東京国立博物館 博物館創設時に描いたビジョン

NHK
2022年10月23日 午前9:00 公開

「博覧會諸人群集之圖 : 元昌平坂ニ於テ」 昇斎一景図。1872年の湯島聖堂博覧会を描いた錦絵

10/23「国宝 東京国立博物館のすべて」放送詳細はこちら

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは10/23放送「国宝 東京国立博物館のすべて」に合わせたコラムです。番組では現在開催中の「国宝 東京国立博物館のすべて」展について会場から見どころを紹介しましたが、HPでは東京国立博物館創設の歴史についての読み物をお送りします。こちらも合わせてどうぞ。

上野に博物館が建設されたのは1882年

明治初めに東京国立博物館の前身である博物館が上野の地に建設されることが決まった当初、その建白書の中では「人文・自然史・産業の各部門と、動物園・植物園・図書館を備えた大博物館をつくる」というビジョンが示されていました。

国宝「舟橋蒔絵硯箱」 本阿弥光悦作。1878年(明治11年)に購入された。

そして日本初の近代総合博物館が誕生したのが1882年(明治15年)のことです。もっともそれだと今年2022年が東京国立博物館創立150年にはなりません。創立年として位置づけているのはそこからさかのぼること10年、1872年(明治5年)3月に湯島聖堂大成殿で行われた「湯島聖堂博覧会」の開幕時点だからです。そこでは古美術から動植物や鉱物の標本までがずらりと並びました。最も人気があった展示品は名古屋城の金鯱です。

当時、湯島聖堂内には博覧会の運営母体である博物局と、その本省である文部省が置かれていたことなどから、展覧会場として大成殿が選ばれたようです。

「見返り美人図」(部分) 菱川師宣筆。1889年(明治22年)、旧博物館より引き継がれた。

ちなみに1882年に上野公園に博物館がオープンした際、附属施設として1ヘクタールばかりの小さな動物園が近くに開園しました。それが現在の上野動物園です。日本で開業年が最も古い動物園です。

自然史関連の資料は国立科学博物館へ引き継がれた

上野で博物館が開館した当初の所蔵品点数は10万3671点で、その中には今回の特別展でも出品されている「普賢菩薩像」や本阿弥光悦「舟橋蒔絵硯箱」、尾形光琳「八橋蒔絵硯箱」も含まれていました。東京国立博物館の所蔵品の中でも初期のものたちです。なお普賢菩薩像は昭和25年に制定された文化財保護法において国宝指定された絵画部門の第1号です。

当初は自然史関連の資料も多く所蔵していました。しかしそれらは1925年(大正14年)、現在の国立科学博物館の前身にあたる東京博物館に譲渡されました。今回の特別展で展示されているキリンの剥製は国立科学博物館所蔵となっていますが、もともとは東京帝室博物館(東京国立博物館の前身)の所蔵品です。初めて日本に生きている状態で連れてこられたキリンで上野動物園にて飼育されていましたが、死んで剥製となりました。

1925年の資料譲渡を機に東京帝室博物館の自然史部門は廃止となりました。こうして東京国立博物館は歴史と美術を中心とした博物館という性格を強めていったのです。

国宝「竜首水瓶」。1878年(明治11年)法隆寺から献納された品のひとつ

今回の特別展でも法隆寺献納宝物が展示されていますが、その宝物には明治初めに国内で起きた廃仏毀釈運動が関係しています。当時、古社寺の貴重な文化財は軽んじられ、破壊されたり流出したりと危機的な状況にありました。そこで法隆寺の宝物300数十点を皇室が買い上げるかたちで保護されることになったのです。それらの宝物が東京国立博物館に引き継がれています。現在は法隆寺宝物館で常時公開されています。

上野の地に博物館が建設されることが決まったときの基本構想では、同じ敷地の中に美術館と図書館を建てて一大総合博物館を構成するというプランが存在していました。その後さまざまないきさつがあり、当初のプランのようには実現しませんでしたが、1906年(明治39年)には博物館の隣接地に新築の帝国図書館がオープンしました。

現在、東京国立博物館の隣りにある国際子ども図書館は旧帝国図書館の建物が引き継がれて使われています。第二次世界大戦後の1948年に国立国会図書館ができたときに帝国図書館は統合され、国立国会図書館支部上野図書館として運営されることになりました。その後2000年に国立の児童専門図書館として再編され、それが現在の国際子ども図書館です。

総合型ミュージアムは上野公園で体現されている

東京国立博物館本館

今日、東京国立博物館の本館は日本美術を紹介する展示館となっています。その他、敷地の中にある東洋館ではアジア美術が、平成館では考古学資料が、法隆寺宝物館では法隆寺の宝物が展示されています。

また前述の通り、上野動物園はもともと博物館開設時の付属動物園から始まった動物園。国立科学博物館は東京国立博物館が所蔵していた自然史関連の展示物が引き継がれた博物館。また国立国会図書館の前身、かつての帝国図書館は今日、国際子ども図書館として人々に利用されています。

そうして見ると、明治初めに描かれた「人文・自然史・産業の各部門と、動物園・植物園・図書館を備えた大博物館」というビジョンは時を経て、上野公園全体で実現したと言うことができるかもしれません。

展覧会情報

◎東京国立博物館創立150年記念特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」は東京国立博物館 平成館特別展示室で12/11まで開催中です。