分断のアメリカはどこへ?阿川尚之さんに聞く

NHK
2022年1月7日 午後5:15 公開

2021年1月6日。世界に衝撃を与えたアメリカ連邦議会の乱入事件が起きました。前年に行われた大統領選挙の当選者を確定する手続きが行われていた連邦議会にトランプ前大統領の支持者らが乱入。警察官など5人が死亡したこの事件では、これまでに720人以上が逮捕されています。議会に乱入した人たちの多くは「選挙で不正があった」という主張をいまも強く信じ続けているといいます。

アメリカは根深い分断を抱えていますが、「さまざまな意見がぶつかりあうことこそが、アメリカという大国を作り上げてきた」と説くのは、法律家として、長年、アメリカ社会を見続けてきた阿川尚之さんです。

民主主義の盟主を自負するアメリカはどこへ向かっているのか。田中キャスターが聞きました。

1月6日に放送されたインタビューの動画はこちら。

◎阿川尚之(あがわ・なおゆき) 慶應義塾大学名誉教授 ソニー勤務を経て在アメリカ日本大使館公使を経験 アメリカの憲法や現代史に関する著作など 父は作家の阿川弘之さん、妹はエッセイストの阿川佐和子さん

--トランプ時代からの分断に加えて新型コロナウイルスの感染拡大ということで、アメリカ社会の分断はますます激しくなっているようにも感じますが、どうお考えですか?

阿川さん:

アメリカは不思議な国だし矛盾もいっぱいあります。どうしてもけんかをしているように見えるんだけど、これは建国以来の伝統だと思いますね。アメリカが「仲良くなってひとつの国を作った」なんてうそばかりで、けんかしながらこの国を作りました

建国の父たちというのは非常に冷静な人たちで、権力の抑制というのはむしろ対立して、それが大統領になって「あいつは本当に嫌いだからあいつのやることは何としてでも止めてやる」という個人の私憤みたいなものに権力を憲法で与えることによって対立させて、みんなで自由でいようということが1788年の文書に書いてあるわけですよね。

異なる宗教や人種の人々が集まるアメリカでは、建国以来分断や対立を繰り返し、内戦になったことさえありました。それぞれの自由を守りながら、ひとつの国としてあり続けるよりどころとなってきたのが「合衆国憲法」であり、それを重んじる「立憲主義」だと阿川さんは言います。

阿川さん:

憲法というのは、国を「どういう理想の国にするか」というのが書いてあると思われがちですが、アメリカの本来の憲法というのは手続きばかり書いてあります。「大統領はこうやって選ぶんですよ」、「アメリカの司法はこういうふうに作るんですよ」というと、非常に機械的な文章のような気がしますが、アメリカの民主主義なり政治というのは、この仕組みに従ってやるというのが立憲主義の考えです。

阿川さんは、1年前の議会乱入事件にショックを受けたものの、「立憲主義」がいまもアメリカでしっかりと生き続けていると感じる出来事があったといいます。

阿川さん:

あの夜、鎮圧されたあとで、深夜の0時少し過ぎくらいに議事が再開されて共和党で最も保守的でバイデンが大嫌いというグラム上院議員が演説をしました。憲法で1月6日というのは決まっていて、最終的に各州の選挙人が入れた投票数を数えたらこれで大統領が決まって、就任するんだということに従わざるを得ないと述べたのです。「俺はもうバイデン大統領は絶対に嫌だけれども憲法でこう決まっているんだからみんな諦めろ!」と言ったんですね。

最後は共和党のかなりの部分の人たちが憲法で決まったことを守らないとそれこそ議会制民主主義、立憲民主主義が壊れるというので終止符を打ったというのが、アメリカの立憲主義がかろうじてまだ機能しているんだなぁと思いました。

今後もアメリカで立憲主義が維持されるのか。阿川さんがその試金石と考えているのが、6月にも示される連邦最高裁の判断です。「人工妊娠中絶」を禁止する南部ミシシッピ州の法律が違憲かどうか。アメリカで大きな注目が集まっています。これまで、9人の判事のうち、民主党の支持者の考え方に近い「リベラル派」が4人、共和党の支持者の考え方に近い「保守派」が5人でした。しかし、おととし当時のトランプ大統領がリベラル派の後任に保守派とされる判事を指名。中絶に否定的とされる保守派が3分の2を占めることになりました。

--最高裁の判断というのがアメリカの民主主義立憲主義の健全性を見る上で、非常に大事なターニングポイントになるということですね。

阿川さん:

断定はできないんですけども、ひとつのリトマス試験紙ではあるだろうと思っています。

--保守6、リベラル3ということになると、保守派に有利な判決が出てくるのかなぁとも思ってしまうんですが?

阿川さん:

最高裁が一番気をつけなければいけないのは、そうなったと思われることがいやなんです。対立が多いアメリカで何とか暴力に、あるいは赤裸々な対立にしないで片付けるひとつの道というのは、手続きと法律、憲法に基づいた中立的な司法が機能することであって、これが司法がどっちかに近すぎる。何だか知らないけれど、大統領の方ばかり向いているじゃないかということになると、国民の信頼を失う。では、どういう判決を出すかというのが、見どころだと思うんですね。

--立憲主義、民主主義を貫こうとするアメリカに対して、中国は国全体の利益を優先させる自分たちの政治システムの方が優れているという主張を強めています。米中対立の行方をどういうふうにご覧になっていますか?

阿川さん:

わからないですねぇ。根拠なしに言えば、「アメリカが何だか、だらしない」と。やることなすこと「バイデンだめね」みたいな話がずっと続くと思うんですよ。それで4年たつとバイデンが負けちゃってね、民主党ががっかりして共和党が元気になってということがあるかもしれないから、一見カオスでね、一見、頭が悪いんじゃないかという感じがするのに対して、中国はもう習近平・国家主席が常に正しいと。ものすごい力を持っていて技術がどんどん発展するけれども、どこかで無理が出てくるんじゃないかなぁという。思いもかけないところで無理が出てくるんじゃないかなと。

米ソ冷戦が始まったときに、ジョージ・ケナンという有名な外交評論家が「結局のところ、米ソ冷戦がどうなるか、それからアメリカがその中で何とかロシアに負けないでソ連に負けないで生きていけるかどうかは、アメリカという国の価値をわれわれが、あるいは理想をわれわれが守りきれるかどうかだ」というふうに言っているんですね。

結局はアメリカという国が立派な国であり続けること。それを一緒に日本がやれるかやれないかということが、この争いを決めるんだろうな、と思います。