【第82回】ヘミングウェイ スペシャル

NHK
2021年10月18日 午後7:12 公開

今回、スポットを当てるのは『川口恵里(ブリュッケ)』

<プロフィール>

演出・イラスト:川口恵里(ブリュッケ)

多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。2016年より株式会社ブリュッケに所属。アニメーション作家/イラストレーターとして、TV番組、企業CM、音楽PV、ワークショップ等、幅広く手掛ける。線画台を用いた、空間と光を活かした画づくりが得意。

川口恵里さんに「ヘミングウェイ スペシャル」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

第1回、第2回の「老人と海」に取り掛かる際に、参考として見たアニメーション映像がロシアのアニメーション作家アレクサンドル・ペトロフの「The Old Man and the Sea 老人と海」という作品でした。ガラスペインティングという手法で、油絵で一枚一枚書き起こしたような壮大な自然の美しさと過酷さが表現されていてあまりにも素晴らしすぎて、限られた時間の中で、自分は何を描いたらいいのだろうかと凹みました・・・

そんな中、第4回にとりあげる「移動祝祭日」の冒頭で、ヘミングウェイが、新しい作品や仕事で、先に進めない時に自分自身に話しかける言葉が書かれていました。少し長いですが引用します。

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「心配しなさんな。おまえはこれまでちゃんと書き継いできたんだ。こんどだって書けるさ。やるべきことは決まっている。ただ一つの真実の文章を書くこと、それだけでいい。自分の知っているいちばん嘘のない文章を書いてみろ。」で、私はどうにか一つの真実の文章を書き、そこからまた先に進む。あの頃、それはさほどの難事ではなかった。なぜなら、自分の知っている事柄、見たことのある事柄、他人が口にするのを聞いたことのある事柄を表現する真実の文章は必ず存在したからである。もし書き出しが妙に凝っていたり、何かを紹介するか提示するような調子になっていたりしたら、そういう凝った渦巻模様や無駄な装飾は潔くカットして投げ捨て、最初に書き記した簡素で平明な文章に立ち戻っていいのだということに私はすでに気付いていた。

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自分の都合の良いように解釈しているところはかなりあると思いますが、これを読んで、個人的にだいぶ勇気づけられましたし、絵やデッサンを学んだときから一番学んだことはこれだったし、今まで自分なりのものを描けたな。と実感があったときはこうやって考えてたし、驚くほどすっかり忘れてたなぁと思いました。

絵に限らず、すとんと腑に落ちる話をする人の言葉のその節々に感じるものと一緒だしシンプルな文体を好んでいたヘミングウェイの回だということもあり、憧れるようなダイナミックなカメラの動きや生き生きとしたアニメーションは諦めて顔に押し付けられた魚や生臭さ体の痛みとしんどさ、朦朧とした中で自分だったらどんな姿勢になるか、夜の海に1人浮かぶ途方もない孤独さや残った骨の哀愁やその中でも美しいと感じるものを少しずつ描けたらと思って取り組みました。

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