伊勢神宮「式年遷宮」 1300年続く文化継承

NHK
2022年10月2日 午前9:00 公開

伊勢神宮の御神宝のひとつ「唐組平緒」。平緒は太刀を身につける際に用いられる幅広の帯。432本の糸を11色に染めあげ、長さ約4mに組み上げる。

10/2「伊勢神宮 神の宝 いにしえの色をつなぐ手」放送詳細はこちら

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは10/2放送「伊勢神宮 神の宝 いにしえの色をつなぐ手」に合わせたコラムです。番組では御神宝試作の現場に密着しましたが、HPでは式年遷宮とは何かについての読み物をお送りします。こちらも合わせてどうぞ。

「唐組平緒」1929年(昭和4年)第58回式年遷宮

1300年続く伊勢神宮の式年遷宮

伊勢神宮において、御神体を新宮に移すために20年に一度行われ社殿と神宝・装束のすべてを一から新しく造り替える「式年遷宮(しきねんせんぐう)※1」。飛鳥時代に天武天皇が定め、持統天皇が690年に実施したのが第1回。その後、戦国時代に約1世紀もの間中断されたり、それ以外にも何回かの延期があったものの、現在まで1300年以上にわたって続いています。2013年(平成25年)に行われた第62回が直近で、次回は2033年に予定されています。 

※1 式年……決まった年の意。

何と言ってもまず驚かされるのはそのプロジェクトの壮大さです。伊勢神宮における中心的な社殿には、内宮(ないくう)と呼ばれる皇大神宮(こうたいじんぐう)と、外宮(げくう)と呼ばれる豊受大神宮(とようけだいじんぐう)がありますが、これ以外にも14の別宮などがあり、合計で170を超える建物が20年ごとにすべて建て替えられます。木造建築ですが、建て替えにあたり使われるひのきの本数は約1万数千本にもなると言われます。屋根に使われる萱葺(かやぶき)は直径約40cm、重さ約 30kgの束が約2万3000束使用されるそうです。

「玉纏御太刀」1929年(昭和4年)第58回式年遷宮

社殿の建て替えに使われるひのきの木材は、現在は主に木曽の森林から供給されていますが、その一方で伊勢神宮の境内地の中にある宮域林(きゅういきりん)でも将来的に社殿造営用の材木を自給自足できるようにと植林が進められてきており、前回2013年の遷宮の際には700年ぶりに宮域林から造営用木材の一部を供給することが実現できました。

萱葺のための萱(かや)は三重県度会郡(わたらいぐん)度会町川口に専用の萱場(かやば)があり、そこから供給されています。

御装束神宝と、当代の名工・名匠たち

御装束神宝(おんしょうぞくじんぽう)も式年遷宮の際にすべて新たに作り直されますが、その数は1576点にもなります。御装束とは社殿の殿上や庭を飾り立てるものを差し、主には神々の衣服や服飾品です。神宝は殿内にたてまつる紡績具、武具、馬具、楽器、文具、日常用具などが該当します。どれもつくるには最高の技術が求められ、各分野の名工、名匠たちの手を必要とします。人間国宝をはじめ約2000人の職人が関わると言われています。

しかしその分野の類まれなる名匠であっても、途絶えた技法を再現するために試行錯誤を重ねたり、神宝にふさわしい材料を探し求めて全国を巡ったりその道程は生半可でなく、完成までに数年の歳月を要するケースも少なくありません。番組では玉纏御太刀(たままきのおんたち)の試作の現場に密着しましたが、御神宝の中でもとりわけ難易度が高いと言われる御神宝で前回の遷宮の際には50名を超す職人が参画し、完成までに約10年が費やされたとのことです。

「玉纏御太刀」。豪華で華麗な玉纏御太刀は青、黄、赤、白、紫の5色のガラス玉300個とコハク、メノウ、水晶、瑠璃約150個が全体に散りばめられている。

御装束神宝はわが国の美術工芸の技術の粋が集められてつくり上げられます。また20年という一定間隔で行われることで、古来の最高の技術が、次世代の工匠に継承されることになります。式年遷宮に伴う御装束神宝の造り替えは、時を超えた美と技のバトンということが言えるかもしれません。

納められた御装束神宝は御料(ごりょう)※2として、次の遷宮までの20年間、人の目に触れることなく保存されます。次の回の遷宮で取り替えられたその後についてですが、昔は燃やされたり土の中に埋められたりしていました。神の御料が人の手に渡るのは畏れ多いと考えられたためです。しかし1869(明治2)年以降の御神宝については主要なものは保存され、伊勢神宮の博物館である神宮徴古館(じんぐうちょうこかん)で展示されるようになっています。

※2 御料……神様の持ち物のこと。

唐組平緒の試作の様子。手から手へ技を伝える。

古くて新しい、永遠の美

世界では神殿と言うと、パルテノン神殿やピラミッドに代表されるように石造建築が多く見られますし、それらは時と共に風化し遺跡となっていきます。しかし伊勢神宮がユニークなのは式年遷宮を通じて20年ごとに社殿も工芸品もまったく同じものが新しく造られることで、古いけれど最新、“過去”ではなく“現在”であり続けられるという点です。そして建築と美術工芸の両方の分野において、新しい世代にいしにえからの技が継承される重要な役割も果たします。言い換えるなら、過去の匠と現代に生きる匠が力を合わせて永遠の美を作り上げるという、時を超えた壮大な共同作業と言えるかもしれません。

展覧会情報

◎現在、伊勢神宮の展示施設である神宮徴古館・神宮美術館・せんぐう館で「特別展 生きる正倉院-伊勢神宮と正倉院が紡ぐもの」が開催中です。11/9まで。主な展示品は、玉纏御太刀・唐組平緒などの神宮神宝と、奈良・正倉院宝物の再現模造品。