音楽家の常田大希さんに和久田キャスターが聞きました。音楽に対する思い、組織論など幅広いお話をしてくださいました。
◎常田大希(つねた・だいき、1992年生まれ)音楽家でロックバンドKing Gnu、音楽家集団millennium parade、クリエイティブレーベルPERIMETRONを率いる。2021年はmillennium paradeとしてNHKスペシャル シリーズ『2030 未来への分岐点』のテーマ音楽「2992」を書き下ろしました。
--2021年を振り返っていかがでしょうか?
常田さん:
去年から続くパンデミックで、音楽業界は大打撃を受けて、ほんと、純粋に音楽と向き合う、音楽を作るということ以外のことが多すぎて、すごくもがいていた1年でした。ライブが中止だなどということが多かったから、そういうものも作品に反映されているとは思うんです。言葉やリリック、歌詞もそうですけど、サウンド的にもよりライブだとか、そういうものの表現に憧れるアプローチが増えたりしましたね。
--「2992」のオファーを聞いたときどう思いましたか?
常田さん:
恋愛系よりはやりやすかったです。基本的に自分が作るものは規模感が大きい作品というか“鳴ってる”サウンドが大きいので、親和性はあるなと思いました。
オーケストラの生の質感と合う音楽
--どう向き合ったのでしょうか?
常田さん:
アコースティックな質感というかオーケストラの生の質感とベースやドラムだとか、どう猛な音がすごい合うなとは思いました。ただ、音楽って抽象的なので、絵みたいに景色をかくわけじゃないので、なかなか説明はしずらいですね。
--なぜオーケストラと現代のサウンドをかけ合わせたのでしょうか?
常田さん:
おれのバックボーンもそうだし、西洋音楽を学んで育ってきた人間ではあるので、あまり作為的に「あれとあれをあぁしてこうして」と考えたわけではなく、そのルーツに忠実に、おれのなかでは自然なことでした。
自分の中で“鳴ってるもの”
--設計図があるのでしょうか?
常田さん:
もちろん自分が思い描いているものがどういう要素で構成したらそうなるかというのは考えますけど、あくまで自分の中で“鳴ってるもの”じゃないと意味がないと思っています。
--「2992」ではどんなことを表現できたとお考えですか?
常田さん:
日本ではあまり日常生活でオーケストラに触れる機会が文化として根付いてないと思うので、そういう意味では触れてもらえるきっかけのひとつになれたんじゃないかなという手応えはありました。
--聞く人に間口を広げられたのではないか、ということでしょうか?
常田さん:
うん。もっとカジュアルなものでいいと思っていて。音楽教育の問題点じゃないけど、音楽室にバッハといった作曲家の肖像が飾ってはいるものの、敷居が高いというか、根付いているわけではないじゃないですか。だからそういうものにもっとカジュアルに触れるような音楽の楽しみ方にもっと変わっていったらいいなという思いはありますね。
--常田さんだからこそできることだと。
常田さん:
そう、おれがやるべきことなのかなというのは、年々思っています。
曲にえぐい面と美しい面
--その「2992」の曲とNHKスペシャルがマッチしたと思われますか?
常田さん:
すごいえぐい面と、すごい美しい面との両面があの曲にはあって、環境問題を映し出した映像と、それでも「この国、この地球は美しいね」というものもまた、音楽にも内包できたと思うので、そういう意味でもすごく合っていたんじゃないでしょうか。
祈りに近い気持ちで曲作り
--「2992」は1992年生まれの常田さんが1000年後を想定されたタイトルですよね。それからmillennium paradeというプロジェクト名も「1000」がキーワードになってると思うのですが、常田さんが未来を見据えて活動をされている理由は何でしょうか?
常田さん:
未来を見据えて活動してる理由・・「1000年」という年月はおれ自身も実感ないんですけど、世の中を悪くしようと思って動く人はいないじゃないですか。基本的には、それぞれの価値観で世の中を楽しくだったり、いい方向にしようって動いている中での、2021年が今。
2021年におれたちがいるということをポジティブに捉えたいなぁと思っています。そういうものがまた脈々とこれから先、続いていってほしいというか、とても身近な感覚というか、壮大なスケールが壮大な話で全くなくて、ちゃんと続いていってほしいなという祈りに近いですかね。
--「祈り」とおっしゃいましたけど、常田さんの作る楽曲にはそういった要素も入っているのですか?
常田さん:
そうですね。特にこの1年、近年、作る作品にはその要素が多いな、年々増えているなという感覚はあります。かなり本能的に作る方なので普通にこの社会で生きている中で自然と自分が欲していると思うんですけど。
--常田さんが未来を考える上で、1000年後、どんな未来であってほしいと思っていらっしゃいますか?
常田さん:
10年でいろんな価値観も常識もすごい速度で変わっているなって思うんだけど、人の感情だったり、たぶん1000年前もたぶん同じだったんじゃないかなと思います。当たり前にいろんなことがどんどん変化していくと思うんだけど、人はちゃんと続いていってほしいというか。
--人とは人の心のことですか?
常田さん:
人の心だったり、動き、心の動きだったりとか。
ポジティブなエネルギーで何かを変えたい
--常田さんが「祈りたい」「祈りを込めたい」と、「祈り」という言葉にされたことはいま、世の中が望ましくない方向に行っているといった見方があるんですか?
常田さん:
いろいろ目にしますよね。ネガティブなパワーが大きいなと感じます。大きくなっているというのは社会問題とリンクしていると思うんですけど、ネガティブな力ではなく自分たちはポジティブなエネルギーで何かを変えていきたい。
--常田さんの目にするというのは例えばどういうことでしょうか。
常田さん:
ネットの世界もそうですけど、そういう力で何かを変えようとしてる人がすごく多いなというのは感じますね。そういうものを吐き出すという作業があってしかるべきだとは思うんですけど、ネガティブとはある意味“麻薬的”というか、“快感”、“快楽的”でもあると思っていて。自殺のニュースも、この数年特に目につくようになったりとか、そういうものに対しての反発や反抗心としての“祈り”みたいな美しい力を放っていきたいという思いは強くあります。
“音楽ファースト”
--ここから活動のされ方について伺っていきたいと思います。常田さんはKing Gnuというグループだけではなくて、millennium paradeでも楽曲ごとにプロジェクト単位でメンバーを集めて制作されておられます。ひとつのグループや同じメンバーにこだわらず、縛られずに活動しようという考え方に至ったのはどうしてなんですか?
常田さん:
いろんな人がいて、それぞれにそれぞれの魅力があるので。おれみたいに、何かを作って人に参加してもらって、という立場からすると、それぞれの一番輝くポイントを見たい。映画に近い感覚で作っているかもしれないしれないですね。例えば映画でコメディーに適している人が他の全く違う映画に出演したとき、もちろん合うこともあれば合わないこともあるじゃないですか。そういう感覚ですかね。
完全に“音楽ファースト”です。幸いなことにおれたちはいろいろなプロジェクト、King Gnuもそうだし、millennium paradeとか、PERIMETRONとか、そういうやつらが集まっているので、それが割と当たり前。「今回はあいつのほうがこの作品にとってはいいよね」、ということが自然とできる。
チーム作りは公園を作る感じ
--ボーカルの方が曲ごとに違うというのも斬新ですね。
常田さん:
考え方とかノウハウをすり合わせていく作業が必要になるじゃないですか。クリエーションの全体の座組というのは、ある程度固定されていて、自信があります。これは誰が来ても、誰が乗っかってきても揺らぐことはない。そういう世界観の構築に関しては、そのくらいの強度を持て始めていると思っているので。だからそこの中でそれぞれ曲ごとに遊んでもらうという感じですかね。
ただ「作った中で遊んでもらう」みたいな感覚です。なので、それぞれに投げっぱなしだと収拾付かない。抽象的ですけど、おれは1個の大きい公園を作る必要があるというか。そのステージでそれぞれが遊んでくれたら、その結果最高なものになるという状態が生まれそうかなと思います。
バンドも会社みたいなもの
--今の世の中の働き方のことを考えると、終身雇用でひとつの会社で働き続けるというよりは、その場で能力を発揮するフリーランスなど選択肢のひとつになっていると思いますが、それと似ている部分もあるのかなと感じました。
常田さん:
いわゆる会社に勤めたとかそういう社会経験はないんですけど、バンドも会社みたいなもので社会の最小編成というか。音楽やバンドをやっていることと会社を…まったく別の職業の会社をやっているとか、先生やっているのも違いがあまりないと思っていて。
それは多分、全員、どの職業の人でも、そういう組織は作るべきだと思うし会社の一部署でも、どんなチームでもいいと思うんだけど、ひとつの考え方の助けになるという感じじゃないですか。
それこそ、ダイバーシティ・多様性の時代というのが、ここ数年よく聞くようになったけど、そういうひとりひとりをしっかり見つめることをないがしろにして、ひとつの…コマみたいな感覚で俯瞰して見た時とは組織の作り方が全然違うとは思うので、よりそういう多様性から来る感覚な気がします。かと言って、よく知ったやつだけで構成されていると、また甘えみたいなのも出てきたりするので、また違った難しさもあります。
身近になってきた社会問題
--今回「2992」で環境問題に向き合って制作していただきましたけど、もう少し世代のことを伺うと若い人ほど社会の課題を自分のことと捉えている人が多い気がするんですよね。常田さんご自身と社会の課題の距離感はどんなものですか?
常田さん:
自分の身に何か起きたり、自分の近くで何か起きたことでようやく問題と認識するじゃないですか。すごい自分勝手かもしれないけど、たいていの人たちがそういう感じなんじゃないかなと思います。それが、単純に身近にささやかれてきた問題が若い世代で身近なものになってしまっているというのがあると思います。
この職業は毎日こもって地味
--最後に2022年はどんな挑戦をしていきたいと考えていますか?
常田さん:
この職業って華やかに見えますけど、実は毎日こもって地味な生活なわけですよ。こもって試して、作ってというのを繰り返している人生なので、来年も折れずに、引き続きって感じです。
宮崎駿さんが、「アニメの奴隷だ」みたいなことを言ってたのが、ほんとに誇張じゃないと思うんです。たぶん、DNAに刷り込まれてるくらいの抗えないものな気がするんで、来年も(音楽の)奴隷として全うしたいですね(笑)。
音楽の動機は社会を変えよう、ではない
--まだまだ祈らなければいけないことがありますか?
常田さん:
祈らなければいけないことばかりですね。音楽にできることなんてたかが知れているので。社会を変えようだとか、そういう動機で音楽をやっているわけではないですけど、ポジティブな力というか美しいものっていうものをただひたすら追うだけですね、来年とか関係なく。
--ありがとうございました。
※インタビューは12月21日に行われました。読みやすくするために一部修正しています。