ロシアとウクライナの停戦交渉。双方が、一定の譲歩を示しました。
しかし、ロシアは攻撃を続けながら今後もウクライナとの交渉に臨む構え。停戦の行方は予断を許さない状況です。
ロシアの侵略に終止符はいつ打たれるのか。
ロシアの安全保障に詳しい山添博史さんに田中正良キャスターと星麻琴キャスターが聞きました。
👀ポイント
○ロシアは、もっと“勝ち”ないと戦闘をやめられない
○停戦交渉は、ロシアに有利に見えるかもしれないが、ウクライナの立場も弱くない
○ロシアは停戦交渉のあとも攻撃を続けており、対外的に交渉するつもりがあるとは思えない
○今後のカギは中国の対応
※文末に関連記事のリンクがあります。そちらも参考にしてください。
3月30日に放送された動画はこちら。4月5日までご視聴いただけます。
今回の停戦交渉で話し合われたポイントを整理します。
まず、ロシアが求めてきたウクライナの「中立化」について、ウクライナ側によると、NATOへの加盟に代わって「新たな集団的な安全保障の枠組み」を提案したということです。この枠組みによって安全が確保できれば、NATO加盟を断念する「中立化」と「非核の地位」、つまり、核兵器を配備しないことなどを受け入れるとしています。
ロシア側はこの提案を検討する考えを示しました。
また、ウクライナ側は、ロシアが8年前に一方的に併合したクリミアの主権について、今後15年間協議を続けるとし、東部地域の主権問題については、首脳どうしで話し合うとしました。
一方、ロシア側はクリミアについて、自国の領土だと主張。東部については、すでに独立を承認していると主張しました。
【ロシア もっと“勝ち”ないとやめられない】
――主張が大きく異なる点もありますが、どの点に注目しますか?
山添さん:
交渉はわりと具体的に進んでいるように見える一方で、現実世界ではロシアが攻撃を続けている。
ロシアは、もっと“勝ち”を得ないことにはやめるわけにはいかない状況だと思います。
実際に爆撃が続いており、まだまだ厳しいと思います。
【中国に呼びかけ 意味ある】
――主張が大きく異なる点がある中で、停戦交渉は進みますか?
山添さん:
今後、進むかどうかはかなり難しいですが、ウクライナ側の提案で注目したいのがNATOやアメリカが大きく関与することでないといけない点です。
ウクライナ側の提案としてはトルコ、イスラエル、中国など、かなり多くの国を関与させる形でウクライナを位置づけていて、ここが新しく感じられるところです。
――その安全保障の枠組みの提案に中国が入っていることをどうご覧なりますか?
山添さん:
ロシアの立場からすると、あとで仲介を受けるとすれば中国が一番受け入れやすいのかなと思います。
中国がロシアとウクライナの間に入った場合、中国はロシアの肩を持ってウクライナに条件を押しつける傾向が強くなります。
それよりは多国間の枠組みにして、「中国、あなたはP5(国連の安全保障理事会の常任理事国)ですよね」ということで、中国を入れる、と。
中国はこれに対して反応を示さないといけないので、中国に「どうするのですか?」と問いかける意味はあると思います。
最終的な実現性はともかくとして、中国に呼びかけているという意味は決して小さくないと思います。
【ウクライナの出方は弱くない】
――領土と主権についてうかがいます。ウクライナ側は、南部のクリミアについて、今後15年間交渉し、東部については、プーチン大統領と会談するとしています。ロシアに有利にも見えますが、どう見ていますか?
山添さん:
ロシアは自国の領土であることをウクライナに認めさせるまでいかないといけないわけですね。それが目的なので。
ウクライナ側はそれを認めるまでには、「ロシアが取りたいものを得るまでにハードルがこんなにありますよ」ということを言っているということです。
私は必ずしも、ウクライナ側が弱く出ているとは見なしていません。
15年かけないといけないとか、東部の地位とか国民的な合意が必要だと言っています。
国民的な合意が必要ということは、戦争状態ではいけないし、ウクライナ東部やクリミア半島の住民の自由な意思の表明ができなければウクライナ国民として一致はできないですよ、と。
そういったところまで考えていると思いますので、ロシアが目的を達成するまでに時間がかかり、ハードルがあるということだと私は認識しています。
【ロシア発の報道を見てみると・・】
――ロシア出身の小原ブラスさんからは、モスクワがキエフにチャンスを与えていると伝えられているという話もありましたが、どうご覧になりますか?
山添さん:
ブラスさん(の動画)は私もちょくちょく見ていますが、いまのロシアに非常に心を痛められていると感じています。
それも心に留めながらいつも見守っています。
ロシアの報道を見てみますと、「ロシアがいい兆しを作っている。なのに、ウクライナのネオナチストがロシア国内にいて、それに捜査が入って捕まえた」というのがあったり、「ウクライナのせいでこの停戦が壊れるかもしれない」といった伏線を張っているように見えます。
【ロシア 交渉するつもりがあると思えない】
――ウクライナのゼレンスキー大統領は「この国を破壊しようとする代表者の言葉を信じる理由はない」と述べていますこうした受け止めがまだ根強いと思いますが、ロシアの停戦に向けた本気度をどうご覧なっていますか?
山添さん:
そうですね・・本気度は、はかれないぐらい嘘ばかりに見えますね。
「停戦交渉の動きを歓迎する」の直後に「ゼレンスキー大統領らは信じられない」というふうに言っています。
停戦交渉の場でもわざわざ国防次官が「キエフ方面では軍事行動を縮小する」と言っている裏で、キエフでもどんどん攻撃が進んでいます。
ここまでして国防次官という人の信頼性はどうでもいいということまでやって対外的に交渉するつもりがあるとは私には見えません。
この次の次の段階で何か考えているかもしれませんが、おおよそ信用、信頼という段階に至っていないと思います。
【“やめてもよいかな”で初めてロシア変化】
――今後、仮にですが停戦の合意に進んだとした場合、どんなプロセスがあって、焦点が何になると見ていますか?
山添さん:
ロシアが「もうそろそろやめてもよいかな」というところまで見えてこないとロシアに変化は出てこないと思います。
ラブロフ外相が「いま首脳会談をしてもよいことはない」。つまり、外相会談をしても成果はなさそうということで、先延ばし、先延ばしにしているわけです。
まずロシアは有利な軍事的成果、特にマリウポリだと思いますが、そういったところを狙ってから有利な妥結をまだ目指している段階だと思います。
【ロシア 中国から具体的な支援得たい】
――きょう、ロシアと中国が外相レベルで会談を行いました。ロシア側がこのタイミングで中国と会談する狙いはどこにあるのでしょうか?
山添さん:
いつでも中国と連携しておきたいということがあると思います。
タイミングはアフガニスタンをめぐる会議にあわせてでしたが、「中国はロシアを支援していて、ロシアは孤立していないですよ」ということを示していきたい、ということです。
ロシアは、できれば戦争継続や経済維持といった具体的な支援を中国から得たいと考えていると思います。
――今週は中国とEUとの首脳会談もオンラインで予定されています。どんな会議になると見ていますか?
山添さん:
中国もロシアばかりに寄っていては、ロシアが追い詰められて一緒になっていくわけにいかないです。
中国もウクライナへの人道支援や、EUとのつきあいとかもやっていて、なかなか難しい立場にあるとは思います。
ただ、中国国内ではロシア側の報道で成り立っていてウクライナ側のことを伝える中国人に対してすごくバッシングが起きたりしています。
ウクライナに味方してロシアを追い詰める姿勢は取りにくい状況だと思います。
中国が仲裁的に動くとしてもロシアの顔を立てるような形にならざるを得ない。
そこは、私の希望するような形での仲裁は期待できないと思っています。
【巨大な不条理 誰が得するかわからない】
――ウクライナではロシアの侵略により大勢の人が突然住まいを破壊され命まで落としています。ウクライナ人の怒りや悲しみは計り知れず、憎しみがこの地域の長期にわたる不安定化の要因になりかねないと思います。この戦争がもたらすものをどうお考えでしょうか?
山添さん:
破壊そのものもそうですが、ロシアからきた人々、ロシア出身の人々、ロシア語を話す人々、ロシアと仲よくしたい人々がどんどんどんどん殺されていっています。
誰が得するかさっぱり分からない。
この巨大な不条理があって、心あるロシア人も心を痛めていますし、もちろんウクライナの人々はこれを許せない。
「一般のロシア人はプーチンとは違うんだ」という説がある一方で、ウクライナ人に聞いてみますと、「(クリミア半島を一方的に併合した)2014年以来、これを許してきたよね」「クリミアであんなに支持したよね」と。ここまで軍隊を送って破壊を続けて来た人々とうまくやれるのか。
かなり長期にわたって恨みが残ります。
われわれもウクライナの立場に立って、ウクライナがちゃんと立ち直り、ロシアもちゃんとした形で立ち直るということをしっかり呼びかけて、ちゃんとしたロシアになってもらって、ちゃんとした国際社会に戻っていただくとを長期的に働きかける必要があります。
ーーありがとうございました。
*3月30日に放送され、読みやすいように一部修正しています。