【解説】周辺国で高まる危機感 ドイツ政策転換は革命的で欧州の風向き変わった

NHK
2022年3月14日 午前7:00 公開

ロシアのウクライナへの軍事侵攻

ヨーロッパにとっては、第2次世界大戦のきっかけとなったナチス・ドイツによるポーランド侵攻以来の大規模な侵略だと指摘されています。

ヨーロッパ各国は今回の事態をどう受け止め、今後、どう動いていくのか。

国際政治が専門の北海道大学教授の遠藤乾さん和久田麻由子キャスターが聞きました。

3月11日(金)に放送された動画はこちら。18日までご視聴いただけます。

👀ポイント

欧州の一致した行動の背景には強い憤り

国際協調ではなく自由と民主主義のために立ち上がった

天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働手続き停止と、武器供与というドイツの政策転換は「革命的」で、驚きに値する

ロシアの軍事侵攻により周辺国では“過去の亡霊”がよみがえった

ロシアの蛮行を止めつつ大戦になるような挑発の回避を

  

【欧州は高いレベルで結束】

--長年ヨーロッパ政治をご覧になってきて、今回のロシアの侵攻を率直にどう受け止めていますか?

遠藤さん:

やはり「ここまでするか」という形で、非常にびっくりはしました

1月の末ぐらいから、あやしい雰囲気は感じていたが、ここまで大規模になる、ここまで悲惨なことになるとは思っていませんでした

各国それぞれに敏感な分野が違っていたりしますので、心配はしていたのですけれども、これまでのところはかなり高いレベルで結束していると思います。

それくらいショッキングなことで、団結して対応しないと対応できないという危機だと思います。

【国際協調のために立ち上がったのでない】

遠藤さん:

ウクライナはいろいろ問題があるにしても民主的に選んだ政府があって、報道の自由がある国を(ロシアは)じゅうりんするわけですね。

ここは自由と民主主義の観点から、自分たちが先頭に立っていかないといけないという意識が出たのだろうと思います。

国際協調を優先するから転換したのではなく、自分たちが自由と民主主義、それから戦後・冷戦後の原則を守るために立ち上がったのだと思います。

【独の政策転換は革命的】

--ドイツのショルツ首相は先月、ロシアからの天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働に向けた手続きを停止する考えを示しました。さらに、対戦車兵器と携帯型の地対空ミサイルをウクライナに供与するなど積極的に関与しています。ドイツにとってはかなり思い切った対応なのでしょうか?

遠藤さん:

もう「革命的」と言ってもいいぐらいなのではないでしょうか。

戦後の日本とちょっと似たようなところはありますけれども、基本的に平和主義を貫いてきたんですね。

その中で紛争地に対する武器輸出は控えてきた歴史があります。

今回は、「それではいけない」というほどひどいことが起きているということで、本腰を入れて武器供与を始めました。

そこは一昔前では考えられないようなことが起きているということかと思います。

ノルドストリーム2」はトランプ政権のころにあれだけ批判を受けながらもやめなかった。

バイデン政権に批判されてもずっと抵抗してきたが、真っ先にそれに手をつけたことが象徴的です。

ドイツ自身が自分たちの国のため、自由と民主主義のために必要だと判断して、政策を大きく転換させました。

【独の現政権による転換は驚きに値する】

--遠藤さんにとってもドイツがここまでやるのは意外だったのでしょうか?

遠藤さん:

そうですね。なぜかと申しますと、メルケルさんが引退した後の今の新しい政権はどちらかというと左側の中道左派の政権で、社会民主党と緑の党が中心になっています。

積極的に武器供与をするという政党ではないし、社民党はロシアに非常に近い政党ですね。

この連合政権が戦後ドイツの根幹となるような安全保障政策の転換に踏み切りました

それはやはり驚きに値する動きだったと思います。

【原則を一切合切踏みにじられた強い憤り】

--ドイツが政策転換に踏み切った理由は何でしょうか?

遠藤さん:

戦後、とりわけ冷戦後、「領土は暴力的に変更しない」という原則でヨーロッパは何とかやってきた。

ドイツ自身も長い間、体制も違い、分断国家としてやってきました。

攻め合ったらたいへんなことになります。

冷戦中もそうだったし、冷戦後はロシアも含めて明示的にウクライナの領土の一体性を守るという約束をしてきた歴史があります。

それが一切合切踏みにじられたという強い憤りがあると思います。

【独の政策転換で欧州の風向き変わった】

--ロシアにプレッシャーをかけるにあたり、ドイツが果たした役割、その効果はどう見ていますか?

遠藤さん:

ヨーロッパ全体としてロシアに対するエネルギー依存があり、食料もかなり輸入してきた地域ですから、ロシアに対してどれくらい強く出られるのか。

疑念を持つ向きもあったのですが、ドイツが「ノルドストリーム2」停止から武器供与にいたるまで、あそこまで思い切った政策転換をしましたので、ヨーロッパ全体が強い態度で団結してロシアに立ち向かうという、風向きがそこで変わったのだと思います。

そういう意味でも大きい出来事でした。

その先は、原油をどうするのか、というのは生活に響く話なので、アメリカのようにロシアのエネルギーに依存しなくても済む国とは違います

ここは対応が割れてきますが、これまでのところは、ヨーロッパはかなり団結してきました。

【周辺国では過去の亡霊よみがえった】

--今回のロシアによる侵攻を目の当たりにしたロシアの周辺の国々は「ウクライナの次は自分たちでは」と警戒感を高めている国もあると思いますが、いま最も戦々恐々としている国はどこでしょうか?

遠藤さん:

近場の国でしょうね。

一番近いのがバルト3国。それから長い国境を接しているフィンランド。それからポーランド。ほかにもルーマニアも同じような感覚があると思います。

ロシアやソ連には歴史的に占領されたりひどい目に遭ったりした国々では、過去の亡霊が急によみがえった感覚だと思います。

古い歴史の記憶が目の前によみがえってきちゃう。

そういうような状況にあってハリネズミのような気分になっていると思います。

それは無理もないことで、非常に象徴的だったのがポーランドのようなドイツにもじゅうりんされた国がドイツをせっつく形で「もっと武器供与をしろ」というメッセージを発しました。

裏返して言うと、ドイツが戦後、平和主義になって積み重ねてきた信用があって、逆にそれが全くないロシアに向けられています

【NATOへの加盟申請の動き】

--挙げていただいた国々では、安全保障上の備えを進める動きは出ていますか?

遠藤さん:

出ています。アメリカに武器供与を願い出たり、NATO=北大西洋条約機構への加盟を申請したりする動きが出てきています。

具体的にはフィンランドやスウェーデンです。

バルト3国やポーランドは入っているのでその必要はありません。

NATOに接近する動きが出ている背景にはウクライナの侵攻を見て世論がかなりNATO寄りになっています。加盟を求める声が高まっています。

フィンランドではこれから議会で議論するということですが、スウェーデンの首相は加盟するにしても「いまではない」と言っています。

それは今回のウクライナの侵攻がウクライナのNATO加盟、NATOが東側に加盟国を伸ばしていくことに対するロシアの安全保障上の懸念がひとつの根っこにありますので、いまこの瞬間に加盟国を拡大してもよいのか、という計算も他方でありうるわけです。

【ロシアの蛮行を止めつつ慎重な対応を】

--ロシアと約1300キロにわたり国境を接する北欧のフィランドは軍事的に中立の立場を取ってきましたが、NATOへの支持の声が高まっているとういことで、こうした動きをどう見ますか?

遠藤さん:

この戦争はもっとひどいことになりうる

狭いところをぬって行く必要があります。

これ以上ロシアを刺激してよいのか。

すでに武器供を供与し、志願兵なんかも行ったりしています。

とりわけ武器供与はかなりの程度、ロシア軍を苦しめているはずで、ロシアからすると敵対行為に見える。

さらにNATOの新規加盟を進めるという話になるとロシア側を挑発する可能性も出てきます。

ここで大事なのは、ロシアの蛮行を止めて、逆転していかないといけませんが、同時に第3次世界大戦、ロシアとNATO、ロシアとアメリカが戦争するような事態を避けながらやらないといけない

これが難しい課題になるわけです。

【制裁が生活に響いてくると団結問われる】

--これまでは一致団結してきたヨーロッパ各国ですが、事態が長期化した場合も足並みをそろえて対抗措置を続けられるのでしょうか?

遠藤さん:

中長期になり国民生活に影響が出てくると、徐々に「どうしてこんなに強い制裁をしないといけないのか」という声が出てくる可能性があります。

もうひとつは難民の分布ですね。

ある国だけに集中すると負担感に不公平感が出てくると思います。

当面はかなり団結してやっていくでしょう。

それぐらい許しがたいことが起きたということです。

【共通の思いは“許しがたいことが起きた”】

--ヨーロッパでほころび、ウィークポイントがあるとすればどこでしょうか?

遠藤さん:

エネルギーは非常に大きいと思います。

ロシアへの依存度をだんだん減らしていく共通目標で同じでも、タイムテーブルでどこまで同じような意見でありうるのか

もう少しゆっくりやらせてという国もあれば、もっとはやくという国もあろうかと思います。

このあたりは調整しながら進めると思います。

ヨーロッパはいろんな国の集まりなので、それぞれの利害がちょっとずつ異なるのですが、今回のウクライナ侵攻についてはみんなが予想した以上に、はるかに強い団結を見せているのが現状です。

それくらい許しがたいことが起きたという思いを共有しているのだと思います。

【バイデン政権 細い道をうまく渡っている】

--ロシアとの衝突が懸念されるアメリカは今回の事態に対して、当初からヨーロッパに積極的に情報開示するなど、協調する姿勢を示してきました。アメリカは今後もヨーロッパを尊重して動いていくと見ていますか?

遠藤さん:

そう思います。そうでないといけないし。

いまは、米欧の間で割れていると、ロシアに対して有効な手が打てません。日本ももちろんその中にいます

そこのところの団結が非常に問われている瞬間、局面です。

そこはバイデン政権もかなり丁寧にやろうとするのではないでしょうか。

実際にバイデン政権は今回、第3次世界大戦にならないようなやり方で最大限の支援をウクライナにするという細い道を、いまのところはうまく渡っている

そこのところのビジョンはヨーロッパも共有しているのではないでしょうか。

今後、化学兵器、ひいては核兵器などの大量破壊兵器が使われた場合どうするのか、危うい局面が続きます。

【戦争からことばによる外交交渉に】

--打開の道筋が見えない今回の危機。ヨーロッパの果たす役割についてはどうお考えですか?

遠藤さん:

今の状況だとプーチン大統領の意思というのがかなり強いように見えます。

現段階では言葉による交渉は非常に難しい局面かなと思いますがが、ずっと戦争するわけにはいかない、お互いに。

どこかで言葉による外交交渉が必要になります。

アメリカとロシアが一気に手打ちというわけにはいかなくても、ヨーロッパの国々が果たす役割というのは出てこようかと思います。

そこは注目していきたいです。

※インタビューは放送日の3月11日に行われ、読みやすいように一部修正しています。