【解説】ロシア 生物・化学兵器使用すればNATOは空爆も 日本は難題に直面

NHK
2022年3月29日 午後5:00 公開

ウクライナで激しい戦闘が続くなか、ロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉が29日、トルコの仲介によりイスタンブールで開催

一方、ロシアは軍事侵攻の重点を東部に置く方針を示しました。

停戦交渉の行方は?

ロシア軍の最新の作戦の意味は?

安全保障が専門の慶応義塾大学の鶴岡路人さんに田中正良キャスターと和久田麻由子キャスターがスタジオで聞きました。

※文末に関連記事のリンクがあります。そちらも参考にしてください。

3月28日に放送された動画はこちら。4月4日までご視聴いただけます。

👀ポイント

○停戦交渉、数日で合意できる状況ではない

○ロシアが生物・化学兵器を使用する可能性は常に存在

○仮に使用すればNATOは事実認定をし、ウクライナ領内で空爆やミサイル攻撃で対応も

○日本は生物・化学兵器使用の認定に必要な証拠をシェアしてもらえるか、ほかのG7各国と同じ決定ができるか、難題に直面する

【ゼレンスキー発言=NATO加盟目指さない】

――停戦交渉が対面形式で、トルコのイスタンブールで行われる予定ですが、それを前にウクライナのゼレンスキー大統領が「中立化を受け入れる用意はある」と述べました。この意図どう見ますか?

鶴岡さん:

端的にはNATOに入らない、NATO加盟を目指さないということです。

今回の発言で重要なのは、NATO加盟を目指せない=ロシアの言うところのウクライナ「中立化」というものとセットで安全の保障を求めているということです。アメリカやイギリス等に安全を保障してもらうということです。

NATOに入らないという話と、アメリカやイギリスと関係を強化して安全を保障してもらうという話。かなり方向性が違う2つをどう両立させることができるのか、これがカギになると思います。

【停戦交渉 数日で合意できる状況ではない】

--今回の停戦交渉が行われたとしたら、具体的な進展はあると思いますか?

鶴岡さん:

残念ながら数日で何らかの合意ができるという状況ではないと思います。

1つ1つの部分については、さまざまな議論が進むと思いますが、最終的にはパッケージですので、全ての部分が整わないといけないわけですが、今の段階ではなかなかそういう状況ではないと思います。

【ロシア軍事作戦の第1段階 成果を強調】

――交渉の行方が依然不透明な中でロシア側は軍事作戦の第1段階の主要目的が達成されたとしたうえで、ウクライナ東部で攻撃を強化する方針を示しています。この東部に重点を置くという思惑をどうご覧になりますか?

鶴岡さん:

今回のロシア軍のメッセージとしては、国内向けには「第1段階は成功した」ということが第1に言いたかったのでしょう。

1か月の戦闘で成果があまりない。しかし、「あまりない」と国内向けに言うわけにはいかないので、この成果を見せる、と。

そして次の段階=第2段階に進むのだということです。

東部に集中するというよりはこれまでの成果を強調したかったというのが今回の発表だったと思います。

【キエフ制圧の優先度は下がったか】

――キエフなどほかの都市の制圧は諦めたのでしょうか?

鶴岡さん:

もしかしたら優先度が下がったのかもしれません

ただ、キエフは首都ですから、交渉を念頭に、ウクライナ政府、そして国民に対して圧力をかけ続けるという観点でキエフは今後も重要だと思います。

――そうしますとロシア軍の部隊の展開はそのままになるということですか?

鶴岡さん:

基本的にそのままなのだと思います。

少なくとも今の段階で、キエフを包囲しようとしていた部隊が大規模に東部に移ったということは伝えられていません

【ロシア 西部の補給路を叩きたい】

――一方で、週末には西部リビウやその近郊でミサイル攻撃が相次ぎました。この狙いについてはどう見ていますか?

鶴岡さん:

西部はNATO諸国から武器の供与を受ける非常に重要な場所です。

NATO諸国からウクライナ西部を通ってウクライナ各地に武器が流れていく。

ですから、ロシアとしてはその補給路を何とかして叩きたい。ただ、なかなかそう簡単ではないということです。

――と言いますと?

鶴岡さん:

NATO諸国からの武器がどのようなところを通って供給されているのかというのは最高機密事項です。

おそらくロシアもリアルタイムでどういう武器がどこを流れているのかは把握できていないのだと思います。

【バイデン発言 きつい表現も過激ではない】

――ロシアの狙い通りに作戦が進んでいないと指摘されました、こうした中でバイデン大統領からは「プーチン大統領を権力の座に残しておいてはいけない」という発言がありました。体制の転覆に触れたと見る向きもありますが、どうご覧なりますか?

鶴岡さん:

これはかなりきつい表現ではあったと思います。

ただ、いま、米欧を中心に一番期待しているのはプーチン大統領が紛争、戦争のこれ以上のエスカレーションをしないで引き下がってもらうことです。

その観点で、何らかの出口を用意しておきたかったということです。

ただ重要なのは、今回の問題は最終的にはプーチン体制を終わりにしないと解決しないと思っている西側、国際社会の人は多いことです。

それはプーチン大統領もわかっています。

ですから、このバイデン発言をもって初めて自分の体制の存続がかかっているとプーチン大統領が認識したとは考えられない

発言は行き過ぎたところがあったかもしれなくても、内容としては必ずしもそう過激なものではなかったのだろうと思います。

――多くの人が思っていることをバイデン大統領があの場で言ってしまったという見方ですね。

鶴岡さん:

ええ。短期的にはいろいろ議論があるかもしれませんが、中長期的に何か大きな影響を及ぼす発言ではないと思います。

【ロシア生物・化学兵器使う可能性 常に存在】

――プーチン大統領が追い詰められると、生物・化学兵器などを使うのではないかという懸念もあります。こうした兵器を使う可能性についてどうご覧になっていますか?

鶴岡さん:

これは常に可能性はある、またそういった兵器を使う能力をロシアは持っているということだと思います。

アメリカやイギリスなどは、さまざまな情報からロシアが使う用意があるということを警告してきています。

可能性としては常に存在するということです。

――相手が使ったという“偽旗作戦”についても要注意ですね。

鶴岡さん:

まさにそうです。

【生物・化学兵器使用の場合 “深刻な結果”】

――アメリカやNATOは生物・化学兵器の使用をどのように防いでいくことになるのでしょうか?

鶴岡さん:

NATOの先週の首脳会合で議論されました。もし生物兵器、化学兵器が使われた場合には深刻な結果を招く、と。

NATO事務総長は「いかなる化学兵器の使用も紛争の性格を根本的に変化させる」という言い方をしています。

その裏にNATOの決意があるということを示唆することで、ロシア側の行動を抑止しようとしているのが現在のアプローチです。

――抑止の効果は十分に働いているのでしょうか?

鶴岡さん:

ここが問題でして、ロシア側にNATOが足下を見られて「どうせ言葉だけでしょ」と思われてしまうと、残念ながら抑止にはならないというところです。

【NATO 空爆・ミサイル攻撃で対応も】

――ロシアが生物兵器、化学兵器を実際に使った場合、アメリカやNATOは具体的にどういった対応を取ることになるのでしょうか?

鶴岡さん:

ひとつの可能性としては、軍事作戦を実施することも選択肢に入っているのだと思います。ただ、「軍事作戦」と言いましても地上部隊を派遣して侵攻するということではありません。おそらく空爆、あるいはミサイル攻撃ということになるのだと思います。

最大の問題は、ロシアが使ったとしてもロシア側が「私が使いました」と言うわけがないですね。「ウクライナが使った」や「アメリカが使った」と言うわけです。

ですから「ロシアが使った」という認定をどのようにするのか。

そのためには証拠を集めてNATOの北大西洋理事会という最高意思決定機関でコンセンサス、合意を作る必要があります。

この認定という段階が非常に難しいのだと思います。

――認定に時間がかかるということですね。

鶴岡さん:

はい、かなり時間がかかる可能性があります。

と言いますのは、アメリカ軍が現地にいるわけではなく、どのように証拠を集めてくるかは極めて難しい問題です。

【空爆 ロシア領内ではなくウクライナ領内で】

――「空爆」と言われましたが、何を対象とした空爆が考えられるのでしょうか?

鶴岡さん:

限定的に言えば、化学兵器を使った部隊を直接狙うということになると思いますが、認定に時間がかかるとその部隊がどこかに行ってしまう。

あるいは、ロシアに帰ってしまうことが想定されます。この標的というのも難しいところです。

ただ、ロシア領内を攻撃するということはあり得ないと思います。

――ウクライナ領内での攻撃?

鶴岡さん:

ウクライナ領内でロシア軍を、というのが現実的な線だと思います。

ただ、化学兵器を使ったという認定がすべてのハードルになります。

――確認ですが、ロシア領内?ウクライナ領内?

鶴岡さん:

ロシア領内ではなくウクライナ領内で、ということです

【日本にとっては大きな難題】

――話のあった空爆ということになれば戦闘の性格が大きく変わります。そのとき、日本はどう対応していくべきだとお考えですか?

鶴岡さん:

非常に難しいところです。

問題が2つあります。

1つはロシアが化学兵器を使ったという認定のための証拠について、日本はどれくらいシェアしてもらえるのか

そしてNATOが認定した場合、同じ決定を日本もするのか

次の段階は、もしNATOがロシアによる化学兵器の使用を認定して何らかの軍事作戦を行う場合に、日本はそれを支持するのか

あるいは支持できない場合、外交上は「理解をする」という表現もあります。

ただ今までG7で足並みをそろえてロシアに対応してき、最後の重要な局面で日本だけ別の判断をするということが果たして本当にできるか

このあたりは日本にとって非常に大きな難題だと思います。

――アメリカやNATOからどんなことを求められると見ていますか?

鶴岡さん:

「軍事作戦に参加する」ということあり得ないですが、最低限、ロシアによる化学兵器の使用という事実の認定ということは同調を求められるとは思います。

――ありがとうございました。

※読みやすいように一部修正しています。