ウクライナにとどまり、SNSなどで徹底抗戦を呼びかけ続けているゼレンスキー大統領(44歳)。
いったいどういう人物なのか?
ウクライナ国民の気質は?
ロシアとの停戦交渉の行方は?
ロシアがウクライナのクリミアを一方的に併合した2014年から2019年まで、ウクライナ駐在の大使を務めた角茂樹さんに田中正良キャスターと和久田麻由子キャスターが10日、スタジオで聞きました。
👀ポイント
○ゼレンスキー大統領は信念があってピュアな人
○俳優出身で発信力があり、国民をひきつけることが非常に上手
○ウクライナでは武器を取って戦うことが当然だと市民ひとりひとりが思っていて、強い抵抗は今後も続く
○きょうだい国の惨状をロシア国民が知れば大きなうねりになる
【ゼレンスキー大統領とは】
まずは、ゼレンスキー大統領についてコンパクトにまとめました。
3年前、若者を中心に幅広い支持を集め大統領に初当選。
その数年前には、大統領の役でテレビドラマに出演。
コメディアンや俳優として活動する人気タレントでした。
大統領就任後は、ヨーロッパとの統合路線の一方、ロシアとの対話路線も掲げてきました。
「弱腰だ」などの批判から去年は支持率が30%台から40%台と低迷していましたが、ロシアの軍事侵攻が始まると徹底抗戦の姿勢が国民に支持され、現在は91%へと急上昇しています。
8日、イギリス議会で行ったオンラインの演説では「われわれは決して降伏せず、決して敗北しない。どんな犠牲を払おうとも海で戦い、空で戦い、国のために戦い続ける」と述べました。
この演説は、第2次世界大戦当時、ナチス・ドイツの猛攻を前に、国民に徹底抗戦を呼びかけたイギリスのチャーチル首相になぞらえたもので、国際社会にロシアへのさらなる対応を促しました。
【元ウクライナ大使に聞く】
ウクライナ駐在の大使(2014年~2019年)を務めた角茂樹さんに聞きました。
【ウクライナはロシアの要求を飲めない】
ーーロシア軍が侵攻を続けるウクライナ情勢をめぐり、ロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相は10日、トルコ政府の仲介で、軍事侵攻が始まって以来初めてとなる対面での会談をトルコ南部のアンタルヤで行いました。今回の外相会談では進展が見られなかったということですが、どう受け止めていますか?
角さん:
最初から期待していなかったです。
というのは、ウクライナとロシアの立場があまりにも違いすぎます。
具体的にはウクライナ側に対して、ロシアは▽非軍事化、▽中立化、▽クリミア半島のロシアの主権承認を求めていますが、どれもウクライナにとって飲めるものでないからです。
【ロシアに重要なのはウクライナの非軍事化】
ーーウクライナ側は会談に先立って、NATO加盟に当面はこだわらないという考えを示しました。これはロシアにとっては不十分ということなんですね?
角さん:
そうなんです。
NATOの加盟というのは、そもそもきょう、明日行われることではなくて、先のことと見られていましたから。
ロシアにとって重要なのは、ウクライナの非軍事化。
具体的には、NATOから軍事的な支援を受けること、武器の供与を受けること、訓練を受けること、これさえもだめだということなので、ここはなかなか意見の一致は見ないところだと思います。
【国民の非常に強い抵抗は続く】
--4年以上にわたってキエフに駐在されましたが、現在のウクライナ側の抵抗、それから国民の決意をどうご覧になりますか?
角さん:
実は、2014年にロシアはクリミアを併合して東部ドンバスで戦争を始めたわけですが、そのときのウクライナというのは、ロシアとも友好な関係があると思っていたし、西側とも友好な関係があると思っていたので、全く軍事的な準備はしてこなかったんですね。
ところが2014年以降、ウクライナは軍事的にもNATOの支援を受けて非常に強化されています。
それからロシアとは縁を切るということで、ナショナル・アイデンティティーができています。
ですから非常に強い抵抗は今後も続くと思います。
【世界が支援するのはゼレンスキー大統領】
ーーゼレンスキー大統領のリーダーシップが市民の頑強な抵抗につながっているという側面もあるということですが、どうご覧になっていますか?
角さん:
ゼレンスキー大統領の国民の前で行う演説はすばらしいものだと思います。
皆さんも比べてみてください。
プーチン大統領とゼレンスキー大統領がそれぞれ国民に向かって、世界に向かって、演説しています。
世界の同情、支援はすべてウクライナに向かっているわけですから、ゼレンスキー大統領が国民を統一し、そして国際社会に支援を訴える姿はすばらしいと思います。
【信念があってピュアな人】
ーー角さんは、3年前の選挙の前からゼレンスキー大統領の動きをご覧になってきたということですが、改めてどんなリーダーなのでしょうか?
角さん:
実は、ゼレンスキー大統領が大統領候補になっていると聞いたとき、本当にびっくりしたんです。
ゼレンスキー大統領は、コメディアンで俳優ですからね。
ウクライナというのは非常に大きな国ですから、全く政治の経験がない人が本当に治められるのかな、と。
ところが、逆に政治経験がない、つまり老獪な政治家のような手練手管もないこと。
また、信念、それから非常にピュアであること。
これが本当に国民の支持を集めて急速に人気が出てきたんですね。
数か月の間に、最初は「こういう人は大丈夫かな」と思ってたところから、有力な大統領候補に名乗り出ました。
【俳優出身で発信力ある】
--この戦況の中でも発信力が発揮されているということでしたが、平時での発信力はどう見てらっしゃいますか?
角さん:
ゼレンスキーという人が今までの政治家と違って、本当に信念でやっているということを非常に感じる人だと思います。
そういう意味で非常に発信力のあるし、もともと俳優さんですから、国民をひきつけることは非常に上手な人だと思います。
ーー発信力で見るとゼレンスキー大統領とプーチン大統領の違いが歴然としていますね?
角さん:
本当にそう思います。
世界の支持、それから国民の支援は、ゼレンスキーが圧倒的に集めていますね。
【供与された武器はロシア軍に脅威】
ーーゼレンスキー大統領が繰り返し求めているが実質的な支援。とりわけ軍事面の支援だと思いますが、ウクライナが強く求めている飛行禁止区域についてはNATOは明確に拒みました。武器については支援が続々と届いているということですが、こうした支援はウクライナ軍の抵抗にどうつながっていますか?
角さん:
非常に役に立っていると思います。
具体的には「ジャベリン」という対戦車砲、それから「スティンガー」という飛行機に対する攻撃(に使うミサイル)。
これはロシア軍にとっては大変な脅威になっていて、ロシアが思ったように軍事作戦を展開できない大きな理由になっていると思います。
【戦うことを当然だと市民が思っている】
ーーウクライナ軍は当初の予想よりも強く抵抗していますが、ロシアとの戦力の差が大きいという指摘もあります。今後の戦況の展開をどう見ていますか?
角さん:
ウクライナ軍、及びウクライナ国民は戦い続けると思うんですね。
というのは、ウクライナの人は、第1次世界大戦、第2次世界大戦で独立のために戦った歴史がありますから、こういう逆境にあっても、武器を取って戦うということは、ある意味では当然のことだと市民ひとりひとりが思っています。
そういう意味では、軍隊だけではなくて市民ひとりひとりが武器を取って「ロシア軍に征服されてたまるか」というナショナル・アイデンティティーがありますから、私はこの戦いは続くと思います。
ーー長期化は避けられそうにないということでしょうか?
角さん:
そういうことですね。
【惨状をロシア国民が知れば大きなうねりに】
ーーウクライナもロシアも譲らないということで、戦闘が長期化するというご指摘でした。食い止めるには今、何が必要でしょうか?
角さん:
今のままではなかなか難しいのですが、私はひとつの鍵となるのはロシアの国民の反応ではないかと思っています。
ロシアの人たちは、教科書で「ウクライナは自分たちのきょうだい国であり、きょうだいである」と習っています。
その国でこのような惨状が起こっているということを知ったら大変なショックを受けるはずです。
それもあって今、プーチン大統領はSNS等を遮断して国民にそれを見せないようにしています。
決してロシア軍が苦戦していることを知らせたくないということではなくて、ロシアが侵攻した結果、このような惨状がきょうだい国であるウクライナに起こっているということをロシア国民に知ってもらいたくないのだと思います。
ですから何とかこの惨状をロシアの国民が知れば・・知らせることができれば、私はロシアの国内で「戦争をやめたい」という大きなうねりになるのではないかと思っています。
ーー角さん、どうもありがとうございました。
※10日に放送され、読みやすいように一部修正しています。