ウクライナの穀物 迂回ルートを確保せよ 85ミリの壁とは!?

NHK
2022年6月3日 午後6:30 公開

ロシアはウクライナ東部での攻勢を強めています。同時に黒海では海軍も展開させていて、南部オデーサなどの港は事実上の封鎖が続いています。

食糧価格の世界的な高騰に懸念が広がる中、ウクライナ国内の穀物をどう運び出すのか。模索する現場を取材しました。

(ベルリン支局・田中顕一、ニュースウオッチ9・鈴木健吾)

6月2日に放送された動画は6月9日までご視聴いただきます。

ウクライナは、世界有数の食糧輸出国で、世界の輸出量に占める割合がトウモロコシで世界3位。

小麦では5位などとなっていますが、港の封鎖により穀物の輸出が妨げられていて、国内で留め置かれている穀物は、2000万トン以上に上ると見られています。

ポーランドのウクライナ国境近くの街、ドロフスクにはウクライナから大量のトウモロコシをのせた貨物列車が到着。

黒海の海上交通が使えなくなったため、陸路で運び出し、ポーランドなど周辺国の港から輸出するのだといいます。

貨物ターミナルの責任者は「扱う貨物の量が以前の何倍にも増えている。過去2年間、ここまで多くの貨物を扱ったことはない」と話していました。

ここから先、ポーランド国内にも鉄道網は伸びていますが、立ちはだかっているのが、「85ミリの壁」です。

かつて、ソビエトの一部だったウクライナでは、線路の幅はロシアと同じ1520ミリ。

一方で、隣国ポーランドではヨーロッパ各国と同じ、1435ミリ。

わずか85ミリの差がウクライナからポーランド、そしてヨーロッパへの貨物列車の直通を阻み、列車から列車への積み替えを余儀なくされているのです。

担当者は、「線路幅の違いは大きな障壁だ。もしウクライナにヨーロッパと同じ線路があればもっと内陸部まで貨物列車を送ることができ効率よく運び出せるのだが」と語っていました。

一方、別の国境の街のメディカでは、ある施設を利用する試みも。

こちらの貨物ターミナルではもともと、ウクライナで生産された鉄を積み替える拠点でしたが、現在は、穀物を扱える特殊な機械を手配。

鉄の輸送は後回しにして、穀物をトラックに積み込んでいました。

貨物ターミナルの責任者は、「軍事侵攻以降、ウクライナからの物の流れが一変してしまった。かつてはあのアゾフスターリ製鉄所の製品も扱っていたのだが…」と振り返ります。

一方、問題になるのは一度に運べる荷物の量です。

積み替えられた穀物は、ここからトラックで運ばれますが、30両編成の貨物列車なら一度に2000トンのトウモロコシを運べるのに対しトラックの場合多くても1台25トン程度なのです。

そこで、新たに脚光をあびているのが、ウクライナと同じく黒海に面した、隣国ルーマニアの港です。

ウクライナ周辺の海はロシアによって封鎖されているため、代わりにそのすぐ外側にあるルーマニアのコンスタンツァ港を活用しようという動きが加速しています。

現地には、ウクライナのナンバープレートをつけたトラックが、ずらり。オデーサから来たというトラックドライバーの男性は「以前はあちらの港へ運んでいた物をここへ持ってきている」と。

さらに、コンスタンツァ港の利点は、その立地にあります。

黒海へと注ぐドナウ川の下流に位置するため、ウクライナとの国境近くまで運ばれてきた穀物を、川や運河を使って運ぶこともできるのです。

その場合、一度に運べる穀物は2000トンほどで列車に匹敵します。

コンスタンツァ港の積み込み会社社長は「以前はウクライナ産の穀物はまったく取り扱っていなかったが今やここコンスタンツァが回避ルートとして最善の港だ。食糧危機という世界的悲劇を食い止めるため努力している」と述べました。

港で積み込み作業を行う会社では、ドナウ川を通って到着した貨物船から大型の輸送船へと穀物を積み替えるための設備を約5億5000万円かけて新設。

ただ、オデーサなどウクライナ国内の港が再開することになれば、設備投資は無駄になるおそれもあり、自社でのこれ以上の大型投資には慎重にならざるを得ないといいます。このため、社長は「この問題は企業の熱意だけで解消できるものではない。EUや政府の支援が必要だ」と強調します。

今後もウクライナの穀物の輸出が停滞し続けると、どうなるのか。

日本国際問題研究所の井堂有子研究員は「豊かなところは少なくとも(他国から)購入することができたりあるいは国内生産に力を入れるなりいろいろやり方があると思いますけれども。中東、アフリカ、特に中東でもシリア、イエメン、リビアあるいはアフリカの地域といったところでは高い小麦は買えませんのでウクライナの小麦が止まるというのは本当に命に直結する」と、経済的に貧しい国々が深刻な影響を受ける恐れがあると指摘します。

さらに「この(アフリカや中東)地域が不安定化すると日本はエネルギー源の特に石油などの9割を中東地域から輸入するという長年の構造が変わっておりませんので、エネルギー源の不安定化というところにつながる。対岸の火事ではない」と言います。つまり、こうした地域への影響は穀物輸入をウクライナに頼っていない日本にも広がるおそれがあるというのです。

プーチン大統領は最近、「ロシアへの制裁が解除されたら、多くの農産物や肥料を輸出できる」と述べ、食糧の輸出を交渉の材料に使う姿勢も見せています。ロシアの出方にどう対応していくのかも、国際社会の課題となっています。