に向け拡大する中国「一帯一路」

高橋彩(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):世界からの警戒感が強まる中で中国の側にも一帯一路の構想の進め方に変化が出ているということですね。

小林:そうですね。政府主導の大型インフラをどんどんと作るというプロジェクトから、民間企業中心の投資へと変わっているということでした。中国の一帯一路構想は、豊富な資金力が最大の特徴だと思っていたので、経常収支の悪化で資金源が細ってきているという指摘は意外でした。一帯一路構想をめぐっては、いわゆる「債務の罠」の問題などもあり、アジアやアフリカなどの途上国でも警戒が強まっています。その一方で、中国の巨大な市場や旺盛な投資意欲は無視できないというのが多くの国の本音です。様々な課題や対立は残りつつも経済的な結びつきはますます深まっていくだろうと、大西さんは指摘していました。