ウクライナ情勢 中国の動きをどう見るか 学習院大の江藤名保子さんに聞きました

NHK
2022年4月5日 午後2:00 公開

見逃し配信は4月7日まで

ロシアの今後の出方にも影響を与えうるとして、動向が注目されているのが中国です。

中国はロシア寄りの姿勢を保つ一方で、停戦交渉でウクライナ側が提案した新たな「安全保障の枠組み」の中にも名前があがっています。

その中国は先週ロシアと外相会談を行うなど独自の外交を展開しています。

中国の真意はどこにあるのか。

東アジア国際関係や中国政治に詳しい学習院大学法学部教授の江藤名保子さんと読み解きました。

(3月31日の放送内容を記事にしました)

先週(3月30日)中国とロシアの外相会談が行われ、その冒頭でロシアのラブロフ外相は次のように発言しました。

(ロシア ラブロフ外相)

「われわれは今、国際関係の歴史の中で非常に深刻な局面を迎えていることを懸念している。多極的で、公正、民主的な世界秩序に向けて、同じ志を持つ者として一緒に進んでいこう」

これに対し、中国の王毅外相は、友好的に答えました。

(中国・王毅外相)

「両国は関係をさらに発展させる意思がより強くなった。友人であるあなたとともに首脳どうしの共通認識を踏まえたうえで、新しい時代の戦略的パートナーシップを推し進めましょう」

東アジア国際関係や中国政治に詳しい学習院大学法学部教授の江藤名保子さんは、2人の交わした言葉に、現在の中国とロシアの関係性が表れていると指摘します。

江藤名保子教授:

「ラブロフさんの方からも、王毅さんからも出ている『多極化』とか、中国側が使った『民主化』『民主主義』というような言葉遣い。この問題が起こる前からずっと国際秩序を語る際に中国側が使ってきた言葉遣いなんですね。この点においてロシア側が中国側が用いている言葉遣いで中国との協力を打ち出していくということは、ロシア側の方が中国にやや歩み寄りを見せている部分があると思います。これは中国側からしてみると『あー困っているんだろうな』と言うことを、やはり感じ取る部分があったと思うんですね。お腹の中でお互いの探り合いの部分もあるという状況だったんじゃないかと思います」

それでも、江藤さんは中国は「ロシア寄り」の姿勢を大きくは変えられないのではないかと見ています。

田中キャスター:

「中国側として考えるであろう対ロ外交の今後っていうのは、どういうところがポイントになってくるというふうにご覧になりますか?」

江藤教授:

「まず大前提としてですね、中長期的な戦略論としての対米競争が基本にある。これがもう一貫してぶれていないわけです。一貫してロシアに寄り添う姿勢を見せているというのは、アメリカに対する戦略というのが『ウクライナ後』に出てくるからだということが中国側の念頭に常にあるからなんですね。これから先のアメリカと競争する上で、経済だけでなく国際社会の世論や秩序や価値といったところで、ロシアとの協力関係は、基本的に外せないものであるということを前提にしつつ、外交をしなくてはいけないということがある」

一方、アメリカは3月に行われたオンラインの首脳会談で、中国に「ロシアを支援すれば代償がともなう」と警告しました。江藤さんは、これが、中国にとっての懸念材料になっていると指摘します。

江藤教授:

「今回アメリカ側が、経済制裁の抜け穴になるようであれば対応するという発言をしたということは、2つの意味で中国にとって問題認識を高めたと思います。ひとつは、やはりアメリカは中国を悪役の仲間にするんだと、あなたは悪役ですよねというレッテルを貼ろうとしている。これは中国の立場からすると、自分たちは全然悪いことはしていないということをかねてから国内外に向けて発信していますので、それに対してアメリカが声高に経済制裁の抜け穴になるんですよね、というような批判をする。これはやはり中国としては受け入れがたい」

「もうひとつは実質的に中国経済には下振れ圧力が強まっているので、その中で西欧諸国との関係性は大事にしなければいけない部分が国内事情としても強まっている部分がある。その意味においても、経済制裁を大がかりに中国の経済が受けることは今は望ましくない。(秋の)共産党大会に向け国内の安定ということをしきりに言っていて、この中にはとりわけ経済の安定が大きな意味で含まれていますので、ここで経済制裁を受けて、より経済が景気の下振れ圧力になるということがあると非常に困る」

中国は今後どう関与するつもりなのか。

ロシアとの停戦交渉の中で、ウクライナ側は、NATO=北大西洋条約機構の加盟を断念する代わりとなる新たな安全保障の枠組みを提案しています。

そこには、アメリカやイギリスなどに加え、ロシアや中国も含まれる可能性があるとしていて、今後、具体的な調整に入りたい考えを示しています。

田中キャスター:

「ウクライナ側が提起した安全保障の枠組みの中に、結構驚いたんですけれども、中国の名前が載っていました。これは中国にとってはですね、どういう受け止めだと(いう風にごらんになりますか」

江藤教授:

「枠組み次第ということになるのではないかと思います。中国は“中国が参加することでアメリカができなかったロシアとウクライナの問題を解決に導くことができた”“道筋をつけることができた”ということになれば、これはもう大国中国ならではだというひとつの宣伝材料にもなりますし。今までこのウクライナ問題に対してやっていたことは間違いでなかったんだという結果を得ることができるわけですね。ですので枠組みの中身次第によっては、中国はこれは乗れるかもしれないと考える可能性はゼロでは無いですが、ただ、今ウクライナ側が求めているものは、中国側からするとおそらくそれは飲めないだろうと考えられる部分もありますので具体的に考えた場合には“難しい”という判断をしていると思います」

田中キャスター:

「様子を見ながら慎重に、別の言葉を使えば、臆病に状況を見ながら対ロシア、対ウクライナ、対アメリカ、対EUの対応を決めていくと?」

江藤教授:

「臆病にというよりは、私はしたたかにと言うふうに感じております。というのはやはりこの中でどうやって利益をとっていくのかって言う意識がかなり強いと思うんですね。中国にとって懸念材料であると同時に、『ピンチをチャンスに変える』というのを中国の人たちはよく研究することで、この流動的な状況をもって中国がより確固たる地位を築くということにもつなげていけるかもしれないと。その際に中国側が大きな損害を被っていたり中国側が非難の対象になっていたりといった場合にはその効果が半減してしまうと。それは避けたい。ただ得られるものは何なのかということは注意深く見ながら、取れるところはとっていく。必ずしも完全に勝ち戦なんて考えているわけではなくて、どう選択してうまく自分たちの利益を得て、この先中国が確固たる地位を築いていくことができるかということを、知恵を絞ってしたたかに行動しているという状況であると思います」

田中キャスター:

江藤さんのお話から浮き彫りになってきたのは、習近平政権は、ウクライナの戦争で、外交的な失敗は絶対にできないということです。

国際社会の批判、そして、国内の批判、この双方に神経をとがらせながら、中国の存在価値がもっとも高まるところで出てくる。そのための外交準備をいま続けていると見ていいようです。