緊迫ウクライナ ロシアはどう動く? 安全保障の専門家、小泉悠さんインタビュー

NHK
2022年1月28日 午後6:00 公開

🆕緊迫した情勢が続いています。このインタビューの後も米ロなど各国が発信を続けています。プーチン大統領会見などの詳報はこちら。NHKプラスで9日まで。

緊迫ウクライナ アメリカからロシアへ回答 ロシア 今後どう動く?

ウクライナ情勢をめぐり、アメリカのブリンケン国務長官は、ロシアがNATO=北大西洋条約機構をこれ以上拡大させないよう要求していることに対し、応じられない考えを書面で回答したと明らかにしました。

安全保障に詳しい専門家に、軍事的な緊張はどこまで高まっていると捉えているのか、ロシアが軍事的な行動を起こすとしたらいつと考えられるのか、そして偶発的な衝突がなぜ懸念されるのかなどを聞きました。専門家は「日本はわがことと捉える必要がある」と指摘しました。

(ニュースウオッチ9 柳田理央子ディレクター)

(ロシアの安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センター専任講師  小泉悠さんに聞きました。インタビューは1月27日に行いました)

Qまずアメリカ側がロシアに書簡を出したタイミング、ロシアの反応は?

ことしのはじめに、アメリカとロシア、ロシアとNATO、ロシアとOSCE(欧州安全保障協力機構)で連続して協議がありました。このときの反応からある程度推し量れるだろうと思います。

つまり、このときに、西側の国々が提示したのは、ロシアが出してくる要求のうち、ミサイルの配備制限とか、演習の制限とか、そういうものは応じてもいいよ、でもNATOをこれから拡大しないということについては認められませんよ、というものでした。

それに対してロシアはなんといったかというと、われわれの提案の中の都合のいい部分だけつまみぐいするんじゃないという風に言うわけですね。われわれのこの提案全体のことを考えろといって非常に強く反発をしたわけです。

今回もアメリカ側からの反応はそれとそっくり同じで、やっぱり、NATOはこれ以上拡大しないという部分に関しては同意できない、という。でもロシアにとってみればこれが一番核心的な要求であるわけですよね。

ということは、やはり事実上今回のラブロフ・ブリンケン会談も決裂に終わったという風に考えていいんじゃないかということです

Qそもそも、NATOにウクライナが入るのを認めないというロシアの要求について、ロシア自身はどう思っているのでしょうか?

ロシアは、ソ連崩壊後30年、西側と外交をやってきて、こんなこと言ったところで、通らないということは、わかって言ってるんじゃないかという気がするんですね。

ですから、どちらかというと、NATOとかアメリカに対する不拡大要求は、政治的牽制球という側面が強いのではないかと。

他方で、ロシアは、昨年以来ウクライナに対して第二次ミンスク合意を履行しろということを強く圧力をかけているし。今年に入ってからは、ロシア共産党側からもうドネツクとルガンスクの分離地域を国家承認したらどうかという提案も出ているわけですよね。

国家承認しちゃうということは、ミンスクプロセスが終わるということを意味するわけですから。

どうもロシアが本当に圧力をかけたいのは、ドネツクとルガンスクの地位だとか、ウクライナそのものの国家的立ち位置を、軍事的圧力と政治的圧力で強制的に変える、そっちのほうなんじゃないかなという気がしています

Q落としどころ、ロシアはどういう解決策が提示されれば納得すると考えていますか?

対立が終わるというか、ロシアがもっていきたい形は、おそらく「中立」かつ「中立でロシア寄りのウクライナ」ということだと思うんですよね。

これをロシアはずっと追求してきたわけなんですけど、結局2014年にロシアが軍事力を行使したから、むしろウクライナはよけいロシアから逃げていこうとするわけです。

だから、一応NATOには入ってないけど、NATOとは友好国になっている、という状態がずっと続いてきた。これをおそらく終わらせたいんだと思います。

ですから、ひとつには、2015年の第二次ミンスク合意を作るときにも、ロシアはこういう話をしていました。ウクライナの憲法を改正させて、ドネツクとルガンスクを特別の地域として憲法で明記すると。ですからウクライナはこれから先もずっと分裂国家であることを認めろということ。

もうひとつは、第二次ミンスク合意の時にロシアは、追加議定書をつけさせて、この中にウクライナは中立国であるという条項を入れさせたいと考えたわけですね、実現しなかったけど。

そういった形でウクライナが法的に、自ら西側にはいきませんと宣言させる。それから国内に分離独立地域、紛争の火種を抱えこみ続けることを許容させる。それを通じてロシアの影響力を行使するってことですね。

ただ、昨年7月にプーチン大統領が出した論文を見ると、ウクライナが真に主権を回復するためには、ロシアとのパートナーシップを通じてしかないという言い方をしています

だから、もしかするとロシアとしては単にウクライナが中立を宣言するだけでは、不満なのかもしれなくて。

やっぱり、ロシア主導の政治経済枠組みにウクライナが戻ってくる、そういうところまで要求したいのかもしれません

ただ、今のウクライナの国民感情を考えると、とてもそんなことはちょっと考えにくいので、当面は、少なくとも最低ラインとしては、ウクライナの中立の強要ということなんだろうともいます。

Q「中立」が現実のものになる可能性は?

ここのところはウクライナ側の政治情勢にもよってくるし、ロシアがどこまでエスカレートするかにもよってくると思います。

私はウクライナの専門家じゃないので、ウクライナ側がそこを受け入れるかはわからないですが、仮にアメリカとの交渉も決裂した、ウクライナ側がそんなものは受けいれられませんと完全に蹴った場合、ロシアが「じゃあすみません」といって、軍隊をひいて帰って行くというオプションは想像しづらいんですよね。

何らかの強制的方法で要求をのませようとするんじゃないか、それがうまくいくかどうかはわからないが、何かの物理的手段に出るんじゃないか、という気がします。

そのときの方法は、一番単純なのは、いま国境に集まっている十数万人の軍隊を攻め込ませるということですよね。首都キエフとかハリコフとか大都市を一時占拠して、われわれの要求をのまなければ撤退しないぞというようなことをやる

あるいは、ロシアは地上部隊だけじゃなくてミサイル部隊や航空部隊も集結させているので、限定的な空爆でやるんじゃないかという説も出ているし。

それから、2014年,15年のときは現地住民を蜂起させて、そこにロシアが支援を与えるという戦争をしましたよね。そういう形になるかもしれない。あるいは、サイバー攻撃をかけて、国土全体を麻痺状態に陥れるかも。いろいろな方法が考えられるし。

おそらく実際にはこのうちのいくつかを組み合わせたような方法でウクライナに対して、ウクライナの国家全体を一気に転覆するとか、全土を占領は難しいと思うが、政治的に、なかなか耐えがたいような打撃をあたえて要求をのませる、ということが選択肢の中に入っていると考えざるを得ない。これだけの軍隊を集めてきている。しかもそれが非常に長期的だし、なおかつ、とても明確な政治的要求を伴っているわけですよね。

まったく何もしないで、あの軍隊が帰って行くというのは想像しにくいなというのが私の今の懸念です。

Qウクライナのこの緊迫状況。これまでクリミア併合とかあったが、どのレベルと考えていますか?

クリミアのときとかドンバスのときは、いよいよロシアが隣国ウクライナに軍事力行使をしたということで、これは非常に緊迫したわけ。ただ、そのときの軍事力の規模はそこまで大きくなかったわけです。

そのあとも何回もロシアがウクライナ周辺に集まってきた、ということはあったが、今回集まってきているロシア軍は桁が違う。十数万人集まってきているということは、ロシアの地上兵力の3分の1くらいは集まっているわけです。

昨年12月のワシントン・ポスト紙の見立てだと17万5000人くらい。要するに、今だいたい35万人くらいロシアの地上部隊がいるんですけど、その半分くらい集めて侵攻するのではといわれているわけです。

ちょっと、こういう事態は訓練でも見たことないし、これだけの兵力を集めて、ロシアが外国に攻めこんだこともない。ハンガリー事件、チェコ事件、アフガニスタン侵攻、ソ連が実際にやった軍事力行使以来の規模の軍事力行使の準備はされている。

実際にやるかはわからないけど、そういう規模の兵力が集まっていることは外形的に明らかで、私自身、衛星画像を購入して見ているけど、あちこち相当な兵力集結が認められる。しかも今回、今年に入ってからは、極東からも部隊を集めてきて、ベラルーシに展開させている。これらもなかなかかつて、ここまで大規模な兵力移動を極東からヨーロッパまでもっていくというのは、ちょっと見たことがなかったです。

少なくとも冷戦が終わってからのヨーロッパでは最大の戦争の危機といえるのではと思うし、ロシア自身の軍事力行使から考えてもちょっとこんなことはなかなかなかったと思います。

Qロシアが行動を起こすならいつと考えていますか?

ロシアの軍事思想って非常に偽装、マスキローフカを重視するわけですよね。だからなかなか、いつくるだろうとみんなが思っても、そこは必ず外そうとするでしょうし。

それからもうひとつは、ロシアの軍事思想で特徴的なのは戦争の初期段階は、とても特別な期間だと考える。そこでは普通の戦い方はしない。

あるいは過去の例から予測できなかったような戦い方をする。それによって、できれば戦争初期段階で、敵が戦争遂行能力や意思を砕きたいと考えるわけです。

だからロシアがこの時期にこんなことをするだろうということは予測しがたいのが正直なところだろうと思います。

ただ、直近のスケジュールを見ると、ベラルーシにロシア軍が展開してきて、合同訓練の第一段階をしている。移動することそのものが目的とされていて、遠いところからベラルーシに展開させている、これ自体が訓練となります。

第二段階が、2月10日から20日にかけて、大規模な戦闘訓練を行いますよと言っているわけですよね。だから、こういう大規模な訓練なんかのどさくさに紛れて、なにか実力行使をするのではないか、とか。

これもどこまでほんとかわかりませんが、プーチン大統領としては、オリンピックやっている中国の習近平主席の顔をつぶしたくないと配慮しているとか。実際に習近平主席がやらないでくれと頼んだとかいろんな説が乱れて飛んでいますよね。

もし中ロの首脳にとって、そんなにオリンピックが大事なら、もしかするとオリンピックの終了後まで待つのかもしれない。

そうするとちょうど、オリンピックの閉会式が2月20日で、ロシア軍の演習終わるのが2月20日ですから、そのへんのタイミングで演習から帰るとみせかけて侵入するとか何か別の方法で介入をしかける、そういうことも考えられると思います

Qバイデン大統領も、偶発的な小規模衝突ありえるといっていたが、突発的なことが前線で起きるのは考えられますか?

偶発事態なんで事前にどうこういいにくいですが、ただ、先ほども言った通り、かつてない規模の軍事力が集まっているわけですよね。ロシア軍自身もこんなにたくさん兵隊集めたことないはずなんですよ。

ウクライナ軍も守りを固めているので、軍事力と軍事力が集まっているというのは、何が起こるかわらかない。偶発的な事態は、確かに想定しなければいけないと思います。

それから、今回ウクライナを支援するため、各国が軍事援助を送り込んでいるが、一部情報収集のための特殊部隊も入っているといわれますから。前線付近では、ロシアとウクライナだけじゃなくて、ごく少数だけど西側の軍隊も入っている。そういうものとの偶発衝突もさらに危ないわけですから。

仮にプーチンが本当はやる気がない、フェイントだとしても、軍隊がたくさん集まっているという状況自体が危険なんだということは忘れてはならない。

Q軍事侵攻など最悪の結末を避けるために、周辺国や同盟国は、どんな働きかけや外交的努力ができますか?

まず一つは、通常であればロシアの行動というのは、抑止するわけですよね。そもそもここまで来ないように防衛力をもっておいて、そういうことをやっても、あなた方は負けますよ、あるいは勝てるかもしれないけど、その過程でものすごい損害を受けますよというのをロシアにわからせようとするわけですよね。

だから普通は国家間でそうそう簡単に戦争はしないわけです。

ところが今回の場合は、その抑止がどうも効いていない。あるいは抑止されていないふりをロシアがしているわけですよね。それはウクライナの軍事力だけだったら、なんとかなるというふうにロシアはおそらく思っていて、だからこそウクライナとしてはNATOに加盟して、自分たちだけでは抑止しきれないロシアを抑止したいと考えるわけですけど、そもそもロシアとしては、そんなことができないようにしてやろうと思ってこういうことをやっている。要は、こう、抑止のすれ違いが起きているわけです。

じゃあ、NATOの国々はまだNATOに入っていないウクライナを守るために、軍事力を使ってでもロシアを止める気があるかというと、どうもそういう気が各国ないわけですよね。なんといってもロシアは軍事大国で、核兵器まで持っているわけですから、そのロシアと軍事力を使ってでも対決するという意思は、アメリカにさえないということですよね。

代わりに今みんなが言っているのは、一つは軍事援助を送るから、対戦車ミサイルとか送るので、なんとかこれで頑張ってくれっていう話と、もう一個はもしもロシアが本当に軍事力を行使した場合は、手ひどい制裁をかけますよっていう話です。さらなる経済制裁があるとか、国際送金システムからロシアを排除するであるとか、デュアルユース技術のさらなる制限であるとか、そういう形でロシアの経済を締め上げますよと言っているわけです。

問題はそういった経済に対する深刻なダメージを、プーチン大統領がどういう風に見るかというところだと思うんですよね。普通に考えたらそれは回避したい損害なはずなわけですけど、おそらく2014年のときも、こういう今のような制裁をくらうとわかった上でロシアは介入をしているわけですよね。だからどうもプーチン大統領の世界観のなかで、制裁というものが避けたいけども、絶対に受け入れがたいかというと、そうでもないと見られている可能性があると思うんですよ。

それから、これはまだまったく不確定ですけど、やっぱり今のプーチン大統領の任期って2024年の5月で切れるわけですよね。そのあともやっぱり何らかの形で権力を握ろうとするんだと考えると、やはり国民に対する関心を、国民の関心を変えるような何かを起こしたいと考えていてもおかしくはないと思うんですよね。仮にそういう内政上の計算が経済的なデメリットを上回るんだとしたら、これもやっぱり制裁って抑止効果にならないのかもしれない。

いろんなところで、やったら罰するよって話はしているんだけども、どうもこうロシアを、西側がやっていることだけでロシアを止められるという確信が持てない。止められるのかもしれないけど、どうも不安が大きいわけですよね。

ただそれでも制裁が無意味かっていうとそうじゃないと思うんです。やっぱりやった方がいい。もしもロシアが本当に軍事行動をとるんだったら、きちんと制裁をかけるべきだと思いますし、そこに日本は断固参加すべきだと思いますね。

というのは今ロシアがウクライナでやっていることって、一過性の事態ではない可能性があるわけですよね。これから先も、たとえば西側の国々が、ロシアの要求をのまないのであれば、これから先もロシアは、ヨーロッパの安全保障秩序の変更を求めて、こういうことを繰り返す可能性がある。

それから、こういうロシアのふるまいを見ている例えば中国とか北朝鮮とか、日本にとっての直接の一番の安全保障上の懸念国が「やっぱり西側って弱腰だな」という風に見て、また冒険的な行動に出てくる可能性ってあるわけですよね。なので、グローバルな秩序全体の問題としても、日本の喫緊の安全保障上の課題としても、変なメッセージは出さないほうがいい。

やっぱりそういうことに対しては、完全に止められないかもしれないけれど、確実に罰しますよということは、きちんとやるべきだし、その中で日本はおつきあいではなくて、自分たちの安全保障の問題として主体的にやるんだという風に考えるべきだと私は思います。

Qウクライナというと、遠い国の話だと思いがちな日本人も多いと思うが、世界全体や日本にも関わりのあることと、考えたほうがよいということですか?

そうですね。まさにこれはユーラシアの西側の、反対側で起きていることではありますけれど、結局同じことがユーラシアの東側でも起きうるんだという自覚は、まず持たなければいけないと思いますし、もう一つは、いまわれわれがユーラシアの西側に対して示している態度というのは、ユーラシアの東側で起こることに対して、アメリカとかヨーロッパからかえってくる反応とほぼ同じになると考えるべきだと思うんですよね。

だから、ここで例えば日本が「ロシアとの領土問題もあるんで、ウクライナの件は甘く見ましょうや」というようなことを言った場合に、じゃあ尖閣有事とか台湾有事のときにヨーロッパの国々がなに言ってくるかを想像してみるべきだと思うんですよね。

あとは、いまはやっぱり日本で国家安保戦略改定という話が本格化してきているわけですけれど、そのときにやはりロシアをどう位置づけるかとか、中国をどう位置づけるかとかいうことにも直結してくるわけですから。

やはり今回の件は対岸の火事ではない。対岸であるのかもしれないけれども、こっちでも同じことが起こった場合にどうするのかっていう、わがことに置き換えて考えるべきだと思います。

Qいま配備されている部隊や兵器などから、こんな可能性が高いとか、こんな動きに注目しているとか、ポイントがあれば教えて下さい。

正確にいうと、大体どんな作戦もできる兵力がそろっていると考えるべきですね。まず兵力の数が非常に多いということ、それからロシア軍はいま機甲部隊が4つあるんですけど、4つの機甲部隊全部がウクライナ国境周辺に集まってきています。だから、戦車部隊を中心にして電撃的に侵攻するみたいなことも可能だと思いますし、でも航空部隊とかミサイル部隊なんかも集まってきているので、長距離精密攻撃みたいなこともできるでしょう。

それからさらにいま、バルト艦隊と北方艦隊の揚陸艦部隊が、地中海のほうに入ってこようとしていて、これが黒海のほうまで来られると、もしかしたら陸側だけじゃなくて、海側のほうでもなにか上陸作戦があるんじゃないかとか、ウクライナはいろんなことを心配しなければいけないはずなんですよね。

ウクライナとしてみれば、いろんなこと、あらゆるタイプの侵略を今心配しなければいけないはずなので、兵力を一か所に集中させるということもできなくなってしまうし、こういう態勢で備えようっていうふうに決め打ちすることもできないわけですよね。おそらくまさにそれがロシア側のねらいなんだろうと思います。

だから、外から見ているわれわれもなかなか「ロシアは必ずこうくる」とかっていうふうには、決め打ちができないわけですから、よけいロシアの動き全体と、ウクライナ周辺で起こること全体見ておかないといけないわけです。

取材 柳田理央子ディレクター

2013年入局 松山局・おはよう日本・首都圏局をへて、ニュースウオッチ9ディレクター。ジェンダーや多様性などにも関心あります。