コロナ禍に突入した２年前。何もかもがストップした世の中と同じく、私も公私共に既存の価値観ややり方が通用せず、歯がゆい思いを味わいました。そんななか、少しでもこの時代を生き抜くマインドが知りたくて、「コロナ禍でも前を向く人」を取材してきました。業態転換に挑む飲食店の店主たち、休演期間を乗り越えて復帰を目指すダンサー、帰国を余儀なくされても途上国の陸上選手のサポートを続ける海外協力隊員etc… そんななか出会ったのが、当時１８歳だった日向風花さんです。初めて見かけたのは、全国でまちづくりをしているキーマンたちが集まるオンラインイベント。オンライン授業を逆手にとり、横浜から尾鷲に移住して現場で地方創生を学ぶというその行動力、そして「大学の授業なんて机上の空論だ」と言い放つ瑞々しい姿に、「この子は面白い！」とすぐに電話をかけました。 　取材を始めて驚いたのは、至って“普通”の大学生だったということです。センセーショナルな学生生活を送っているはずが、起業するような「目立つ」学生でもないし、世界を旅してきましたというようなアウトローなタイプでもない。インターンをしながら自分の至らなさに凹んだり、都会っ子らしく自然やその土地の食べ物にはしゃいだり、故郷の親に反抗して周りの大人を心配させたり・・・。 　でもそんな等身大の姿こそが、この混沌とした状況のなかでつい何か特別な力が必要だと考えてしまう私たちが、社会を生き抜くヒントになり得るのではないかと今は思えます。番組の中で風花さんは、これまでとは違う自分になりたい、大切な人たちの役に立てる人間になりたいともがき続けます。まだ若く何者でもないからこそ、何者かになろうとする。逆に言うと何者にでもなれるその姿は、風花さんを取り巻く尾鷲の人たち、そしてコロナ禍でたくさんのものを失った私たちが、新しい生き方を選ぶための勇気を与えてくれます。 　一方でもし、社会で「役に立つこと」や、「存在意義」を持つことにこだわり続ける若者が自分の傍にいた時、私たちは何と声をかければいいのか。きっとこんな時代だからこそ、「焦らないでほしい」、「自分らしくいて欲しい」という気持ちを如何に言語化するか、態度で示すかと模索するのではないでしょうか。そんな人たちと共に過ごした風花さんが、自分の役割を模索した末に辿り着いた今の答えとは？是非「目撃」していただければと思います。 　最後に、約１年に渡る長期取材を受け入れてくださった尾鷲市向井地区の皆さんには、大変感謝申し上げます。地方局のディレクターとして各地を取材するなか、元気のある町の共通点は、若者の挑戦を受け入れる土壌があることだと感じています。そういった意味で、向井は可能性の塊のような場所です。風花ちゃんや岳君、そして向井を訪ねてくる若者たちと共に、地域の未来を創っていくその日々が、かけがえのない時間なのだと思います。今回はその出発点を、番組の中に収めました。番組の中ではまだ未完成の農園が、いつか多くの作物と人々の笑顔で溢れた時に、この番組を見返して「あいつは肝心な時にカメラ回してないな」と懐かしむ日を楽しみにしております（笑）。