イランでスカーフのかぶり方をめぐり、逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが始まってから2か月以上たちますが、おさまる気配はありません。
当初は女性の権利への抑圧に対する抗議でしたが、このところ激しさが目立つのがクルド、バルチ、アラブといったイランでは少数派の民族が多く住む地域でのデモです。
イラン政府はこうしたデモの背後に国外のクルド人組織がいると見ていて、国境を越えた攻撃を本格化させる構えを示しています。
クルド人は「国を持たない最大の民族」とも呼ばれ、トルコ、イラン、イラク、シリアなどにまたがって2500万人から3000万人が暮らすといわれています。
イラン政府は今、国内ではこの西部で取り締まりを進めると同時に20日には、隣国のイラクのアルビル近郊にあるクルド人組織を狙って攻撃を行いました。
ミサイルと無人機による攻撃で少なくとも1人が死亡、10人がけがをしたということです。
イラン政府は、隣国イラクからイランのクルド人組織に対して、武器の密輸が今も行われていると主張して今回の攻撃を正当化しています。
さらに革命防衛隊の幹部はテロの脅威が続くようであれば、イラクに対して地上部隊の投入も辞さない考えを示したと一部で報じられていて、さらなる攻撃の懸念が深まっているのです。
トルコがクルド人武装組織拠点攻撃 緊張高まる
そしてクルド人に対する攻撃はイラン政府だけではありません。
トルコ政府はシリアとイラクにあるクルド人武装組織の拠点を空爆したと発表し、武装組織の戦闘員など31人が死亡したとされています。
トルコ政府は13日にイスタンブールで80人以上が死傷した爆発の報復措置だと主張していますが、クルド人側はこの主張を否定するとともに応戦していて緊張が高まっています。
同じ時期にクルド人地域に対して攻撃を行ったトルコとイランの両政府ですが、気になるのはこの攻撃を前に両政府の内相が電話会談し、この中でイランのバヒディ内相は「イランとトルコは共通の敵がいる。両国の安全を害する者に対して真剣に協力して取り組まなければならない」と発言していることです。
両国の間に協力の有無があったのか不透明ですが、イランだけでなくトルコもクルド人地域に対して地上部隊の投入も辞さない考えを示したと報じられていて、アメリカなどはこの地域全体が不安定になりかねないとして警戒を強めています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。