ロシア軍はウクライナを甘く見ていた!?小泉悠さんの分析は 田中正良キャスター聞く

NHK
2022年3月4日 午後5:00 公開

ウクライナ危機は一段と深刻な事態に。

ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所が4日、ロシア軍の攻撃を受けました。

ロシア軍の軍事侵攻が始まった2月24日以降、1週間の戦況について、専門家はどのように分析しているのか。

ロシアの軍事や安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さん田中正良キャスターが3月3日(木)、スタジオで聞きました。

3月3日放送の動画はこちら。3月10日までご視聴いただけます。

👀ポイントはこちら

○ロシアは妙に焦っている

○戦闘機や戦闘爆撃機大々的に投入されず 衛星写真の分析

○ロシア軍 ウクライナを甘く見ていた

○ウクライナの抵抗

○ウクライナ 持ちこたえるのは難しい

○核兵器の使用 ロシアの軍事思想的にありうる

○オリガルヒ プーチン大統領に真っ向反対

○プーチン 狙いはウクライナの国家解体

【ロシアの進軍遅い印象】

ーーロシア軍の侵攻が始まって1週間。これまでの戦況を小泉さんはどう見ていますか?

小泉さん:

当初言われたよりもロシア軍の進軍がだいぶ遅いのではないかという印象です。

例えば首都キエフ、第2の都市ハリコフは、ロシアとベラルーシの国境から非常に近いですから、ロシア軍が大挙して攻めてくるとあっという間に陥落するのではないかという見方もありました。

特にハリコフはロシア国境から30キロしか離れていないですし、この目の前にロシアの「第1親衛戦車軍」というロシア軍の中で最も強力な装備を持った地上部隊が集まっていました。

ロシア陸軍の中で戦車を中心とする非常に突破力の高い部隊です。

こういうものが突入してくると、あっという間に落ちるのではないかと言われていましたが、1週間持っています、どちらも(キエフも、ハリコフも)。

ですから、ロシアの計画に比べると攻勢がかなり遅れているのではないかという感じがします。

【ロシアは妙に焦っている】

ーーロシアの攻勢が遅れているのではないかという指摘でしたが、ロシア軍の作戦の遅れの背景についてお聞きします。兵士の士気が低い、補給や後方支援がうまくいっていないという見方もあります。どう見ていますか?

小泉さん:

そうした要因は確実にあると思います。

もう1つ、非常に不可解なのが今回、ロシア側が何か妙に焦っている感じがする。

通常でしたら、大規模な空爆を数日間行ってウクライナ側が組織的に戦闘できないようにしてから攻めると思うんですね。

1991年の湾岸戦争では米軍がこういうパターンでした。

今回の場合は、空爆も行っていますが、同時に初日から地上部隊が進行してきて、その後もあまりロシア軍の空軍の活動が活発ではないですよね。

私たちもウクライナ周辺のロシア軍の集結状況というのは実際に衛星画像で見ていますが、かなりの航空部隊が集まっていましたから、激しい空爆、さらにウクライナ空軍を壊滅させて制空権を取るのではないかと見ていたのですが、そういうふうになっていません。

軍事的な合理性から言うと、あまり説明がつかない気がするんです。

いずれにしても、おそらくこういったことがロシア軍の進撃の遅さ、あるいは停滞につながっているような気がします。

【戦闘機や戦闘爆撃機 大々的に投入されず】

ーー空軍力を使い切っていないという指摘でしたが、どのような爆撃機や戦闘機に注目していますか?

小泉さん:

スホーイ34という戦闘爆撃機はありますが、いまシリアの空爆では主力をなしているわけです。

実際に周辺の飛行場にたくさん集まっていること自体は、衛星画像でわかったわけです。

どうも今回、あまりこういうものが大々的に出てきていない

本当だったら戦闘機や戦闘爆撃機が大々的に投入されるはずなのですが、そういうふうになっていないです。

ーーこのスホーイ34が出てくると、どういうような軍事的な効果が出てくるんでしょうか?

小泉さん:

速度も速いし、足も長いですから、ウクライナの奥深くまで侵入していって、重要な軍事施設をたたくであるとか、その他ウクライナ軍の戦力発揮に必要なインフラをたたくであるとか、本来そういうことが大々的に行われるはずだと思うんですよね。

【ロシア軍、ウクライナを甘く見ていた】

ーーなぜ通常の作戦が行われていないと見ていますか?

小泉さん:

その理由ははっきりはしないのですが、ロシア軍がかなり簡単にキエフやハリコフを陥落させられると思っていたのではないかという気がするのです。

初日からキエフに向かって地上部隊をろくに空爆もできてないのに進撃させていって、さらにヘリ部隊を侵入させてキエフの周りの飛行場を取ろうとしたのですよね。

こういうのもウクライナ側の抵抗が相当に微弱であるという想定でなければ、こんなことはできないはずです。

そう考えた理由ははっきりしませんが、いずれにしてもかなりウクライナを甘く見て始めた結果がこの1週間だったのではないかと思います。

【ウクライナの抵抗】

ーーウクライナ側の戦い方、抵抗についてはどうご覧になっていますか?

小泉さん:

かなり善戦していると思います。

本来、ロシア軍が全力で殴りかかってきた場合には、相当早期に壊滅するのではないかと見られたわけですが、結局、第1の都市、第2の都市を1週間守り抜いています

【欧米からの武器供与 効果出ている】

(「ジャベリン」画像 米国防総省)

ーーアメリカやヨーロッパの国々はウクライナでは戦闘に入らないと言っておりますが、同時に武器を供与しています。その効果でどう見ていますか?

小泉さん:

効果は出ているのではないかと思います。

例えば「ジャベリン」という歩兵が打つ対戦車ミサイル=戦車を攻撃するミサイルをかなりの数を供与するであるとか、ほかにもこの歩兵が撃つ地対空ミサイル=ヘリコプターなどを攻撃する武器を供与している、と。

ですから装備面で見れば、ロシア軍の方が優勢なわけですから、その装備面の優勢をなるべくキャンセルできるような兵器を供与していることは確かだと思います。

実際にかなり効果を発揮しているとは思いますが、重装備みたいなものはまだ入っていないわけですので、そこは一定の限界はあると思います。

【ウクライナ 持ちこたえるのは難しい】

ーーウクライナは、ロシアの圧倒的な軍事力を前にこのあと持ちこたえられると見ていますか?

小泉さん:

これは残念ながら難しいのではないかと思っています。

遅れているとはいえ、総合的な戦略で見れば、ロシアの方が強いわけです。

まだ航空戦力も大々的に投入しているように見えない。

そういうことを始めると、いまどうにか持ちこたえていますが、主要都市も放棄せざるを得なくなる場所もあるかもしれません、

いまは、軍隊がまだ組織だって戦っているわけですが、こういった組織的な戦闘もどこかで不可能になる可能性はあるわけですよね。

アメリカのシンクタンクも開戦前からかなりはっきり指摘していて、どこかで軍隊を再編してゲリラ戦に転じなければいけなくなるのではないかということも言われましたから、決して楽観すべきでないと思いますね。

【核兵器使用 ロシア軍事思想的にありうる】

ーープーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせています。戦争被爆国の日本の私たちは到底受け入れ難いですが、本当に核を使う可能性ここはどう見てますか?

小泉さん:

私としても受け入れがたいことだと思いますが、ロシアの軍事戦略思想を何十年分かを追ってみると、こういうことをずっと考え続けて来ているんですよね。

主なケースは2つあります。

1つは、戦って負けそうなので完全に負けきる前に停戦を強要するために1発だけデモンストレーション的に使う

つまり、「これ以上続けたら全面核戦争で破滅ですよ」とメッセージを出す。

あるいは、いま勝っているんだけれども、そこに有力な域外国が介入してきそうなので、形勢の逆転を防ぐためにデモンストレーション的に一発だけ撃つ

こういう思想ですよね。

ロシアからしてみますと、主要都市を落とせなくて攻めあぐねているという状況であったりとか、西側から経済制裁が来たりであるとか、軍事援助がウクライナに入り続けているという状況ですから、こういった状況を何とか止めるために「1発だけ」ということはロシアの軍事思想から言えばありうると思います。

【唯一の戦争被爆国として発信を】

小泉さん:

ただ実際には、ロシアの軍事思想の中でも、脅しだけで済ませるとか、通常兵器でやるとか、いろんな段階を踏んでいますので、「必ずそうだ」とは言えませんが、同時に「絶対やるわけではない」とも言えない。

大統領も実際にそれを示唆するようなことを言っていて、核部隊が実際に警戒態勢についてるんだと国防大臣も言っています。

これも気を緩めてはいけないと思いますし、今の段階でそういうことをやったら「このぐらいでは済まないですよ」と。

ロシアの国際的孤立も経済的なダメージも「いまのレベルで済まない」とはっきり言っていくべきだと思います。

なおかつ、日本は唯一の戦争被爆国なわけですから、特に日本からそういう声が強く出てもいいのではないかと思います。

【オリガルヒ プーチンに真っ向反対】

ーープーチン大統領を止めることができる人物は政権内部や周辺にいなのでしょうか?

小泉さん:

今回、私が非常に驚いているのがロシアの「オリガルヒ」と呼ばれる政権に近い富豪たちの中からプーチン大統領が始めた戦争に対して、反対だということを明確に言う人たちがあらわれてきた

“アルミ王”と呼ばれるデリパスカ氏、大手銀行アルファバンクの頭取のフリードマン氏

こういった人たちがプーチン大統領の政策にこれだけ真っ向から反対することはあまりなかったと思います。

こういうことが起こるようになっている。

それからロシア国内でこれまでも「反腐敗」とか「不正選挙」で大きなデモがあったわけですが、今回初めて「戦争反対」という理由でデモが起きている

プーチン大統領の始めた戦争というのが必ずしも国民からそんなに受けているわけではない

人によっては道義的な理由かもしれませんし、「プーチンのせいで経済制裁を食らって俺のビジネスがだめになった」と怒っている人もいるのかもしれません。

いろんな理由で、プーチン大統領がおそらく期待したほどに歓迎されていないことは確かですよね。

【プーチン大統領 狙いはウクライナ国家解体】

ーー今までになかった変化がかいま見えるということですね。ロシア、ウクライナによる協議。今後、停戦につながるのでしょうか?

小泉さん:

テーブルの上の話し合いだけで決まることは難しいのではないかと思います。

つまりプーチン大統領は開戦のときに言っていたことを素直に解釈すれば、ウクライナの国家解体を目指しているわけです。

ウクライナ側は当然そんなことを飲めなくて、むしろロシア軍に「出ていけ」と言っているわけで、話し合いだけでおそらく折り合いがつかない

お互いが言うことを聞かざるを得ないような状況をつくろうとすると思います。

ロシア側は当然、軍事的な圧力を強める話になるんでしょうし、ウクライナ側は“負けない期間”をなるべく引き延ばすことによって、ロシアに対する制裁であるとか、国民の反発であるとか、政権に近い人々の反発が強まることを待つという戦術をとるんのでしょう。

交渉自体ももちろん大事ですが、交渉を取り巻くロシア側の置かれた立場、ウクライナ側の立場これが鍵を握ってくると思いますね。

ーー小泉さん、ありがとうございました。

※出演は3月3日で、読みやすいように一部修正しています。