【第88回】「砂の女」

NHK
2022年6月17日 午後6:07 公開

今回、スポットを当てるのは『高橋昂也』

<プロフィール>

高橋昂也 1985年 愛知県生まれ。

東京藝術大学大学院デザイン科修了。

アニメーション作家・イラストレーター。フリーランス。

テレビ、博物館、ゲームなどの分野で活動する傍ら、自主作品の制作も行なう。

高橋昂也さんに “「砂の女」安部公房” のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

本作はとにかく砂!砂まみれです。視覚的な面白さが満載で、映像化する機会をいただけたのが嬉しくて仕方なかったです。

ただ、設定は奇抜なのに空想という感じがまったくしなくて、確かな質量を感じます。想像だけで絵にすることにためらいがあったので、思い切って鳥取砂丘に行きました。砂だけの世界をさまよって、小説で描かれる景色や砂の感触を少しでも理解したかったのです。

後になって小説のモデルは別の場所だと知り、また、かつてはこういう場所が点在していて、切実な光景を切り取っているということを知りました。SF的な世界にも見えるし、日本に実在する風景でもあるというバランスは大事にしたいと思いました。

物語に登場するのは、基本的に砂・人体・空・水という、ごく限られた素材だけで、その中でやれることを全てやり切っているミニマルな格好良さがあります。アニメーションでも、その削ぎ落とされた魅力を引き出したい気持ちがありました。

閉じた世界の内側にある砂と人体は無色で同列、均質に扱って、外側の世界に属す空と水は象徴的に色を着けました。限られた素材で具象に徹することで、安部公房の設計した緻密な箱庭世界を視覚化しようと試みました。

人間に関しても、生理学的な視点で冷ややかに観察されるという感じだったので、身体の形態や、砂のこびりついた皮膚の質感に注視した描写を重ねていきました。

登場人物の心理は生理現象として表面化するので、記号化した心理描写が不要だと気づいたとき、この小説はこどごとく目に見える・触れられる物質と形態で出来上がっているとわかり、改めてその凄さを思い知りました。

映像化したい気持ちを掻き立てられるのも、そのせいかもしれません。

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