ルーヴル美術館展 西洋画を鑑賞するヒント

NHK
2023年4月9日 午前9:00 公開

日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは4/9放送「まなざしのヒント ルーヴル美術館展」に関連したコラムです。番組では東京大学大学院客員教授・三浦篤さんに加え特別講師として作家で画家の大宮エリーさんと漫画家・池田理代子さんを美術館に招き特別レクチャーを行いました。HPでは今回展示されている西洋絵画の見方について、さらにいくつかのヒントをお教えします!

「アモルの標的」 フランソワ・ブーシェ

フランソワ・ブーシェ 「アモルの標的」 1758年  Photo ® RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Gérard Blot / distributed by AMF-DNPartcom

展覧会の冒頭を飾るのがこの「アモルの標的」です。アモルはキューピッドの名で知られる神の別名。ギリシア神話の中ではエロスという名前で、ローマ神話の中ではアモルやクピドという呼ばれ方をするようになりました。作者のフランソワ・ブーシェは、18世紀フランスを中心に展開されたロココ美術の画家です。ロココ美術を代表する画家といえば、アントワーヌ・ヴァトー、フランソワ・ブーシェ、ジャン・オノレ・フラゴナールの3人が特に有名で、この度の展覧会にもそれぞれ出品されています。ブーシェはその中でも作品数の多さや、築き上げた地位の点からも18世紀フランスを最も代表する画家と言って良いでしょう。ヴィーナス、三美神、アモルなどのモチーフが多いことでも知られる画家です。

「ニンフとサテュロス」 アントワーヌ・ヴァトー

アントワーヌ・ヴァトー 「ニンフとサテュロス」 1715-1716年頃 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF-DNPartcom

同じくギリシア・ローマ神話にもとづく絵画です。神話の中には、脇役的な存在でニンフ(妖精)や、人間の身体とヤギの脚からなる半人半獣の生き物として知られるサテュロス(獣神)が登場します。ニンフは清らかな若い女性の姿、サテュロスは粗野で邪な男性というように、対比的な存在として描かれます。本作品においても非常に対照的な描かれ方で、ニンフは白い肌が輝き、サテュロスは褐色の肌で闇にうごめくように表現されています。ニンフや女神にサテュロスがつきまとう場面は神話画の中でよく出てきます。そしてこの作品を描いたアントワーヌ・ヴァトーは、ブーシェと並んでロココ絵画の代表格とされる画家です。

「アモルとプシュケ」、または「アモルの最初のキスを受けるプシュケ」 フランソワ・ジェラール

フランソワ・ジェラール 「アモルとプシュケ」、または「アモルの最初のキスを受けるプシュケ」 1798年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Tony Querrec / distributed by AMF-DNPartcom

アモルとプシュケも古代ギリシア・ローマ神話にもとづいており、そのお話は古代ローマ人の書いた小説『変身物語(黄金のロバ)』の中にも登場します。美しい人間の娘プシュケと、アモル(キューピッド)が結婚する物語なのですが、18世紀のフランス絵画では流行したテーマのひとつで、物語の中のいろいろな場面が絵画化されています。プシュケはギリシア語で「蝶」の意味も持っているので、この絵のように、そのそばに蝶があわせて描かれることも少なくありません。一方、翼を持つ天使はキリスト教絵画においては頭の上に天使の輪が描かれるのが慣習ですが、神話画に描かれるアモルの場合は、そうしたものはありません。

「エンデュミオンの眠り」 アンヌ=ルイ・ジロデ・ルシー=トリオゾン

アンヌ=ルイ・ジロデ・ルシー=トリオゾン 「エンデュミオンの眠り」 1791年

エンデュミオンはギリシア神話に登場する類まれなる美貌の青年です。古代ローマ時代の作家ルキアーノスが著した『神々の対話』に登場するお話が元となっています。それによると月の女神セレネはエンデュミオンに恋をするが、彼は人間であり若さも美しさも永遠ではない。その事実に苦悶した月の女神はどうにかならないか大神ゼウスに頼み込みます。そしてエンデュミオンを不老不死にしてもらうのですが、その代わり彼は永遠に眠り続ける存在となり、眠る青年のもとを夜な夜な月の女神が訪れるという物語です。この絵では、女神セレネの姿は描かれていませんが、その代わり左上に月が描かれています。

また、これまで男性像というと英雄的でたくましい筋肉美で描かれることが通例でしたが、ここでは女性的もしくは両性具有的な身体美として描かれています。この作品が描かれたのは1791年ですが、この頃から徐々にこうした男性裸体の表現が増えていきます。

※本文中で紹介した作品はすべてパリ、ルーヴル美術館蔵

展覧会情報

◎「ルーヴル美術館展 愛を描く」は現在、国立新美術館(東京)で開催中。6/12まで。その後京都市京セラ美術館に巡回します(6/27-9/24)。