【第93回】「アイヌ神謡集」

NHK
2022年9月21日 午後5:31 公開

今回、スポットを当てるのは『ケシュ#203』

<プロフィール>

ケシュ#203(ケシュルームニーマルサン)

仲井陽と仲井希代子によるアートユニット。早稲田大学卒業後、演劇活動を経て2005年に結成。NHK Eテレ『グレーテルのかまど』などの番組でアニメーションを手がける。手描きと切り絵を合わせたようなタッチで、アクションから叙情まで物語性の高い演出得意とする。『100分de名著』のアニメを番組立ち上げより担当。仲井希代子が絵を描き、それを仲井陽がPCで動かすというスタイルで制作し、ともに演出、画コンテを手がける。またテレビドラマの脚本執筆や、連作短編演劇『タヒノトシーケンス』を手がけるなど、活動は多岐に渡る。オリジナルアニメーション『FLOAT TALK』はドイツやオランダ、韓国、セルビアなど、数々の国際アニメーション映画祭においてオフィシャルセレクションとして上映された。

ケシュ#203さんに“「アイヌ神謡集」知里幸恵”のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

今回、アニメーションの方向性を考えるうえで大切にしていたことは、見た目の「アイヌらしさ」ではなく、アイヌの人々が自然や環境をどのように捉えていたかを想像することでした。

アイヌ文様が、自然の事象を抽象化しているように見えることから、アニメーションにも自然事象の抽象化、記号化の考えを取り入れ、木々や雲の形に丸や三角などの幾何学模様を入れ込んでデザインしました。

また、絵作りの質感で参考にしたのはアイヌ民族の着物です。刺繍が施されている着物を見て、木綿布をテクスチャーのベースにしようと決めました。

神謡には様々な動物が出てくるので、それぞれの動きの特徴を出すこともチャレンジの一つでした。動物たちのほとんどはカムイなので、意思があり感情があります。時にコミカルだったりシリアスだったりする振る舞いを通して、アイヌの人々の見ていた世界の豊かさを垣間見ることができたらと思って演技を付けました。

今回、アイヌの文化を取り扱うにあたって差別表現や事実誤認などが無いよう、番組同様、アニメーションも知里幸恵 銀のしずく記念館館長の木原仁美さんと指南役の中川裕さんに監修して頂きました。

アニメーションは単純化することが特徴ですが、そこには危険性もあります。分かりやすく伝えようとディティールや複雑性を排したつもりが、無知ゆえに何が本質か区別がつかず、枝葉を落とすつもりで幹を切ってしまうことも起こります。

そういった無理解が差別を助長する一端になると思っているので、慎重に制作し、完成まで何度も手直ししました。

アイヌ民族を迫害し、文化を破壊してきた和人の立場として、彼らの文化をアニメーションで語るということに正直なところ葛藤はありましたが、何かを踏みつけて立っていることの重み、加害の歴史に目を瞑らず、まずは知るということを起点として、今出来ることはないか、過去から学ぶべきことはないかと模索し続ける日々です。

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