太宰府天満宮アートプログラム

NHK
2023年3月12日 午前9:00 公開

太宰府天満宮。境内の樹木のうち、もっとも古いものになると1500年の樹齢を超える。

日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは3/12放送「太宰府天満宮 美の世界 千年の時の流れの中で」に関連したコラムです。

番組では太宰府天満宮の歴史と代々受け継がれた貴重な文物の話を中心に展開しましたが、ホームページでは2006年から行われている「太宰府天満宮アートプログラム」を紹介します。こちらもあわせてどうぞ。

1000年先に思いをはせるアートプログラム

太宰府天満宮では太宰府天満宮アートプログラムという取り組みが継続的に行われています。国内外問わず同時代のアーティストたちに太宰府天満宮に滞在してもらい、太宰府や神道についてそれぞれの視点で体感・取材する中から制作につなげ、最終的に作品を太宰府天満宮に奉納してもらうというプログラムです。

御祭神である菅原道真公は、国内だけでなく海外の文献にも通じ当時の文化の最先端に精通、国際的視点も持ち合わせた人物であったと伝えられています。したがって太宰府天満宮は、1100年以上に及ぶ過去の歴史から学ぶ場所であるのと同時に、最新の文化に触れてものの見方をアップデートしていける場所でもあるべきと考えています。「今の文化をつむぎ、それが100年先、1000年先といった未来に受け継がれる宝物となったら良いと考えております」(太宰府天満宮アートプログラム担当学芸員の方のコメントより)

ピエール・ユイグによる庭の作品

ピエール・ユイグ「ソトタマシイ」 ©Pierre Huyghe, Courtesy of TARO NASU, The National Museum of Modern Art, Tokyo, Photo by Yasushi Ichikawa

太宰府天満宮境内の北側にある小高い丘にはフランス人アーティスト、ピエール・ユイグによる「ソトタマシイ」という庭の作品があります。(※公開日は、太宰府天満宮境内美術館のウェブサイトをご確認ください。)

かねてよりピエール・ユイグは、自然と共存する神道の概念と自然界のエコシステム(※注)との間に共通項を見出していたと言います。境内を歩き、また宝物殿に伝わる資料などから1100年以上にわたる太宰府天満宮の歴史の中で境内がどのように変遷してきたかに想いを巡らせつつ、この庭を構想しました。
※注……特定の領域に暮らしている生物が相互に必要としながら生態系を維持する自然界の状態。

庭には、フランス・ジヴェルニーにあるクロード・モネの「水の庭」から移植した睡蓮、代々続くという意味を持つ橙(だいだい)、太宰府天満宮の象徴のひとつである「飛梅(とびうめ)」の穂木から接ぎ木した梅の木、頭部が蜂の巣に覆われている女性の彫像など、さまざまな要素が組み込まれ、自然と人為の関係性や、種の継承といったことが考察されています。

田島美加による瞑想のための彫刻

田島美加「エコー・ナルキッソス(太宰府)」 ©Mika Tajima, Courtesy of TARO NASU, Photo by Yasushi Ichikawa

天神の森のなかに突如現れる、不時着した宇宙船か、小型のピラミッドのよう不思議な物体。これはアメリカ在住のアーティスト、田島美加の作品「エコー・ナルキッソス(太宰府)」です。靴を脱ぎ、この頂きに座って瞑想をしても良いことになっています。現代において人々は常にネットの情報やテクノロジーにさらされていますが、ここではそうしたものから隔離され“オフ”になることができるのです。

また実はこの彫刻をかたちづくる樹脂には蓄光顔料が混ぜてあり、周りに配置された6本のブラックライトの光と太陽光を吸収して暗くなると彫刻自体が発光します。夜の静寂の中、青く発光しながらそこにたたずんでいるとのことです。

「目に見えないもの」を感じるライアン・ガンダーの作品

ライアン・ガンダー「本当にキラキラするけれど何の意味もないもの」 ©Ryan Gander, Courtesy of TARO NASU, Photo by Yasushi Ichikawa

太宰府天満宮の年間神事の中でも特に重要とされる秋の「神幸式大祭」。一年に一度、菅原道真公の御霊を太宰府天満宮から生前お住まいになっていたとされる榎社(えのきしゃ)まで御神幸する神事です。そして御本殿にお戻しする前に立ち寄る建物が境内の南にある浮殿(うきどの)。浮殿は神幸式大祭の折には建物の回りに水が張られ、文字通り水に浮かんでいるように見えることからその名がついています。

この浮殿内には、2011年の太宰府天満宮アートプログラムで招待されたイギリス生まれのアーティスト、ライアン・ガンダーによるアート作品が設置されています(※神幸式大祭の前後は別に移されます)。この作品のテーマは「大切なものは目に見えない」。金属片が磁力でくっつきあって球の形を成している作品が制作されました。外見はキラキラして華やかですが、その真ん中にあるもの(磁力)は形が無く見えない。神道とは万物に神霊を見出す日本人の古くからの考え方に源がありますが、目に見えないものを想像する精神性を思い起こさせてくれる作品です。

神戸智行 2027年に襖絵を奉納予定

神戸智行「一瞬の永遠」 Photo by Taro Misako

番組でも触れた通り、日本画家の神戸智行は2027年に控える菅原道真公1125年太宰府天満宮式年大祭に合わせ、24面にも及ぶ襖絵を奉納するために長い年月をかけて制作を続けています。襖絵は境内にある文書館に飾られる予定です。神戸智行ももともと2011年太宰府天満宮アートプログラムの招待作家で、「一瞬の永遠」という太宰府天満宮の梅を題材にした四曲一双の屏風を奉納しています。この屏風の制作にあたっては、6000本近くある境内の梅すべてを観察したということです。

制作中の24面の襖についても、一年を通じて移ろう境内の景色をつぶさに肌で感じたいと関東から家族で太宰府に移住し、現在は天満宮のすぐ近くに居を構え制作しています。2027年、太宰府天満宮で出会えるその日を心待ちにしましょう。

展覧会情報

◎太宰府天満宮宝物殿企画展示室では5/14まで「神戸智行展-太宰府天満宮コレクションより」が開催中です。