(ディレクター 町田啓太)
映画「SNS 少女たちの10日間」。
"12歳の少女"がSNSを利用すると何が起こるのかを描いたチェコのドキュメンタリーで、子どもたちが受けるデジタル性暴力の実態がリアルに描かれています。
チェコでは映画がきっかけで警察が捜査に動き、子どもに性的な写真を繰り返し送っていた男が逮捕されるなど、社会に大きな影響を与えました。
日本でデジタル性暴力の問題に取り組み、昨年度過去最多の相談件数を記録したNPO法人ぱっぷす理事で相談員の岡恵さんは「映画で描かれた被害の実態は日本と全く変わらない」と指摘します。
岡さんに加害者の手口や、もし子どもが被害に遭った場合にどうすればよいのか伺いました。
(記事の最後に相談窓口一覧を掲載しています)
映画「SNS 少女たちの10日間」は日本で毎日起きていること
岡さん:加害者が少女たちから性的な画像を送付させるために、他の女の子たちの写真を送ってくるというシーン。それこそ、ぱっぷすに寄せられた相談の再現シーンかと思うようなケースがあります。「ほかの子たちはこうやって送ってくれているよ」といって、同い年ぐらいの子たちの写真を送ってきます。他にも男たちが少女にかける数々の言葉は日本とほとんど変わらなかったので共感しかないです。
👉岡さんの指摘する"加害者がよく使う言葉と態度"
▼「ほかの子もみんなこんなことやっているよ」
▼"大人への階段を上るステップ"かのように思わせる
▼「君には拒否をする権利はあった」、「こちらは悪いことしてない」姿勢をみせる
▼「あの有名なアイドルは水着でPVに出ているのに、君はなぜできないの?」
子どもたちは被害者 自分を責めないで
—岡さんは相談員を7年務めてこられて多くの子どもの相談に乗ってきたそうですが、相談してきた子どもたちにどんなメッセージを伝えてきましたか?
岡さん:子どもたちは送ってしまったというときに、まず自分を責めます。「自分がそもそも送らなければよかった」とか、「結局送ってしまったのは自分なのだから、自分が悪い」というように。また児童の写真を送ってしまった背景に家族間の問題があるのではと指摘されることがあります。しかしひとくくりにそうした理由にすることは全くできなくて、普通に性的なことは特に親との関係が親しければ親しいほど、特に親には言えないといいます。親に言えない理由として、「そういうことをする子だったんだ」と言われるかもしれないのではと不安に思う子もいれば、「親を悲しませてしまうんじゃないか」と心配していた子もいます。せっかく自分のことを信用してくれていたのに、いけないことをしてしまったと、そのように思ってしまうのです。
―日本ではどのような人間が加害者となっているのでしょうか?
岡さん:実は加害者は、いわゆる"ロリコン"など特殊な性的嗜好がある人だけというわけではありません。彼らは、まるで攻略ゲームのようにやっているんですね。いかにこの子に恐怖を感じさせ、いかに写真を送らせるか、感情を支配して送らせるかというゲームです。ネットっていう媒体を介すことによって、個人を抹殺しているからこそ、それができる印象があります。
—なぜこの児童に対する性被害が止まないのでしょうか?
岡さん:ぱっぷすではアダルトビデオの被害者からの相談も受けていて、毎日アダルトビデオの販売停止や削除を行うためにチェックしていますと、いわゆる痴漢やレイプだとか、“嫌だと最初は言っていても性行為に結局応じて喜んで快楽に溺れる”というような、様々な性暴力を描いたシナリオが共通しています。
“アダルトビデオのシナリオは男性が喜ぶシナリオである”という事であったり“暴力的に始まった性行為でも、女は結局喜ぶんだ”という刷り込みこそが、アダルトビデオだけではなく、映画など様々エンターテイメント媒体のストーリーの中で何度も何度も繰り返し社会に発信され、それが画面の中だけではなく、実生活でも性暴力として再現されるのだと思います。
加害者は周囲に知られることを最も恐れる
—どうすれば被害を食い止めることができると思いますか?
岡さん:加害者が何を一番恐れるかっていうと、周りの大人に自分たちがしていることを知られることです。でも今の世の中、こういった写真を送ってしまったっていう場合は、大体送った側が責められています。「どうして送っちゃったの?」 「どうして断らなかったの?」 「そんな人相手にしなければいいじゃん」と。加害者は、責められるのは被害者だということを一番よく分かってるんですね。
"送ってはいけない"ではなく"送らせてはいけない"が浸透した社会に
—大人はどうすれば子どもたちの被害を防いであげられるのでしょうか?
岡さん:被害に遭っている子たちは、これ以上拡散されたくないと何かしら自分を守ってきた末の被害です。相談していい環境を周りがつくるということが大事だと思います。
そして、リベンジポルノや児童ポルノの話にも共通して、そういったことを楽しんでいるということ自体が間違っているのだというような社会通念ができれば変わると思います。
"送ってはいけない"ではなく、そういった"裸の写真を送らせてはいけない"、"人の裸の写真を撮ってはいけない"っていうことが社会通念になれば、責められる側が今度は変わります。そうすると児童買春、児童ポルノ、リベンジポルノで悩んでいる人たちがもっと声が出しやすい社会になるんではないかなと思います。加害者はいま全く危機感なくやっています。でも、それを被害者がもっと声を上げられて危機感を感じさせることができたなら、そこに全く別の社会があると思います。
相談できる窓口があります
▼NPO法人ぱっぷす 問い合わせ・相談窓口(24時間対応)
メール:paps@paps-jp.org (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
電話 050-3177-5432
Twitter @PAPS_jp
Instagram paps_soudan
LINE paps24
▼総務省
インターネット上の違法・有害情報等に関する相談窓口 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
▼法務省
子どもの人権110番 0120-007-110
みんなの人権110番 0570-003-110(全国共通人権相談ダイヤル)
▼都道府県警察 少年相談窓口
警察相談専用電話 #9110
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