ロシアのプーチン大統領は今後どのような外交を展開するのか、その一端が垣間見られると言われているのが、クレムリンが9月上旬に発表した「海外におけるロシアの人道政策」と題した31ページに及ぶ外交政策文書です。
海外におけるロシアの価値観や文化それに言語をどう守って、強化していくかを記したロシアのソフトパワー戦略とも言えます。
この文書の中に書かれているのが「文化的な影響力をめぐる世界の争いは激化している。ルースキーミール(ロシア世界)の伝統と理想が脅かされている」「ルースキーミール(ロシア世界)の伝統と理想の保護と促進がこの文書の目的だ」ということ。
このルースキーミールとはプーチン大統領が目指している価値観とも言われており、意味は「世界でロシア語を話す人やロシア正教を信じる人の連帯」ということで、ロシア語を話す人たちがいるウクライナやベラルーシなどをロシアの支配圏に取り込む狙いとも言われてきました。
今回の文書の中にも「バルト3国やモルドバ、ジョージアに住むロシア語を話す人々の権利の順守に配慮すべきだ」と記しているのです。
一部の欧米メディアはプーチン大統領がウクライナで戦争を始めた背景には、ロシア語を話す人たちを守るというルースキーミールの概念があり、今回、公式な外交文書にルースキーミールが盛り込まれたことに注意すべきだと批判的に伝えています。
文書からうかがえる「ロシアが外交的に重視していく国々」と「日本」
関係強化をうたっているのが、旧ソビエトの国々でつくるCIS諸国を始め、非欧米の国々です。
一節には「特に重要なのは、伝統的でますますダイナミックになっている中国との協力だ。またインドとの協力を新たなレベルに引き上げるために今後も継続的な取り組みが必要だ」と中国とインドを重視する姿勢を示しているのです。
文書は、アメリカについては一切言及していない一方で日本については「日本社会にはロシア文化への大きな需要があって幅広い展望がある」と記しています。
ただ、そのロシアの文化が世界の中で歓迎されにくい環境を作り出してしまっている要因はまさにプーチン大統領が始めた"戦争"にあると言わざるを得ません。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
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