世界の子どもたちの絵をつなぐ「カナガワビエンナーレ国際児童絵画展」

NHK
2022年8月14日 午後8:00 公開

第10回(1999年)出展作品 ナストーヤ・トヴァリョーヴァ「私の世界」応募時点10歳 ウクライナ(財)日本ユニセフ協会会長賞 ©神奈川県

「ウクライナ 子どもたちの1000枚の絵 〜北海道・巨大じゃがいもアート館〜」放送詳細はこちら

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは8/14放送「ウクライナ 子どもたちの1000枚の絵〜北海道・巨大じゃがいもアート館〜」に合わせたコラムです。番組では北海道・十勝の美術館「巨大じゃがいもアート館」を取り上げましたが、HPではそこで展示されている多くの絵の寄贈元でもあり、世界中から子どもたちの絵が集まる「カナガワビエンナーレ国際児童画展」にスポットをあてます。カナガワビエンナーレ国際児童画展事務局スタッフに話を聞きました。

第18回(2015年)出展作品 ロウルワ・アカッド「難民少女の親友」応募時点13歳 シリア 公益財団法人日本ユニセフ協会会長賞 ©神奈川県

―カナガワビエンナーレは1979年の国際児童年を契機に、神奈川県の取り組みとして 1981年に始まった国際児童画展ですが、もう40年以上もの歴史になりますね。

ビエンナーレ方式(注:2年に一度開催される美術展覧会のこと)の児童画展として開始して次で第22回になります。最終的に520点の入賞作品が選ばれるのですが毎回2万点近くの応募があるので1万9500枚くらいは選外となってしまいます。それらの作品も事務局の入っている建物「神奈川県立地球市民かながわプラザ(愛称:あーすぷらざ)」で日常的に展示して見てもらえるようにしています。

多いときには100近くの国と地域から参加があります。アフリカの一部の地域など子どもたちに普段絵を描く習慣がないところでも、現地で活動するJICA海外協力隊のサポートのもと応募してこられるケースなどあります。あるいは、活動の関係でその国に滞在していらっしゃる方が橋渡しとなって、日本に帰国する際に現地の子どもたちの絵をカナガワビエンナーレ事務局に届けてくれたり。またその国に渡航するタイミングで賞状を届けてくださったり。人々のネットワークで成り立っている児童画展と感じています。

第20回(2019年)出展作品 アレクサンドロヴ・ニコライ・ロマノヴィッチ「ぼくの街ヤクーツク」 応募時点9歳 ロシア連邦 カナガワ賞 ©神奈川県

―それだけ長く続いているとかつて応募した子どもが成長して大人になって……、子どもたちの“その後”について聞く機会などもありそうですね。

そうですね。この児童画展へは、神奈川県在住・在学か、日本全国の外国人学校在学か、海外在住か、そのいずれかに該当する満4歳から満15歳のお子さんたちが応募可能なのですが、過去の入賞作品を展示していると「この子は今はお医者さんになったんですよ」などと作者のその後について教えていただくことがあります。

一方で、第3回に銀賞を受賞した当時4歳だったイラク在住のお子さんが成人して英国BBC放送の取材チームの通訳職に就いたけれど、取材中、空爆によって命を落としたという、悲しい知らせを受けたケースがありました。今でも作者のお母様がカナガワビエンナーレの賞状を大切に持っていると聞きました。

第3回(1985年)出展作品 カマラン・アブドゥル・ラザック 「喜び」 応募時点4歳 イラク 入選銀賞 ©神奈川県

―カナガワビエンナーレで見る子どもたちの絵は将来の夢や遊んでいる日常の様子を描いた楽しげな作品も多い一方、紛争や暴力、人権侵害、難民問題、環境破壊など世の中の課題を生々しく描いている絵もありますね。

今あーすぷらざで展示している中に、第10回(1999年)の応募作品の中からそうしたテーマを身近な現実としてとらえ選んで見せているコーナーがあります。いつの時代であっても世界では紛争が起こっており、たとえば第18回(2015年)の入賞作品には、シリアからの応募で、女の子がぬいぐるみを抱えながら悲しげな目をしている「難民少女の親友」という絵がありました。

―番組ではウクライナの子どもたちの絵が浅野修さんが運営する「巨大じゃがいもアート館」で展示されている様子を伝えましたが、その中の多くは過去にカナガワビエンナーレに応募された作品ですね。

2022年5月にはあーすぷらざでも、過去の応募作品の中からロシアとウクライナの子どもたちの絵を選んで展示していました。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった後でしたが、子どもたちの絵画に罪はありませんし、垣根を越えた結びつきというのがこの児童画展自体のメッセージですので。絵を見ながら、そこに描かれている日常が今どうなったのかについて思いをはせてもらえればと思いました。

第20回(2019年)出展作品 ラナトゥンガ・アユム・ヘーリタ「『はやぶさ』で宇宙の不思議発見」 応募時点5歳 厚木市 カナガワ賞 ©神奈川県

―今年2022年はカナガワビエンナーレがありますか?

2年に一度の展覧会ですから今年は応募の年にあたり、9月から11月まで募集が行われます。展覧会は来年で、毎年子どもたちの夏休みの時期に合わせて行うので7月上旬に表彰式、その後2か月ほどかけて展覧会が行われる予定です。以前、浅野先生にはカナガワビエンナーレの審査員も務めていただき、「これらの絵たちは絶対に守らなきゃいけない」と仰っていただきました。私たち自身この活動の意義と歴史の重みを感じていますし、これからも子どもたちの絵をつないでいきたいと思っています。

関連情報

第22回カナガワビエンナーレ国際児童画展の作品の応募は2022/9/1から11/30まで。2023/7/11から8/27にかけて神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)企画展示室にて入賞者による展覧会が行われる予定です。

詳しくはカナガワビエンナーレ国際児童画展事務局(あーすぷらざ内)にお問い合わせください。