ウクライナ政府は国際社会が制裁で凍結したロシアの資産によって、ウクライナの復興資金をまかなうべきだと提案しています。
これまでに欧米や日本などが凍結したロシアの資産は、中央銀行3000億ドル、政府高官やオリガルヒなどで300億ドルの合計3300億ドル、日本円にして45兆円に上ります。
しかし問題は、「凍結」した資産を各国政府が「没収」までできるかどうかです。
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資産を「没収」して「売却」し、その資金を復興資金にあてる案には多くの賛成意見がある一方で、強権的に所有者が変更されるため、国際法上認められない恐れもあるという否定的な意見も根強いのです。
カナダ・イギリス、各国で広がる「没収」可能にする法整備
こうしたことからカナダでは5月下旬、ロシアの凍結資産の「没収」を可能にする法案を成立させており、フリーランド副首相兼財務相は、「我々の法的権限を拡大することは非常に重要だ。なぜならウクライナを再建する資金を見つけることが大事だからだ。ロシアの資産の没収こそが考えられる最も適切な財源だ」と述べています。
この問題はG7首脳会議でも議論され、カナダで法案が成立したのを受けて他の国でも法整備の動きが広がるかが焦点でしたが、共同声明では「国内法に合致してロシアの凍結資産をどう活用するかを含め、復興支援の選択肢を模索する」という慎重な言い回しとなりました。
これはG7の間で考え方に違いがあることが、その背景にあると見られていますが、今週、イギリスのトラス外相は「イギリス政府はこの恐ろしい戦争に関わった人たちの資産を没収するための法整備を検討している。ウクライナ再建のために極めて重要だ」と発言し、カナダに続いて法整備に前向きな考えを示したのです。
ウクライナの復興に向けてロシアの凍結資産を「没収」できるのかどうか。
ロシア政府の報復措置も予想される中、G7や欧米が足並みを揃えた行動に出られるのかが課題となっています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。