【番組のきっかけ】　 メークについて取材をしていた番組ディレクター。あちこちで耳にしたのが、NYで活躍する日本人メークアップ・アーティスト・西村宏堂（にしむら・こうどう）さんの名前でした。調べると、1週間後、講演のために日本に帰国するとのこと。さっそく話を聞きに行き、自分だったら耐えられないような孤独を体験してきたことや、それを乗り越えるまでの話を率直に語る人柄に惹かれたそうです。 宏堂さんが繰り返し語ったのが、「私は、美しい人を美しくするためじゃなく、自分みたいに辛い体験をした人を応援するためにメークをしている」 ということでした。そして、どんなに忙しくても、年に一度は日本に帰国し、様々な悩みを抱えた人のために、無料のメーク教室を開いていることを知りました。 実は、自分自身が、仕事や私生活に自信を持てずに生きてきたというディレクター。本当にメークで内面から変わることができるのだろうか…。参加した人たちに自分を重ねながら、レッスンに密着する取材が始まりました。 【取材で心掛けたこと】 メーク教室に参加したのは11人。「全体講習」と「個別指導」が、15日間の中で行われます。 取材を始めるにあたって、ディレクターが決めたことが一つあります。参加する11人への事前取材を一切せず、この15日間一本勝負に賭けることにしたのです。予断を持たずに、それぞれの人が自分自身と向き合っていく課程を、ゼロから追っていくためでした。教室での様子、直接の取材、宏堂さんとのやりとりなど、アンテナを張り巡らせながら、11人の人たちを見つめていきました。 ロケの最中は、どんな番組になるのか、不安がつきなかったそうです。この人は本当に内面まで変わっているのか？　こんなに重い苦悩が、メークだけで解消するのか？　メークの瞬間は変わったとしても、それは持続していくものなのか…？ たぶん、番組を見ている人もこうした疑問を感じていくと思います。果たしてその答えは見つかるのでしょうか…。番組中盤、ナレーションをお願いした青木崇高さんが、感動のあまり嗚咽し、しばらく収録がストップした場面がありました。メークで人の心は変わるのか…。その答えとなる、奇跡のような瞬間をぜひみて欲しいです。 【印象に残ったこと】 宏堂さんが母校を訪れるシーンがあります。当時の記憶がよみがえり、辛そうな様子を見せます。実はこの場面、宏堂さんが「卒業以来、母校に行っていないので行ってみようかな」と言ったので、同行させてもらいました。 ディレクターは、辛そうな様子を見て心配になり、「撮影のために、無理して来てくれたのではないですか…」と尋ねました。宏堂さんは否定し、こう答えました。「辛い体験を乗り越えようとする人の背中を押すためには、私ももう1回、あの頃の自分の気持ちに戻らないといけないと思って来たんです」――。ひとりひとりの辛さに真剣に寄り添い、本気で応援しようとする宏堂さんの核心に触れた気がします。 「自分みたいに辛かった人が、生きていていいんだと思ってもらいたい」――。 “自分に自信がない、でも変わりたい” と思っている人たちに、宏堂さんのメッセージが届いてほしいと思います。