ことし4月の統一地方選挙では女性議員の増加が目立ちました。岐阜県議選でも女性の当選者が前回の4人から6人に増えて過去最多になり、岐阜県内の市町村議選でも36人から43人に増えました。
一方で、女性議員の割合は、県議が13%、市町村議が15.7%と、男性に比べてまだ少ないのが現状です。背景には何があるのでしょうか。
町のしきたりや慣習がハードルに
岐阜県富加町議会の林由香里さん(58)です。4月の町議会議員選挙でトップ当選しました。実は昭和49年に町制が始まって以降、町議会で女性が議員になったのは林さんが初めてです。
富加町議会 林由香里 議員 「富加の歴史を変えるという意味でも、女性が出てきて初めてバッジを付けたという意味でも重いバッジだと思います」
なぜ女性議員がいなかったのか。
林さんが背景にあると感じているのが、選挙の際の慣習です。町では男性が自治会の役職を務めることがほとんどで、そうした人が声をかけられて選挙に立候補することが多く、女性の機会が限られていたといいます。
富加町議会 林由香里 議員 「自治会の皆さんの支持を得ないと、なかなか(選挙に)出にくいというのが現実です。ちょっと厳しい言い方をされた方もみえました。『この自治会に対して何をやってきたんだ』と。だけど、その方たちも皆さん、私の思いを聞いて非常に納得してくださって、最終的にはその方たちがみんな応援に回ってくださった。本当にそれが一番ハードルだった」
制度や家庭という壁も
制度や家庭が壁になってきたとの声もあります。岐阜県議会の野村美穂さん(54)です。
4月の選挙ではトップ当選し、県議会初の5期目の女性議員となりました。
初めて立候補したのは16年前の2007年。3歳と生後およそ半年の子どもがいましたが、子育てとの両立を前提とした環境は整っておらず、夫や両親のサポートが必須でした。
岐阜県議会 野村美穂 議員 「控え室に『すみません、ベビーベッドを置かせて下さい』みたいなことを言える雰囲気はまったくなかった。保育園に預けるっていうのだったら、『議員になるって言っちゃだめだよ』って言われるようなかんじの期間だったと思います」
選挙活動中の保育所利用についてはことし3月、岸田総理が可能だとする考えを示しました。ただ、判断は市町村に委ねられていて、家庭の理解も欠かせない状況です。
岐阜県議会 野村美穂 議員 「活動に応じて子どもを保育所に預けられるということができれば、ひとまず、そこの問題はクリアできるのかなと。女性で議員になることに対して前向きであっても、やっぱり子育てを考えたときに『夫の協力は得られない』と言われて、とても先に話が進まないということはある。『(子どもの)面倒を見られないからその話はなしじゃない?』っていうふうになってしまう」
女性議員の“現在地” 重鎮はどう見ている?
この人はどう考えているのか。
現職の女性衆議院議員で最多の10期目となる野田聖子さん(62)です。
26歳で県議会議員になった当時、県議会に女性は2人だけ。衆議院選挙で初当選したとき、女性は当選したおよそ220人の自民党議員の中で、ただ1人でした。
衆議院 野田聖子議員 「私はその時まだセクハラって言葉も定着してない日本にいたので。ロールモデルがいなくて、本当に無駄なことが多かったし、煩わしいことも多かった」
それから30年。女性活躍の担当大臣も務め、統一地方選挙の結果にも一定の手応えは感じています。
衆議院 野田聖子議員 「積み重ねてきた政策、法律が、じわじわと効いてきたかなと思っています。一つは政治分野における男女共同参画促進の法律、もう一つその上に乗っかったのが、やはり子ども家庭庁の創設。統一地方選挙のメインがそういう子育てについての政策の議論になったので、やっぱり議員の男女の数はイーブンじゃないとバランスがとれないなということで、土壇場のところは女性というふうになったのかなと思います」
それでも議員に占める女性の割合はまだ低い状況です。女性の政治参加を進めるには、 政治塾の開催など、地道な取り組みを続けることが重要だといいます。
衆議院 野田聖子議員 「女性が政治を目指すって言うと、地方にいけばいくほど変人扱いされるので、そうじゃないのだと。当たり前のことだっていうことを、女性が集まることで、皆さんに安心してもらう。自己肯定感を上げてもらう。岐阜県をはじめ地方は特に遅れているので、一人ずつでいいから女性の議員を出して、見えるようにすること。一人いれば見えますから。それをここしばらくは続けていくことで、どこかでパーンとはじけるようなそんな予感がしています」
専門家の分析は
政治とジェンダーに詳しい上智大学法学部の三浦まり教授は、地方議会で女性が少ない背景について次のように話しています。
上智大学法学部 三浦まり教授 「政治は男性のものであるといったような社会的な通念が強い地域というのは女性が手を挙げようと思ってもなかなか挙げにくい、場合によっては女性が地域の中で声を出すこともすごく難しい地域もあると思います。また、政党の公認を得るところが男女の候補者にとって第1関門になる。そこの壁が女性の場合、特に高いということがあります。つまり政党はどういう基準で候補者を選んでいるのかということが外からはとても分かりにくい」
三浦教授はほかにも、1人区では女性が擁立されにくいといった選挙制度の課題も挙げています。そして、改善に向けたポイントとして、選挙区の定員を増やすといった選挙制度の改革や、女性が政治を身近に感じられるように、行政に意見を伝え、課題を改善する経験を積む機会を増やすことなども重要だと指摘しています。
日本の現在地は139位
国際機関の「世界経済フォーラム」が格差の解消を目的に公表している「ジェンダー・ギャップ指数」、政治分野で日本の順位は146か国中139位と、国際的に見ても非常に低いのが現状です。また、岐阜県は、統一地方選前のことし3月、三浦教授らのグループが公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で、政治分野では29位と下位にとどまっています。
女性が議員になるハードルは解消されていくのか。そして、民意を代表する議会が市民の状況を反映したものとなっていくのか。今後も続く選挙や、議会の取材のなかで注視していきたいと思います。
岐阜局記者
森本 賢史
2016年入局。金沢局を経て2020年に岐阜局に。県政キャップとして、県内の行政や選挙を幅広く取材。