ロシアによる軍事侵攻後、ウクライナの通信インフラを支えてきたのが、イーロン・マスク氏率いる「スペースX」が提供する衛星通信サービス「スターリンク」です。
衛星を通じてインターネットに容易に接続できるとしてウクライナでは必要不可欠な存在ですが、マスク氏の言動で波紋が広がっているのです。
そのきっかけは10月上旬、マスク氏がSNSにしたこんな書き込み。
「人口が3倍以上のロシアにウクライナが総力戦で勝利する可能性は低い。ウクライナの人々を気にかけているなら平和を求めてください」などとウクライナ側に多少の譲歩をしてでも和平を求めるような投稿を繰り返したのです。
これに対してウクライナ政府の間からは「戦争を仕掛けてきたのはロシアだ」と反発の声があがり中にはマスク氏に「消え失せろ」とSNSに書き込んだ外交官もいたのです。
マスク氏「支払いしなければサービス停止の可能性」と国防総省に書簡
そうした中で飛び込んできたのが「ウクライナでのスターリンク停止の可能性」という衝撃のニュースです。
マスク氏がアメリカ国防総省に書簡を送付しウクライナに現在、無償提供しているスターリンクについて「アメリカ政府が支払いをしなければサービスを停止する可能性があると警告した」と報じられたのです。
またマスク氏は「消え失せろ」と書き込んだ「外交官の勧告に従っているだけだ」とSNSに投稿し、外交官の書き込みを理由に撤退を示唆してさらに物議を醸したのです。
実際はというと、マスク氏が国防総省に書簡を送ったのは、9月。
つまり外交官が書き込みをする前のことなので、本当の理由は無償でサービスを提供するのには限度があるという金銭面が理由と見られています。
米国防総省やEUが支払いを検討?
スターリンクはウクライナ側にとって戦場でも欠かせない通信手段となっており、万が一サービス停止となると大きな痛手です。
イーロン・マスク氏は結局、態度を突然変え、無償でのサービスをこれまで通り続ける意向を表明しました。
ただ「他の企業は納税者から何十億ドルも受け取っているのに、われわれは無料でウクライナ政府を支援し続けることになる」と不満もこぼしています。
そのためか一部の報道では、アメリカ国防総省やEUなどがスターリンクのサービスの支払いを検討しているとも報じられているのです。
今回の戦争では、イーロン・マスク氏を始め、マイクロソフトやアマゾンなど民間の大手IT企業が極めて重要なプレーヤーとなっていますが、その報酬をめぐるきしみが表れ、戦局にも影響を及ぼすのか懸念がくすぶりそうです。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は3分10秒あります)