春日大社“若宮” 至極の美

NHK
2022年12月25日 午前9:00 公開

「春日若宮おん祭」より「暁祭」 社伝神楽 撮影:松井良浩

日曜美術館HPでは放送内容に関連した情報を定期的にお届けしています。こちらは12/25放送「美による春日大社案内」に合わせたコラムです。番組では春日大社を広くご案内しましたが、HPでは、900年の歴史を持つ「春日若宮おん祭」と、現在奈良国立博物館で開催中の展覧会で見られる若宮の御神宝について紹介します。こちらもあわせてどうぞ。

春日若宮おん祭

春日大社の中心部・大宮には本殿が四棟あり、四柱の神が祀られていますが、もうひとつ大切な神とされているのが第三殿の神と第四殿の神の間の御子神、「若宮(わかみや)」です。若宮にも大宮本殿同様に、平安時代に奉納された神宝が納められています。また若宮と言えば、毎年12月17日に執り行われる「春日若宮おん祭」は奈良を代表するお祭りのひとつで、900年近く続いています。国が指定する重要無形民俗文化財にも定められています。

深夜の午前零時。「遷幸(せんこう)の儀」が始まります。境内はすべての灯りが消され完全な闇となり、御神霊をお守りしながら進む白装束などに身を包んだ大勢の神職がその中に浮かび上がります。先頭に3m近くもある大松明(おおたいまつ)を引きながら御神霊が進む道を祓い清めます。そして御神霊が神職たちの持つ榊の枝で十重二十重に囲まれたかたちでその後を進みます。神職たちは、「ヲー、ヲー」という唸るような重低音の警蹕(けいひつ)の声で慶雲楽(きょううんらく)という雅楽の演奏とともに邪をはらい、闇に響かせます。一行が進むと「沈香(じんこう)」と呼ばれる香木の香りもあたりに立ち込めます。闇の中で五感が研ぎ澄まされます。一般の参拝客は、別の時代・次元に移ってしまったかのような夢うつつのような感覚を味わいながら、神幸列の後について進むことができます。

「春日若宮おん祭」より「お旅所祭」 細男 撮影:松井良浩

神職とともに若宮は一之鳥居近くの「お旅所」まで旅をされますが、そこでは人のスケールを遥かに超えた、高6.5メートルもの巨大な一対の鼉太鼓(だだいこ)に迎えられます。陰と陽を表すとされ、宇宙観が示されています。

お旅所に到着した若宮には盛大な御食事が捧げられ、さらには宮司の奉幣・祝詞奏上が行われ、巫女による社伝神楽が奉納されます。若宮の本殿前には創建時から神楽殿が建設されており、巫女が常駐して日々神楽が奉納されてきました。御食事が捧げられるときには雅楽も奉納されます。深夜1時から営まれるこの祭礼は「暁祭(あかつきさい)」と呼ばれています。

「春日若宮おん祭」より「お旅所祭」 舞楽 萬歳楽 撮影:松井良浩

深夜、そして極寒の中の出来事。しかし一度でも行って体験したことのある人ならば忘れ得ぬ出来事として刻みつけられることでしょう。日本人の文化の源流も再発見するはずです。

その日の正午からは平安から江戸までの時代装束に身を包んだ一千人にも及ぶ行列がお旅所に向かって練り歩く「お渡り式」が行われます。参道では稚児流鏑馬、競馬なども披露されます。また14時半頃からはお旅所で「お旅所祭」が行われ、宮司や日使の奉幣・祝詞奏上に続いて、社伝神楽、東遊、田楽、細男(せいのお)、猿楽、舞楽、和舞(やまとまい)が続々と奉納され、この大芸能奉納は8時間近く続きます。そして最後、夜11時頃から若宮の本殿にお帰りいただく「還幸の儀」が執り行われます。なお18日にはおん祭に奉仕した人たちを労う目的で奉納相撲・後宴能(ごえんののう)が行われます。

「春日若宮おん祭」より「お渡り式」 撮影:松井良浩

若宮の神宝

例年、奈良国立博物館では春日若宮おん祭の時期に合わせて特別展「おん祭と春日信仰の美術」を行ってきましたが、若宮御造替を記念して開催される2022年の展覧会は格別です。その多くが国宝指定されている若宮御料古神宝と、現代の名匠の手による復元模造品と、両方を対比しながら鑑賞できる貴重な機会です。

国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」平安時代(12世紀) 奈良・春日大社 画像提供=奈良国立博物館

今回展示されている春日大社若宮御料古神宝たちはもともと平安時代に若宮へ奉納されたものたちで、900年の間、社殿の中で時を過ごしていました。しかし文化財保護法がきっかけとなり、1930年(昭和5年)に撤下(てっか)※され私たちの目に触れる機会が生まれました。一方で、CTスキャンをはじめとする科学的調査と人間国宝の手わざを通じて、神宝を復元・新調し新たに奉納するという取り組みも進んでいます。

※撤下……神前から下げること

「若宮御料古神宝類 平胡籙 復元模造」 現代 平成30年(2018) 文化庁 画像提供=奈良国立博物館

もともと神の本殿に納められていたものを今私たちが見られること自体貴重ですが、現代において最高の技術を持つ人間国宝が手掛けた復元模造品と両方並べて比較できる今回のような機会は相当に希少。古神宝だけ見て気づけなかったことも、並べて見ることで見えてくるものがあります。

また、大陸的なエッセンスを感じる正倉院の宝物とも違い、平安王朝文化の風雅に溢れているのも春日大社御神宝の特徴です。

(左)「金鶴洲浜台 復元新調」 現代 令和4年(2022年) 奈良・春日大社 (右)国宝「若宮御料古神宝類 金鶴及銀樹枝・銀樹枝」 平安時代(12世紀) 奈良・春日大社 画像提供いずれも=奈良国立博物館

平安時代の古神宝も人間国宝が手掛けた模造品も共に美の頂点。これは900年のときを超えた日本の美のリレーなのだと肌で感じることができます。その上品で繊細すぎる究極の美をどうぞご鑑賞ください。

展覧会情報

◎展覧会「式年造替記念特別展 春日大社 若宮国宝展―祈りの王朝文化―」は奈良国立博物館(奈良)で2023/1/22まで開催中です。