【徹底分析】ロシア市民 軍事行動支持に世代間ギャップ 民族問題の影も

NHK
2022年8月5日 午後6:24 公開

旧ソビエト時代から長年ロシア取材をし、プーチン大統領に詳しく、側近とも直接、話したこともある石川一洋専門解説委員がロシアを読み解きます。


(この動画は6分15秒あります、2022年8月4日に放送したものです)

油井秀樹(「国際報道2022」キャスター):ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が今週、「ウクライナとの紛争」に関する世論調査の結果を発表しました。「レバダセンター」は、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。石川さんは今回の世論調査の結果のどこに注目しましたか。

石川一洋専門解説委員:この世論調査は3月から毎月行われ今回が5回目です。「軍事侵攻を支持する」が76%で非常に高いのですが、大きく見ると「"戦争"を支持する」が約4分の3で「支持しない」もしくは「回答しない」が合わせて4分の1で大きな変化はありません。ただ世代の間で戦争への態度で大きな差が出ています。

石川一洋専門解説委員:24歳以下の若者では34%が「支持しない」、「支持する」のは57%だけです。一方世代が上がるにつれて"戦争"支持が増えて、55歳以上では84%に上ります。

油井:なぜ世代間で支持に差が出るのですか。

石川一洋専門解説委員:2つ理由があります。ひとつは情報の入手方法、もうひとつは現在の安定か、それとも将来の可能性か、そのどちらを重視するかということです。情報の入手方法の違いですが、若い人はデジタル世代でSNSを含めて戦争の状況について、より多様な情報源を持っています。これに対して高齢者はテレビが主な情報源となり、ロシア政府のプロパガンダにさらされています。若者にとって長期化すれば動員され、みずからの命が危うくなるという意識も支持しないにつながっています。そしてロシアが孤立化すれば、将来の可能性が失われるという意識も持っているでしょう。それに対し高齢者は現在の安定がより大切だということです。

油井:高齢者の支持はかなり堅そうですね。

石川一洋専門解説委員:高齢者の心の中は別の質問を見てみますと、かなり揺れていることがわかります。

石川一洋専門解説委員:「ウクライナとの紛争を懸念しているか」という質問では、「状況を懸念している」と答えたのは、55歳以上が実に92%と際立って高くなっています。私はこの世代とソビエト連邦崩壊など大激変の時代を若い時に一緒に過ごしよく知っているのですが、かつては欧米への開放に熱狂した世代です。しかし国の混乱に翻弄される中でプーチン大統領による安定を支持するようになりました。戦争で安定が崩れてほしくないと願いながらも心の奥底では不安に思っている。それが92%という数字に表れているように思います。

油井:こうした人々の不安はどんな影響を与えていますか?

石川一洋専門解説委員:ロシアのSNSを見ていますと、この戦争は民族問題を顕在化させる可能性があると私は感じています。

ロシアは国民の8割が民族的にロシア人ですが、180を超える少数民族もいる多民族国家です。ロシア国内に民族共和国も21あり、モンゴロイド、仏教を信ずる民族もいます。ロシアの中には「アジア」が生きているのです。例えばシベリアのブリヤート、トゥヴァ共和国です。こうした「ロシアの中のアジア」には戦争への強い拒否反応が生まれようとしています。

「ロシアのアジア人」代表 ワシーリーさんは「我々にとってウクライナ人は決して敵ではない。1万キロも離れたウクライナとの間で何の対立があるというのだ。プーチンとその側近たちは自分たちの戦争を押しつけているのだ」と話しています。

油井:押しつけられた戦争と明言していましたが、こんな発言して大丈夫なのですか?

石川一洋専門解説委員:戦争反対を明示してから捜査を受けそうになっていましたが、今はジョージアに移住して安全です。この「ロシアのアジア人」というグループは、もともとはアジア系の民族の文化を紹介する団体でした。しかしこの戦争によって、まさに「ロシアのアジア人」が犠牲となっていると感じ、戦争反対の立場を明らかにしました。

石川一洋専門解説委員:ロシアの独立系メディア「メディアゾーン」が公式発表や葬式などの件数を独自にまとめて確認したロシア兵の戦死者は、5185人(7月29日現在)。そのうちモスクワは11人、サンクトペテルブルクは35人。これに対してコーカサスやシベリアの民族共和国は多くの戦死者がいます。モスクワの人口は1260万、ブリヤートは人口98万ですが、戦死者はブリヤートがモスクワのほぼ20倍なのです。

なぜ若者たちがロシア兵となるのかと聞くと、先ほどの「ロシアのアジア人」代表 ワシーリーさんは「若者はプロパガンダの影響で貧しさから抜け出すために志願兵として戦場に行く。しかし十分な訓練を受けていないので2週間~1か月で戦死してしまうことが多い」と話しました。

この団体ではアジア系の若者に志願しないよう呼びかけたり、あるいは早く除隊する支援をしたりしています。若者の棺が民族共和国の故郷に次々と戻ってきますと、反ロシアの感情が強まり、ロシアそのものを揺るがす要因となるかもしれません。