板谷波山の郷里・茨城県で作品が収蔵されている美術館

NHK
2023年2月12日 午前9:31 公開

茨城県陶芸美術館で開催されている「生誕150年記念 板谷波山の陶芸」展の模様。

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは2/12放送「完璧なやきものを求めて 板谷波山の挑戦」に合わせたコラムです。番組では日本近代陶芸の最高峰・板谷波山の美と技について掘り下げましたが、HPでは波山の郷里である茨城県の美術館で作品が多くコレクションされている状況を紹介します。こちらもあわせてどうぞ。

地元での収蔵が充実している板谷波山

板谷波山の作品は出光美術館、泉屋博古館東京、敦井美術館などでのコレクションがよく知られています。一方、波山は故郷を愛し、地元の人たちからもこよなく愛されてきた歴史があり、茨城県内でも板谷波山の作品や資料の収蔵が充実した美術館が複数あります。板谷波山に関心のある人はぜひ一度、その地元を訪れることもおすすめします。生まれ故郷の筑西市では、古くから営業しているお店に入ったときに町の人から波山さんにまつわるエピソードなども聞けたりして楽しいですよ。

板谷波山記念館

板谷波山記念館にて保存されている板谷波山生家。江戸時代中期の木造平屋で築200年以上。

下館(現在の茨城県筑西市)はかつて大変栄えた商業都市で江戸時代には「関東の大阪」と呼ばれたほどでした。板谷波山の生家は藩の御用商人も務めた荒物問屋で、板谷波山の父・増太郎は茶道など嗜む文人気質。そのため波山は幼少期から陶器や諸道具に親しみがあったそうです。まさに板谷波山のルーツと言えます。今でも当時と同じ場所に江戸時代に建てられた生家が残り、記念館の一部になっています。

東京の田端にあった板谷波山のアトリエから窯も移築されており見応えがあります。陶芸家として立つ決心をして間もない、まだ貧しかったときにレンガを買い集めて夫婦で手作りした窯ということですが、三方焚口倒焔式レンガ丸窯という形式で当時の日本では最新式の窯でした。また館内には作品も展示されていますが、資料類も充実しています。学芸員の方の説明も丁寧で、波山に興味のある方は訪問必須の場所と言えます。

記念館が面する田町交差点と、そこから東へ向かった次の金井町交差点との間には昔の下館を彷彿とさせる伝統的建造物が多くあります。そうした建物のひとつで料亭の「荒為」は映画『HAZAN』の撮影地として使われた場所でもあります。記念館のそばには古くからの和菓子屋が何軒もあり、「壺最中」や「鳩杖(はとづえ)最中」といった、波山ゆかりのお菓子にも出会えます。記念館は駅から歩いていける距離にありますので散歩しながらどうぞ。

東京・田端のアトリエから移築した、実際に波山が使っていた窯。 画像提供=板谷波山記念館

しもだて美術館

しもだて地域交流センター・アルテリオの3階に「しもだて美術館」が入る。板谷波山記念館から歩いてすぐ。

下館駅から板谷波山記念館に行く道の途中にあるガラス張りの建物、しもだて地域交流センター・アルテリオの3階にあるのが、郷土ゆかりの作家の作品を収蔵するしもだて美術館。見どころのひとつは土浦市の波山コレクターとして知られた神林氏から寄贈された「神林コレクション」が観られる点です。波山関連の企画展がないときには常設で数点程度が観られるのみですが、それでも見応えがあり特に茶碗類が充実しています。他に1911年に皇后陛下の御前において制作した「彩磁菊花図額皿」や、金魚の図案をアール・ヌーヴォー風にあしらった初期の名品「彩磁金魚文花瓶」なども収蔵しています。板谷波山記念館とセットで訪れると良いでしょう。

板谷波山の茶碗類が充実している。

廣澤美術館

廣澤美術館内観。板谷波山の生涯で最大作として知られる大花瓶「彩磁蕗葉文大花瓶」を収蔵。※常設はしていません。 ©2021廣澤美術館

筑西市にある企業グループの会長を務める廣澤清氏が数十年かけて収集したコレクションを展示する美術館として2021年にオープン。波山に関しては50点を超す収蔵点数の多さもさることながら、「彩磁蕗葉文大花瓶」「彩磁草花文花瓶」など代表作を多く収蔵しています。葆光釉を使った作品や香炉の名品など見どころが多く、また波山の活動期の頂点とも言える大正〜昭和前期の作品がコレクションの中核をなしている点も魅力です。

下館駅から車で約10分かかりますが、美術館の建築が、新しい国立競技場の設計を手掛けたことで知られる隈研吾の作であったり、美術館の周りを囲む枯山水の日本庭園が昭和を代表する作庭家・重森三玲の弟子である齋藤忠一が手掛けていたり、館内以外にも魅力が多いです。ただし板谷波山の作品は常時展示されているわけではないので、必ず事前に確認してから行かれることをおすすめします。

廣澤美術館外観。建築家・隈研吾が設計し2021年にオープンした。 ©2021廣澤美術館

茨城県陶芸美術館

茨城県陶芸美術館。茨城県ゆかりの陶芸家、板谷波山と松井康成の作品を常設するコーナーがある。

さまざまな角度から陶芸を中心とした工芸の名品美に触れられる企画展が毎年4本程度行われており、企画展ごとに訪れる価値のある陶芸美術館です。笠間市にある美術館だけに現代の笠間焼に関する常設も充実しています。陶芸に興味のある方はぜひ合わせて訪れると良いでしょう。

板谷波山に関しては「葆光彩磁孔雀尾文様花瓶」「彩磁延壽文花瓶」など約40点の作品を収蔵しており、館内に常設コーナーもあります。美術館の庭には映画『HAZAN』のロケで使用された住居と窯を再現したセットが移設されています。外から見ることは開館時ならいつでも可能。この度の「生誕150年記念 板谷波山の陶芸」展(〜2/26)の期間中は、土日に内部公開もされています。また呈茶会という茶会のイベントがこのロケセットの中で行われました。皆さんでお茶を召し上がった後、何と本物の波山の器をガラスケース越しでなく間近で眺められるという特典付きだったそうですよ。

映画『HAZAN』で使用されたロケセットが移築されている。