今週金曜日に開幕するG7広島サミット。
それを前にEUの大統領と委員長が会見しました。
サミットでは、ウクライナへの支持を改めて明確に示すとともに、台湾情勢など中国との関係をめぐる議論が重要だと強調しました。
こうした中、議長国を務める日本も、中国を念頭に、サミットで発表する首脳宣言について、各国と調整を進めています。
輸出制限などで相手国に圧力をかける「経済的威圧」を抑止し対抗するため、G7が連携するとともに、標的となる国や組織を支援するとしています。
(「国際報道2023」で5月16日に放送した内容です)
油井キャスター:中国による「経済的威圧(Economic Coercion)」が、今回のG7のキーワードの1つです。
輸出制限などの経済的措置で、相手を困らせる手法です。
日本の場合、すぐに思い出すのは尖閣諸島の問題を受けて、中国政府が2010年に行った、日本に対するレアアースの輸出停止です。
中国の経済的威圧をめぐっては、オーストラリアのシンクタンクが2月に報告書を発表していて、それによると、中国政府による経済的威圧を含む威圧外交は増加傾向です。
中でも、赤色で示した「貿易制限」が増えていて、相手国が欲しい資源を輸出しなかったり、これまで大量に購入していた商品の輸入を突然やめたりして相手国を威圧していると指摘しています。
地域別には、こちら。
この3年で中国政府が威圧した国や地域は、世界各地に広がっていて、中でもヨーロッパ、特に台湾問題をめぐって関係が急速に悪化したリトアニアに対する貿易制限が目立ったと指摘しています。
酒井キャスター:そのヨーロッパでは、中国による経済的威圧を避けるためEUが先に打ち出したのが、「デリスキング(De-Risking)」政策です。
中国との経済関係は維持しながらも、中国の資源や商品への過度な依存を軽減することで、リスクを減らすというものです。
油井キャスター:アメリカのバイデン政権もEUが提唱するデリスキングに同調しています。
「デリスキングに賛成だ。デカップリングではない。 我々は安全なサプライチェーンの構築を目指す」
アメリカでは、経済的な切り離し=「デカップリング」が進められていると言われることもありますが、それはあくまでも貿易の一部分、最先端の半導体など一部のハイテク分野に限定されていて、経済全体のデカップリングは求めていないと強調しています。
現に去年1年間のアメリカと中国の貿易額は過去最高で、米中両国の経済は密接に結びついていると言えます。
今回のG7では、各国がこれまで中国に依存してきたレアアースなどの資源や製品を、中国以外でどう調達するのか、サプライチェーンの構築が焦点の1つというわけなのです。
ただ、中国は早くも反発しています。
「『経済的威圧』の国はアメリカだ。 脱中国経済を求め、科学技術面で中国を封鎖し、中国企業に圧力をかけている」
自由貿易を掲げて国際的な経済協力のあり方を議論してきたG7ですが、ロシアによる軍事侵攻や米中の覇権争いが影を落とし、経済安全保障面での議論に焦点は移りつつあるようです。
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は3分15秒あります)
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