目に見えないものたちの世界 水木しげる

NHK
2022年7月31日 午前9:00 公開

アマビエ(部分) ©️水木プロダクション

7/31「水木しげるの妖怪画」放送詳細はこちら

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは7/31放送「水木しげるの妖怪画」に合わせたコラムです。番組では生涯をかけた水木しげるの妖怪探索にスポットをあてましたが、HPでは番組で紹介したいくつかの妖怪について、地域の伝承や出典とともに詳しく紹介します。

コロポックル

コロポックル ©️水木プロダクション

アイヌの人々の古い伝承の中に登場する「コロポックル」。背丈が低く、動きがすばやく、漁が得意。そして屋根をフキの葉っぱで葺いた住居で暮らしていたと、アイヌの人々の間では伝えられてきました。アイヌ語で「フキの葉の下の人」という意味になります。今日多くの創作物の中では手のひらに乗る程の背丈で描かれることが多いコロポックルですが、もともとの伝承によれば「アイヌの人々より少し小柄」という形容であったようです。北海道に自生するフキは葉が大きいものだと高さが2m以上になるものもあり、普通の大人でも傘代わりにその下に入れるくらい。さほど小さくなかったのかもしれません。

座敷童子

座敷童子 ©️水木プロダクション

座敷童子(ざしきわらし)の名前が日本で広く知られるようになったきっかけは民俗学者・柳田國男が1910(明治43)年に東北地方の民間伝承を収集した説話集『遠野物語』を刊行したことです。なぜ遠野かと言えば、岩手県遠野市出身の作家・佐々木喜善と柳田が知り合ったことがきっかけで、佐々木から遠野の古い言い伝えを柳田が聞き、まとめたからです。「いないはずの子どもがそこに住みついている」というのが東北に伝わる座敷童子の特徴ですが、岩手県花巻市出身の宮沢賢治が1926(大正15)年に著した童話「ざしき童子のはなし」の中でも、「10人の子どもたちがいつの間にか11人になっている」というエピソードが紹介されています。遠野出身の佐々木は柳田國男との出会いが契機となり、その後も座敷童子についての民話や習俗の収集を続け、その活動は座敷童子についての理解を後年に伝える大事なものとなっています。飢饉などが相次ぎ厳しい状況をたびたび強いられてきた当時の東北の生活が背景としてあった中で生まれた座敷童子。家の守り神として現代でも東北では忘れられることなく語り継がれています。

アマビエ

アマビエ ©️水木プロダクション

2020年、新型コロナウィルス感染拡大の最中、SNS上で「疫病退散」の願いを込めて「アマビエ」の絵が拡散されたのは記憶に新しいでしょう。アマビエの絵の出典は明らかで、江戸後期の1846(弘化3)年に発行された瓦版に「肥後国海中の怪」と題して掲載された文章と、そこに添えられた長い髪・ひし形の目・くちばし・体に鱗・3本の足という特徴を備えた、いびつな人魚のようなイラストです。現在、木版で摺られたその絵は京都大学附属図書館に収蔵されています。水木さんはアマビエを1984年にこの瓦版の絵を参考にして描いたそうですが、瓦版のアマビエとは違い水木しげる版のアマビエは漫画家らしい創作で“手”が描き足されています。ちなみに「アマビコ」という名前の妖怪が「アマビエ」の前身として存在するとの解釈もあります。民俗資料の中で「アマビコ(海彦、天彦、尼彦などさまざな字が当てられている)」について記した伝承は数多く確認でき、その姿は猿のような頭から3本の足が生えています。その派生として人魚的な姿のアマビエが生まれたのではないかとも考えられています。

キジムナー

キジムナー ©️水木プロダクション

沖縄の人で知らぬ人はいない精霊「キジムナー」。亜熱帯〜熱帯気候に生え常緑高木で高さ20mにもなる樹木ガジュマルは沖縄で「幸運を運んでくる樹」と昔から伝えられており、家のガジュマルに精霊キジムナーが住みつけばその家は繁栄すると言われてきました。逆にガジュマルの古木を焼きはらってその住みかを奪うようなことをすれば、その家は末代までたたられて滅びるとも。キジムナーは沖縄の人々にとって大切な「隣人」として想われ続けてきました。戦前まで沖縄県大宜味村・喜如嘉(きじょか)地域では、木の上に小屋をつくり、夜になると村の人々総出で集まりキジムナーが現れるのを待つ「アラミ」という行事なども行われていました。キジムナーは沖縄の人々が常に持ってきた自然への畏敬や感謝の念を象徴する存在と言えるかもしれません。沖縄の子どもたちの間では昔からキジムナーの足跡を見つけるための遊びがあるそうです。 

水木しげるは自著の中で、「目に見えない世界を信じる」ことの大切さを説いています。今目に見えているものが世界のすべてではない。私たちが忘れかけている世界の別の側面を、妖怪たちは教えてくれているのかもしれません。

展覧会情報

◎「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」が9/4まで、東京シティビュー(東京・港区)で開催中。9/16からは佐川美術館(滋賀・守山市)に巡回します。11/27まで。