アメリカ “中国のサイバー攻撃”を警戒 (油井’s VIEW)

NHK
2023年5月30日 午後5:36 公開

米中の対立が世界経済に及ぼす影響が懸念されている中、アメリカのレモンド商務長官と中国の王文涛(おう・ぶんとう)商務相がアメリカで会談しました。

こうした中、アメリカ国防総省でインド太平洋地域を担当するラトナー国防次官補は、25日、6月にシンガポールで開かれる「アジア安全保障会議」に合わせて、アメリカ側からオースティン国防長官と中国の李尚福(り・しょうふく)国防相との会談を中国側に打診していると明らかにしました。

アメリカとしては、両国の国防相どうしが対面で会談する機会につなげたい考えとみられます。

(「国際報道2023」で5月26日に放送した内容です)


 
アメリカは閣僚レベルで中国との対話に乗り出していますが、一方で、今週、中国によるサイバー攻撃に対する懸念も改めて注目されました。

アメリカのIT大手、マイクロソフトが出した報告書で、「ボルト・タイフーン」と呼ばれる中国のハッカー集団が、アメリカの重要インフラを狙ってコンピューターシステムに侵入していると警告を発したのです。

侵入の対象には、アメリカ軍基地が集中するグアムのインフラが含まれていることから、台湾有事などの際にインフラを破壊する狙いがあるのではないかという懸念が高まっています。

アメリカ政府は、マイクロソフトの警告を受けて、
「アメリカの情報機関は、中国がサイバー攻撃でアメリカ国内の重要なインフラを妨害する能力があるとみている。石油・ガスのパイプラインや鉄道などで、政府と国民が警戒を続けることが重要だ」と発言しました。
 

酒井キャスター:さらに、中国によるサイバー攻撃の脅威にさらされているのは、アメリカ一国だけではないとして、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、それにニュージーランドのいわゆる「ファイブ・アイズ」が声明を出して、中国がインフラを狙ってサイバー攻撃を仕掛ける恐れがあると警告し、警戒を呼びかけたのです。

これに対して中国政府は、「アメリカが政治的な目的でファイブ・アイズを通して行っている偽情報だ。企業も参加させて、アメリカは偽情報を広めるために政府機関以外の新たな方法を開拓している」と反発しています。
 

油井キャスター:中国は反発を強めていて、アメリカのバイデン政権に対して中国との対話を望むなら中国に対する制裁を解除するなどして対話にふさわしい環境を作るべきだと主張しています

一方、アメリカ議会では、野党・共和党で、議会下院のマコール外交委員長が、今月、バイデン政権に対して書簡を送り、対話を重視するあまり、中国に対して制裁の発動を控えるなど弱腰になっていると指摘し警告しているのです。

バイデン政権は、国際的な問題を解決するためにも中国との対話は必要だと強調していますが、その対話は、良好な関係を目指すというよりも、あくまでも衝突のリスクを回避し、関係を安定させるための対話となりそうです。
 


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は2分43秒あります)

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