ロシアとドイツを結ぶ海底の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」でガス漏れが起きている問題で、アメリカ政府の間でも何者かによる意図的な破壊という見方が強まっています。
ガス漏れを受けてアメリカのブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官が、それぞれデンマークの外相と安全保障担当の高官と緊急に電話会談しました。
アメリカ政府の発表によりますと「明らかな破壊活動について」協議したとしています。
その上でブリンケン国務長官は「今回の漏れはヨーロッパのエネルギー事情に重大な影響を及ぼすとは認識していない。重要なのは、我々はヨーロッパのエネルギー安全保障のため、日夜、そして短期・長期的に取り組んでいることだ」と述べ、ヨーロッパ諸国がエネルギーで困らないようアメリカは協力していくとしています。
「意図的な破壊」最大の焦点はどの勢力の犯行なのか
ヨーロッパ諸国は、今、ロシアからのガス依存を減らしながらこの冬を乗り越えるために、ガスの貯蓄を進めている時だけにヨーロッパを困らせたいロシアによる妨害ではないかという臆測も出ています。
デンマークの王立国防大学の研究員は「ガス市場のさらなる不安定で、利益を得るのは基本的にロシアしかいない。ロシアはウクライナへの支援をやめるようヨーロッパに圧力を加える手段としてガスを使っている」と指摘しているのです。
またウクライナの大統領府顧問は「ロシアが計画したテロ攻撃でEUに対する侵略行為だ。ロシアはヨーロッパの経済状況を不安定にして冬前にパニックを引き起こしたいのだ」とSNSに書き込み、ロシアに対抗するためウクライナに武器を送るべきだと主張しています。
これに対してロシア国内からはアメリカの犯行という臆測が出始めています。
プーチン政権に近い新聞「イズベスチヤ」は専門家の話として「ヨーロッパにガスを売り込もうとしているのはアメリカで、経済的観点から破壊工作に関心を持つのはアメリカだけだ」というコメントを紹介しています。
(ノルドストリーム2と作業船)
今回のガス漏れについてはまだ原因や背景はわかりませんが、欧米はインフラ施設への警戒を強めるとともにもしロシアの犯行であれば新たな局面に入る恐れがあるとして慎重に調査を進めている模様です。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。