ロシアによる軍事侵攻を受けて、母国を離れたロシア人はこの1年あまりで50万人から100万人とも報じられています。
また、ロシア国内でもプーチン政権に不満を抱く人は少なくないと見られています。
こうした状況を絶好の機会ととらえているのが、アメリカのCIA=中央情報局です。
(「国際報道2023」で5月17日に放送した内容です)
CIAは、プーチン政権に不満を抱くロシア人をスパイとして雇おうと、ロシアの今の生活に疑問を抱かせるような動画をロシアのSNSなどに掲載したのです。
「心の中に変化が起きている。私の国にはその変化が見えないが、私にはその変化がはっきり見える。あなたは力を持っている。安全な方法で私たちにご連絡ください」
そして、動画の最後にはCIAに連絡するよう、ロシア語で呼びかけているのです。
CIAは、ネット上で提供するCIA独自のブラウザをダウンロードして連絡するよう求めていて、安全にコンタクトできると主張しています。
酒井キャスター:ここまで力を入れているんだと驚きました。
CIAのこの動画に対して、ロシアの大統領府は、次のように反応しています。
「(CIAの動画を)見ていない。 ロシア国内でCIAなどが活動を続けていることは、完全に把握している」
油井キャスター:実は、アメリカ政府でロシア人を協力者に仕立てようとしているのは、CIAだけではありません。FBI=連邦捜査局も同じような動画を3月にSNSに掲載しているのです。
「ロシアの軍事侵攻は1年が過ぎた。ウクライナとロシアの両国が傷ついている。あなたたちは、将来を変える力がある」
こちらは主に、アメリカに暮らすロシア人を対象に、ロシア語で協力を呼びかけているのです。
こうした背景には、実際にプーチン大統領の警護官だったとされる男性が海外に逃れて、プーチン大統領の状況を明かしたケースや、ワグネルの元指揮官が亡命を申請したケースなど、ロシア人からの告発情報が少なからずあるからだとみられています。
アメリカの情報機関によるスパイ勧誘作戦。
実際の効果は不透明ですが、ロシア国内で厳しい情報統制で反戦運動が抑え込まれているだけに風穴(かざあな)を開けようと躍起になっているようです。
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は3分1秒あります)