ヨーロッパ最大級の原子力発電所と言われてきたザポリージャ原発が、ロシア軍に占拠されてから1年が過ぎました。現在、6機の原子炉が停止状態です。
原発は、ロシア軍が支配する中、ウクライナの技術者たちが作業を行う異常な状況が続いています。
そうした中で、ウクライナ政府が、最近、「裏切り者」として名指しで批判を始めたのが、ユーリ・チェルニチュク氏です。
ウクライナ保安庁によると、チェルニチュク氏は、もともとザポリージャ原発の副主任技師でした。しかし、ロシア軍に占拠された後、自ら進んでロシア側と協力。そして去年、ロシア側によって所長に任命されたということです。
チェルニチュク氏はウクライナの技術者たちに対してロシア側と契約するよう強要しているとされ、ウクライナ政府は、裏切り者と位置づけて制裁を発動したのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
酒井キャスター:ウクライナ政府は、ロシア側に協力しているウクライナ人に対する大規模な摘発を進めてきましたが、チェルニチュク氏もその容疑者の1人ということなのですね?
油井キャスター:はい。ロシア軍に協力したウクライナ人の中には、銃を突きつけられて従うしか、選択肢がなかった人もいます。
チェルニチュク氏については真偽は不明ですが、ウクライナ政府は彼がみずから進んでロシア側と協力しているとしています。
そして、ウクライナ政府が強く懸念しているのが、ロシア側がチェルニチュク氏と連携してザポリージャ原発の電力をウクライナの送電網から切り離し、ロシア側の送電網につなげてロシア側への電力供給を目指していることだと指摘しています。
ザポリージャ原発の電力はウクライナにとっては自国の総電力の2割を担ってきた重要な電力インフラだけにIAEAと協力して何とか支配権を奪い返したい立場で、ウクライナのエネルギー相は交渉で解決する姿勢を示してきましたが、今月「交渉に進展は見られない」と発表していました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ザポリージャ原発はこの1年で、外部電源の喪失が6回も起きています。
IAEAのグロッシ事務局長は先日、「この状態を放置すればいつかは運が尽きてしまう」と発言していて、重大な事故が起きかねない危険な日々が続いています。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(この映像は2分40秒あります)