軍事侵攻の余波 経済危機に陥る国も スリランカ 暮らし・医療の危機

ニュースウオッチ9
2022年5月25日 午前6:05 公開

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻による暮らしへの影響は世界中で広がっています。

中でも、国民の不満が爆発し大きな混乱に陥っているのが、インド洋の島国・スリランカです。政府への抗議デモが1か月以上続き、死者も出ています。

最大都市コロンボの消費者物価の上昇率は先月、30%近くにのぼったほか、中央銀行の総裁は、デフォルト=債務不履行の状態に陥ったとの見方も示しています。

市民生活や、医療までもが、危ぶまれる事態となっています。

(5月23日放送)

(ニューデリー支局 太田雄造記者 ニュースウオッチ9 林久美子記者)

最大都市コロンボの市場。

物価の高騰が市民生活を直撃しています。

青果店:

「トマトは以前200ルピー(70円余)だったのが、今は600~800ルピー(210~280円余)もする」

こうした物価上昇の背景にあるのが、ウクライナ情勢による燃料代の高騰です。

新型コロナの影響で観光収入が激減し、外貨不足に陥っていたこともあり、調達が難航。

政府は石油の在庫が底をつきかけているとしています。

コロンボの中心部では、市民生活への影響が長期化するなか、連日、政府への抗議デモが行われています。

ラジャパクサ大統領に辞任を求める市民たち。

デモ参加者:「大統領は愚か者!」

デモ参加者:「血を流してでもデモを続ける」

1か月以上前に始まったデモは全国に拡大。混乱が収まる見通しは立っていません。

さらに、深刻な状況に陥っているのが医療です。

スリランカ最大規模の小児病院です。節電のため、薄暗い待合室…。

本来は使い捨ての医療用チューブも…。

およそ85%を輸入に頼っている医薬品も、今は調達が難しくなっています。

先月、乳がんの摘出手術を受けたマーリ・アンマーさん(69)。

手術の傷口を治すために処方された4種類の薬のうち、抗生物質が手に入らず、痛みが出ていると言います。

今後受ける予定だった抗がん剤治療についても見通しが立っていません。

マーリ・アンマーさん:

「『薬がないから どうしようもない』と医師から言われました。生きていたいけれど、薬がなければどうなってしまうのでしょう」

今回の経済危機。

南アジアの国際関係に詳しい防衛大学校伊藤融教授は、以前から抱えていた財政の問題がその根底にあるといいます。

その財政運営を支えてきたと指摘されているのが「中国マネー」です。

これまで、親中派の政権のもと、道路や鉄道といったインフラ建設を推し進めてきたスリランカ。そこに中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、巨額の融資を行ってきました。その結果、スリランカの債務はばく大な額に膨らみ返済不能に。

南部の重要な港湾の運営権を99年間、中国に明け渡すことになるなど、「債務のわな」と呼ばれる状況に陥っていたのです。

伊藤教授は、スリランカが、こうした苦しい財政状況の中で、ウクライナ侵攻による食料や資源の高騰に直面し、対応出来なくなったと指摘します。

伊藤融教授:

「そもそもスリランカのラジャパクサ政権というのはポピュリズム的な性格を持っていて、減税をしつつ、しかし大規模なインフラプロジェクト等は進めていっていたわけです。かなり放漫な財政経営、財政運営を行ってきたことが根底にあったわけですよね」

「相当程度税収が少ないにもかかわらず、ぎりぎりのところまでインフラ等々への投資、大規模開発の投資もやってきてそのまたその分を借金で補うというような綱渡りの財政運営を行ってきた.それがこのコロナと、ウクライナの危機によってもう回らなくなったっていうのが正しいだろうと思います」

今後、スリランカはどうなるのか。

インドや中国、それに日本などが支援に乗り出しているほか、インド政府はクアッドの首脳会合でも話し合う見通しを示しています。

伊藤融教授:

「中国がさらにお金を貸し付けたりして、中国を中心とした大型インフラプロジェクトが続いていくとなると、スリランカにおける中国の影響力が強まることなので、インド太平洋における戦略の重要な島国が中国に依存する状況をまた作り出してしまうのは避けないといけない。自由で開かれたインド太平洋っていうものを構築していくものであれば、スリランカの安定化のために今の経済危機をクアッドあるいは日本が中心になってやっていくんだということを示すことは必要だしそれは可能だと思う」

山内キャスター:

資源や食料の高騰が、弱い立場の人たちの暮らしに深刻な影響を与えていますよね。国際社会は痛みを伴いながらもロシアへの経済制裁を続けているわけですが、こうした現実にも向き合う必要があると感じます。

田中キャスター:

伊藤さんは、スリランカ以外にも、パキスタンやモルディブなど中国に多額の債務を抱えている国で同じような危機が起こる可能性があると話していました。

(5月23日放送)

(ニューデリー支局 太田雄造記者 ニュースウオッチ9 林久美子記者)