安藤忠雄 挑戦する建築家の足跡

NHK
2022年11月20日 午前9:00 公開

「六甲の集合住宅 I II III」 兵庫県・神戸市 撮影:松岡満男

11/20「安藤忠雄 魂の建築」放送詳細はこちら

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは11/20放送「安藤忠雄 魂の建築」に合わせたコラムです。番組では建築家・安藤忠雄の最新の作品を中心に紹介しましたが、HPでは番組で取り上げきれなかった安藤忠雄の仕事のさまざまな側面について紹介。こちらも合わせてどうぞ。

四半世紀に及ぶ斜面プロジェクト 「六甲の集合住宅」(兵庫)

1978年、安藤忠雄は六甲山中腹の傾斜地に集合住宅を建ててほしいという依頼を受けました。クライアントは手前の平地の部分に建ててもらうことを考えていましたが、安藤はその後ろに控える60度の斜面に注目しました。

ここでしかできない建物をつくりたい。法規面での調整、複雑な構造計算など困難の連続でしたが、この場所の個性を活かしたいという強い気持ちが勝り結実したのが「六甲の集合住宅」です。

最初の住宅が完成したのが1983年(I期)。その後、隣接地のオーナーからも依頼されたことで六甲の集合住宅Ⅱが実現しました(1993年竣工)。その後も六甲の集合住宅は施主がそれぞれ異なりながらも計画が拡張。Ⅲ期(1999年完成)、Ⅳ期(2009年完成)と、四半世紀にも及ぶ大きなプロジェクトに発展しました。

安藤忠雄建築の宝庫 「ベネッセアートサイト直島」(香川)

「地中美術館」 香川県・直島町 写真提供:安藤忠雄建築研究所

1980年代末、瀬戸内海に浮かぶ小島、直島を「自然溢れるアートの島」として再生すべくスタートした「ベネッセアートサイト直島」プロジェクト。以来30余年、安藤は建築家として関わり続け、今日までに9つの建築を完成させています。

ひとつの節目となったのが2004年にオープンした地中美術館です。そのほとんどが地面に埋まっている地中建築であるにもかかわらず、人工照明は使われておらず照明は自然光によっています。しかも光の入り込み方がさまざま。地中に差し込むというかたちを取ったからこそ逆に多様な光の質を獲得できたのではと思わされる程です。

番組で紹介した直島における最新の安藤忠雄建築、ヴァレーギャラリー(2022年3月開館)でも、光の語りかけを十分に堪能することができます。

現在、直島で見られる安藤忠雄建築はベネッセハウス ミュージアム(1992年)、ベネッセハウス オーバル(1995年)、家プロジェクト「南寺」(1999年)、地中美術館(2004年)、ベネッセハウス パーク/ビーチ(2006年)、李禹煥美術館(2010年)、ANDO MUSEUM(2013年)、ヴァレーギャラリー(2022年)です。

※「オーバル」と「パーク/ビーチ」はベネッセハウスに宿泊した人のみ見ることが可能。

海外のプロジェクトより 「プンタ・デラ・ドガーナ」(イタリア)

「プンタ・デラ・ドガーナ」 イタリア・ヴェネツィア 撮影:小川重雄

安藤忠雄は2001年から2005年にかけ、パリ・セーヌ川の島に巨大な美術館を建設する計画をフランスの実業家フランソワ・ピノー氏から依頼され設計まで完了させました。しかし予期せざる事情からプロジェクトが止まり、実現には至りませんでした。

しかしピノー氏から舞台をイタリア・ヴェネツィアに移して行おうと誘いを受け、パラッツォ・グラッシという古い宮殿を美術館に再生しました(2006年)。さらに大運河に面して三角形に突き出たかつて税関として使われていた建物「プンタ・デラ・ドガーナ」を修復しつつ、ピノー氏のコレクションを展示する美術館のプロジェクトも手掛けました(2009年)。17世紀に建てられた歴史的建造物のレンガ壁や木造の骨組みを積極的に活かしつつ内部にコンクリートの箱を入れ込んだ、新旧が対話する空間です。

2000年にイタリアのアパレルメーカー、ベネトンのアートスクール「ファブリカ」を、2002年にアメリカ・テキサス州にてフォートワース現代美術館を設計するなど2000年以降、国際的な建築プロジェクトが増えていきました。2009年に完成したプンタ・デラ・ドガーナでの仕事は、番組で取り上げたパリにおけるピノー氏の新美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」(2021年)へとつながっていきました。

風景の創造 「真駒内滝野霊園 頭大仏」(北海道)

「真駒内滝野霊園 頭大仏」 2015年竣工 北海道・札幌市 撮影:小川重雄

安藤忠雄にとって、仕事のスタートは「場所を読む」ことから始まります。その場所の個性・本質を注意深く読み取り顕在化させることで風景に新たな価値を与えます。「近つ飛鳥博物館」(大阪府河南町、1994年)、「淡路夢舞台」(兵庫県淡路市、1999年)、直島での一連のプロジェクトなど、風景の創造を主題とする安藤建築は数えきれませんが、「真駒内滝野霊園 頭大仏」(北海道札幌市、2015年)も代表例のひとつです。

北海道の緑豊かな霊園内の一角で15年前に築造された石の大仏。この大仏をより「ありがたく」見せるべく安藤が提案したのは、大仏の頭部より下をラベンダーの丘で覆い隠してしまうという驚きのアイデアでした。

来訪者は一直線には大仏にたどり着けず、水庭の回りを歩いて、さらに40メートルに及ぶ薄暗いトンネルを抜けた末に、頭上から光が差し込む回廊で大仏と邂逅します。初夏には一面紫に染まり、冬には雪で覆われる丘。その雄大な風景の中で大仏の頭部が見え隠れします。北国の大自然と共生する、この場所でしかできない風景の創造です。