日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは4/30放送「ポケモン工芸化 大作戦!」に関連したコラムです。番組では国立工芸館の展覧会場からMCのふたりや謎解きクリエイターの松丸亮吾さんと工芸作品になったポケモンたちをレポートしましたが、HPでは番組で紹介しきれなかった作家の作品にスポットを当てます。2人の作家に話を伺いました! こちらも合わせてどうぞ。
植葉香澄 ポケモン×陶磁
植葉香澄 「羊歯唐草文シェイミ」 2022年 個人蔵
――植葉さんは焼きものでポケモンを表現されましたが、表面に描かれた絵付けの模様もかわいらしいですね。
生まれ育ちが京都なのですが、祖父が京友禅の着物の下絵を描く絵師をしていて幼少の頃からずっとそばで見て育ちました。私は陶芸の道に進んだのですが、形をつくるだけではどこかしっくり来なくて、その後絵付けの学校に行き、陶の上から絵付けをするようになって、自分の作品だと感じられるようになりました。今回も、ポケモンたちを草や水などをモチーフにした文様で覆うような姿で表現させていただいています。
植葉香澄 「水文メッソン」 2022年 個人蔵
――日本の伝統文様などが使われているのですか?
青海波(せいがいは)や七宝紋(しっぽうもん)といった日本の伝統文様も好きなので使っています。その一方で、オリジナルの文様をつくったり、西洋の装飾美術などからもインスピレーションを得たりしています。イスラムやトルコの装飾文様にも関心があり、たとえば、くさタイプのポケモンであるサルノリをテーマにした作品には唐草文様をあしらっていますが、実は草のつると一緒に葡萄のモチーフなども描き入れています。トルコの唐草模様には葡萄が描かれていることがよくあるのです。サルノリには金の装飾も施していますが、やはりトルコに金で縁取りされたガラスの工芸品があって、そんなところからもインスピレーションを得ています。
シェイミもくさタイプのポケモンですが、私が住んでいる家の近くに羊歯(シダ)がたくさん生えていまして、その生命力に感化されて、羊歯をモチーフにしたオリジナルの唐草模様をつくってみました。さまざまなものからヒントは得ていますが、最終的には和でも洋でもない、どこから来たかわからないような存在のものをつくりたいと思っています。
――今回のポケモン×工芸の企画に参加してみて、いかがでしたか?
子どもがまだ2歳と小さいのですが、今回私がつくった作品を見て喜んでくれたことが嬉しかったですね。息子はグラードンがお気に入りなのです(笑)。また、今まで工芸の展覧会に足を運んだことのなかったような人たちにたくさん作品を見てもらえて、興味も示してくださっていることが何より励みとなりました!
田口義明 ポケモン×漆工
田口義明 「春を呼ぶ」 2022年 個人蔵
――もともとポケモンのことはご存知でしたか?
私は60代なのでポケモンのことはピカチュウのことくらいしか知りませんでしたが、昔から想像上の生き物と言われているものは、たとえばキトラ古墳に描かれている神獣だったり、たくさんいますね。ですから時代時代でそういうモチーフがあるのは自然なことですし、今の時代の中での工芸という意味で、今回の挑戦を純粋に楽しませてもらいました。
――茶道具の棗(なつめ)に描かれたのはほのおタイプのポケモン、ファイヤーです。黒、朱、金の輝きがとても艶やかですね。
ファイヤーを選んだのは漆の表現との相性が良さそうだと感じたからです。黒、朱、金という色彩だったり、妖艶な美しさだったり……。ファイヤーの身体の部分は純金の金粉で、燃え盛る炎の部分は着色したアルミ粉を使って表しました。蒔絵の技法でアルミ粉を乗せ、その上から漆を塗り重ねることで色が面白い感じで表せるのです。漆を塗り重ねた下の層の方に入った粉はちょっと沈んだ感じに、上の層に入った粉はヴィヴィッドに色が浮かび上がります。また、漆の塗り重ね、あるいはその後の研ぐ過程によって、奥行きや陰影感が出てきます。
田口義明 「乾漆蒔絵螺鈿蓋物『遊』」 2022年 個人蔵
――ファイヤーの他、タッツー、シードラ、キングドラを選ばれたのはどうして?
タッツー、シードラ、キングドラは、一種類のポケモンが2段階進化を遂げるというものです。タツノオトシゴに似ていることから心惹かれました。タツノオトシゴは宇宙生物的というか、とても不思議な生き物で好きなのです。
タッツー、シードラ、キングドラが水の渦の中を泳ぐさまを蓋物の器に描いたのですが、ファイヤーの場合とも違い、この作品では伏彩色(ふせざいしき)というまた別のテクニックを使っています。まずベタ塗りで下地に青く彩色しておいて、その上に白蝶貝(しろちょうがい)を砕いた粉を蒔き、さらに漆を塗ります。そうすると蒔いた薄貝を透して青色が覗く形となり、結果的に貝の光沢と下の色が相乗的になって輝きが増すのです。
――2作品とも共通して、鏡面のような光沢がすごいです。
ここまでの光沢、艶を出すのが大変難しいのです。漆芸作品をつくり上げるには下地づくりから仕上げ塗りまで数十工程あり、漆を塗る回数は何十回にも及ぶのですが、さらに塗るのと同じだけ研ぐ作業があり、何度も何度も研ぎ上げることで、鏡のような光沢に持っていくことができる。すごく手間も時間も掛かる作業です。今回、ファイヤーの方は全行程で数か月。タッツー、シードラ、キングドラの方は下地づくりから含めると全体で1年半くらいかかって、完成に至ることができました。
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撮影:斎城卓
展覧会情報
◎展覧会「ポケモン×工芸 美とわざの大発見」は6/11まで、国立工芸館(石川・金沢)で開催中です。