「永遠の若大将」加山雄三さん（85）が、年内でコンサート活動からの引退を発表しました。

ＮＷ９のリポーター、私、藤重博貴は、いま３０歳。当然、“世代”ではありません。ただ、家族が加山さんのファンだったこともあり、家族みんなで出かける時間、カーステレオから流れていたのはいつも加山さんの歌声。気がつけば私もファンになっていました。加山さんはライブで「僕は死ぬまでみんなの前で歌い続けるぞ、いいだろう」と度々宣言。私はいつまでも生でその歌声が聴けると思っていたのです。そんな加山さんが、なぜ、人前で歌うことをやめるのか…。直接聞きたいと思いました。

９月９日に行われた「ラストショー」を終えた加山さんへの、独占インタビューの全文です。

藤重）

ラストショー、たくさんの人が「今までありがとう」という旗を掲げていました。幕が下りるとき、どう感じました？

加山さん）

最後だと思ったら感無量という言葉がぴったり。どうしたらいいかわからない。幕が上がったときは、最後だなと思ったら、感無量というのはあるんだね。泣いちゃいけないと思って泣かなかったけどさ。泣くのは俺じゃないんだ、みなさんに泣いてもらった方がいいんだって気持ちでなんとか頑張ったけどさ。やっぱり大勢の人に囲まれた、応援してくれた、その気持ちがぎゅっと集中して最後を飾ることができた。

いやあこんな幸せなことないんだよね。応援してくれたから僕はあった。そういうことずっと考えると、感無量ってこのためにある気がして。

藤重）

エンドロールの後、幕が上がったとき、マイクを使わずに肉声で「本当にありがとうございました。がんばろう」とおっしゃっていました。どんなメッセージをファンに伝えたかったんですか？

加山さん）

実際の生の音で、みんな、すべての人にがんばろうぜって気持ちを伝えて、みんな一緒に同じような気持ちになってもらいたいということで、もうマイクなんかいらないよって。そういう気持ちで。

俺も８５になって、みんな（観客）の方が若いけど、人生はそんなに甘いもんじゃないんだ。最後まで頑張っていかなきゃいけない。もう一挙手一投足、全部、ありがとうという気持ちを込めて、ありがとうって大きな声で言いたかった。何にもマイクを通さずに。よかったでしょ。よかったと思うんだ。

藤重）

最後の曲は「愛する時は今」。どうして選ばれたんですか？

加山さん）

「愛する時は今」って。今が愛するとき。今生きてるんだから。みんな生きてる。みんなにその気持ちを伝えたいのと同時に、その手で幸せを与えようって言ったり、つかもうぜって。そういう気持ちをみんな持ってもらって、みんな同じ気持ちなんだからさあと。ステージの上にいようと、下にいようと、どこにいてもみんな同じなんだよと。その同じ気持ちをみんなに伝えたいのと、みんなも同じ気持ちで頑張ろうぜっていう気持ちを込めて最後にあれを選んだんだ。

藤重）

ことしで人前で歌うのをやめてしまう。いまどんなお気持ちですか？

加山さん）

コンサートは辞めるけど、音楽は生涯親友というつもりでいるからね、どんな状態になっても音楽は愛して良かったなと思うし、それは続けていくんだけど、大きなコンサートは最後になるわけだけど。

藤重）

決断をした理由、教えてもらえますか？

加山さん）

始まりがあれば終わりがある、入り口があればちゃんと最後にピシッとここで終わりにしようっていう気持ち、始めがあったら終わりがあるって、ピシッとしめるのが好きだから。誰もそういうことをきちっと言って辞めていく人は少ないじゃん。こんなになっていつのまにか消えたら嫌だから、よし俺はビッとここで辞めるんだ。最後、精いっぱいやるんだって言って辞めた。

藤重）

いつごろ決めたんですか？

加山さん）

ぶっ倒れて立ち上がって何が嬉しかったって、声を出して歌えたことが。それが嬉しいから続く限り続けていきたい、でもやっぱり入り口があれば出口というか、おしまいがあると。ピシッと閉めようと思ったのは、わりと最近。きちっと辞めようぜって気持ちになっているんだけどね。それがいいか悪いかわからないけど、ピシッと最後まで「ラストショー」って名前を付けてやった。結果、お客さんの反応をみて、好評なんだ。意外と一生懸命やったら、そういう最後だというと力が入ったりするけど、力を抜きながらみんなに心が伝わって、みんなからパワーをもらって。という相乗効果、これが最後だけどまだまだ歌うよという、そういう気持ちもあって。

藤重）

「死ぬまで歌い続ける」とファンの前でおっしゃっていました。その気持ちに変化があらわれたのは、病気が大きかったんですか？

加山さん）

変化があらわれて、やるかやらないか決めたりするのはさ、やっぱり倒れてからだよね。これは辞めなきゃいけないかもしれない。だけど倒れて起き上がった時に歌を歌ったら歌えたんだよね。それでよし、もうすこし頑張って続けていけるところまでいってみようという気持ちでスタートして。いろいろあって倒れてダメになったところから再度起き上がって助かったときに、歌えたことが何よりうれしい。それをずっと続けて行けるところまで行きましょうってここまで来たわけだけど、やっぱり入り口があって終わりがあるってきっちり決めた方がいいよ。大きいコンサートはこれっきりって感じだな。

藤重）

お一人で決断されたんですか？

加山さん）

そう、周りと相談もしたけど決断するのは自分だからさ。

なにより今までみんな応援してくれた。だけどこれで最後と言った時に、みんながっかりするかもしれないけど、「よく頑張ったな」って。「これから十分休養を取って、ひまがあったら音楽をつくるなり歌うなりしてもらいたい」という気持ちになってもらえれば、それでいいんだという気持ちをもった相乗効果だね、やっぱり。みなさんの気持ちと俺の気持ちが両方がシンクロしてさ、まだ歌えるな、よし歌おうという気持ちもあっていい。でもステージ、大きなところで歌う、それはこれで辞めておくという気持ちになった。

藤重）

歌い続ける選択肢もあったとおっしゃいましたが、続けるのは難しかったんですか？

加山さん）

でかいところでやるのはこれくらいにしておいていいよって自分の心の中で決めたので、それ今年の初め頃かな。まあこれで限度かな、続けたいのはやまやまだけど、けじめっていうのは大事なことだって思ってさ。「ここでけじめをつける、俺はここで辞めるぞ、おまえらついてくるか？」って聞いたら「ぽかーん」って。その反応見てね。その「ぽかーん」で、もうちょっと続けられるなと思ったから、もうちょっとって、それでこのへんまででピシャッと辞めて。

藤重）

８０歳を超えていろいろなご病気もされた。病気の前と後で、何か気づきというのは？

加山さん）

病気の前と後は違う。病気の前というのは簡単に何でもできると思ったけど、病気になってから後はね、歌えるということは、努力、一歩一歩、自分が本当に地に足を着けて、ちゃんと歩けるかどうか試しながらやっていかなきゃいけない。病気になって本当にダメになるかもしれない、死んじゃうかもしれないというとき、とことんそうなったときに人間って初めて真剣に物事を考えて、できることは感謝する、ありがたいなと思いながらやるのと、大きな違いがあるのはそこだと思うんだよね。ひとつひとつ感謝してまだ声が出る、まだ歌える、薄氷を踏むがごとく、そういう感じでやれるところまでやってみようかって気持ちになったんだよね。やれるところまで、俺はやったつもりでいるんだけどさ。

藤重）

「永遠の若大将」、８５歳とは思えないほどだと思うんですが、その加山さんでもご年齢を感じますか？

加山さん）

フランク・シナトラも引退したし、ペリー・コモも、もういないしさ。ペリー・コモなんか一緒に横浜アリーナで歌ったし、声がよく似ているっていわれて、英語の歌はなんとかやりたいなって思って。なぜだか分からないけど、英語の歌にあってるのか、声がよく出るんだよね。日本で英語の歌をパチッと完璧に歌うなんてあんまりいないと思うし、外国人が聞いてもアメリカ人が聞いてもちゃんと聞ける。それはちゃんと俺はレコーディングを３枚くらいやってるんだよ。

藤重）

コンサートでも「Bridge Over Troubled Water」を歌われましたよね。８０歳を超えて無理なく辞めたこともあると。例えば免許を？

加山さん）

免許は返した。年を取ったら必ずどこかで反応が遅れているからさ、何かあったらと思うじゃない。だから免許証返したし、アメリカの免許証も返してきた。それを返したときに、かみさんも一緒に行ってさ、書き直しに行ったときなんか、おかしいんだよな。「I am the Captain, but my wife is the Admiral.」どっと、そこにいる人が笑ったんだよ。私は船長だけど女房は提督であると。そこに並んでいる人がみんな大笑いしたんだ。

藤重）

ケアハウスに引っ越しも？

加山さん）

ケアハウスに入って、いつぶっ倒れてもいいようにそういう気持ちでね。

藤重）

体調にあったことをされてきて、今回のコンサート活動引退もその一環なんですか？

加山さん）

それとこれとはちょっと感じが違うけどさあ、自分の生活は安全というか、周りから見て、面倒見てもらえるところというのは。やっぱり、いつなんどきどういうことが起きるか分からない、自分で倒れてみないと分からない、８５歳にならないと分からないって。

藤重）

８０歳を超えて、まさか倒れるとはと。そういうお気持ちもあったんじゃないですか？

加山さん）

「ちゃんとやらないといけない」と思って、一生懸命。１週間に３回トレーニングやってるよ。ルームランナーやったり、平均台の上歩いたりとかさ、スクワットとか。

藤重）

８０歳を超えると続けていくことそのものが努力になっていくんですか？

加山さん）

続けるのは大変だと思うよ。８５になって、いまでも歌ってスクワットやって運動してって。世の中で８５っていったら相当年だと思うんだよな。でも周りの人が化粧きれいにやってくれる、こんないい衣装着て、衣装さんがいてきれいな状態にしてやってるけど。ふだんボロボロになるほど体を鍛えるためには、やっぱり自分の努力しかない。

藤重）

コンサートってどんな存在だったんですか？

加山さん）

お客さんと、自分が精いっぱいやると、返ってくる反応によって、自分に力をもらえるんだよね。相乗効果ってよく言うんだけど、ギブアンドテイクだよね。そういう気持ちを精いっぱいやると返ってくるんだよね。ありがとうねって心の中で思う。感謝の気持ちが生まれてくる。

藤重）

ファンはどんな存在だったんですか？

加山さん）

ファンのみなさんにずっと支えて頂けたから現在あると思ってるんだ、俺。ファンの人たちがいなかったら、加山雄三、辞めた方がいいんだよ、でもファンの人たちがいるから、俺は頑張れたんだって、今があるんだよって本当に思ったよ。「（コンサート引退を）決断したのは惜しいけどよく決断なされましたね」って手紙が来るね。それを読むとね、ありがたい、ありがたい。こんなに手紙来るんだもん。ありがたいなんてもんじゃないよ。年賀状をいつももらってるみたいなもんだ。

藤重）

ラストショーでは「君といつまでも」のセリフ、力がこもっていたと感じました。「君」というのはファンのことかと？

加山さん）

そういうことだよ、よくわかるね。「幸せだなあ」って言ったら、みなさんの力を頂いて幸せに思ってるよっていうことを伝えたいから。「僕は君といるときが一番幸せなんだ」って、みんなといるとき、いまが一番幸せなんだと。「死ぬまで君を離さないぞ」と。今思ってるのは「死んでも君を離さない」っていう、死んでもになっちゃった（笑）

藤重）

泣いているファンの表情などを感じながら歌ったんですか？

加山さん）

もちろんそうだよ、真っ暗だから最初見えないけどさ、時々明かりがパーッとつくと、わあこんなにたくさんいらっしゃるんだって。できるだけいろんな人を見て、上の方を見たりしてやるけどね。ありがたい、１曲終わると拍手してくれる、拍手に励まされてやるんだよ。８５になってこういうことやれるのはありがたいと思わない？ありがたいことだよ。

藤重）

ファンを大切にしようと、入院先から直行したこともあったと聞いたんですけど、そこまでコンサートって特別だったんですか？

加山さん）

コンサートを通して実感があるわけじゃんよ。ファンのみなさんとの反応がさ、直に伝わってくるというのは、大事なことなんだよ。ただ歌ってるんじゃないんだから、お客に、みなさんから力もらってさ、そのおかげでやれるわけだよ。

藤重）

自ら今年でやめると決断したのは、さみしい気持ちも？

加山さん）

それはあるさ。でも引き際って言うのはあるんだなって。そこで決断出すのは自分しかいないからさ、これ以上迷惑をかけてはいけない。

藤重）

コンサート活動引退されてもずっと応援し続けますというファンの方がたくさんいらっしゃいました。

加山さん）

音楽はずっと続けるからね。いまだに作曲した曲で未発表のものがいっぱいあるわけなんだよ。よければそれを出すからね、それを聴いてもらって買ってもらって、そういう活動をやっていくの。それと今、絵を描いてるからさ。絵はいっぱいあるの。それを、加山雄三ギャラリーっていうのがあって。絵をいっぱい描いてるからさ、油絵だけどね、見てもらいたい。

藤重）

ラストショーで（加山さんの歌声をAIが学習して曲を歌う）「バーチャル若大将」も登場しましたよね。例えば、加山さんが作った曲をバーチャルが歌うことも予定されているんですか？

加山さん）

そうね。誰もやったことないのをやるのがすごく好きなんだよね。うちの会社でバーチャルをやってみようって言って、で、俺と同じように歌えるかどうか、みんなで知恵をしぼって。歌ったらね、俺が歌ってるのがどっちかわかんないぐらいそっくりにできるようになった。俺が歌ったことない歌を歌わせることができるんだよ。これは面白いなと思ってさ。では、（歌声だけでなく）映像の世界でできるかって。事務所が「頼んでみます」って。うちの事務所が頼んだ。そしたら映像の世界が一生懸命やってくれたんだよ。ちょっと俺より若すぎちゃってまずいなっていうくらい、もっと老けてんだけど本当は、っていうぐらい、だけどよく似てるんだよなあ。それで最初のうちはひどくギクシャクしてたけど、最近、わりとスムーズになって。いやそれにしても若すぎるな（笑）。それが面白い。俺いらないよ、っていうぐらい、すごくよくできてるよ。

藤重）

ラストショーの「旅人よ」ではデュエットも。どうでした？バーチャルとのデュエット？

加山さん）

全然問題ない。（「ザ・ワイルドワンズ」の）加瀬邦彦ほどはよくないけどね。加瀬君なんかは遅れて、ちゃんとそこの中でコーラスやってくれたじゃない。彼ほどじゃないけどバーチャルもなかなかのもんだよね。

藤重）

バーチャルをどんな存在だと思って見てたんですか？

加山さん）

俺の分身みたいなもんで。だから俺いらないなあって言いたいぐらいよくできていたと思うよ。これから全部あれに任せちゃって（笑）俺歌ったことない歌も歌えるんだからさ。それはすごいよ。全く知らない歌まで打ち込んだらバーッとできちゃうもんね。たいしたもんだなと思うよね。

藤重）

新曲「海が男にしてくれた」のレコーディングでも、バーチャルの声を聞きながら加山さんがレコーディングするという場面もあった。バーチャルが加山さんの魅力を引き出してくれるんですか？

加山さん）

そうなんだよ。結局、俺の歌をバーチャルのほうが先に歌ってそれをまねしながら俺が歌を入れたりなんかすることがあったからね。面白いよ。誰もやったことないのをやるのがすごく楽しいね。

藤重）

常に新しいことを続けてきた加山さんが、今年でコンサート活動引退。加山さんと同世代のファンの方に、加山さんの決断、どのように感じてほしいですか？

加山さん）

最後だからって特別に思わないでさ。やっぱり俺、今までやってきた音楽活動の中で生まれているものがいっぱいある。それを１つ１つ思い出として聴いてもらうことによってその都度思い出がよみがえってくる。そういうものを残してるから、俺は。音楽として。それで生きている間に何曲作ったかわかんないくらい、ものすごくたくさん作っているから。どんなときにどういう気持ちで作ったんだろうかっていうことを考えながら、もういつもいろいろ言ってるけどさ。そういう考えで聴いてもらう。それもね、一興だなと僕思うよ。

藤重）

もうすでに作ったものを聴いてもらうと？

加山さん）

そうだよ。だって誰でもできることじゃないんだもん。自分の声を歌で残して、それを聴いてもらってなんて、それは誰もができないことだからね。ありがたいことだなと思わなきゃおかしいもんね。一生懸命になってその都度やったからさ。

藤重）

ラストショーでは「加山さんが区切りをつけるのはすごく前を向かせてもらう。元気なときにやめるのは大事だ」と話している同世代のファンもいました。生き方の面で、加山さんの今回の決断、どのように参考にしてほしいというか捉えてほしいですか？

加山さん）

やっぱり自分の物事にはけじめというのが大事だ。生きるということも決断が大事。「ここまで『人のためになるぞ』と歩いてきた。ここから先も『俺１人でも頑張って歩いて行くぞ』」と。「『おまえらに支えられないとダメだ』というんじゃないんだ。とにかくただ１人で歩いて行く。歩いて行けるかどうか試すのは自分自身だ」。そういうことを毎日のように思うんだよ。で、本当に、「みなさんと一緒に手をつないでいく」。というのは、残してきた音楽をみなさんもずっとそのまま聴いてもらえばいいわけで。だけど、ただ１人歩いていかなきゃいけないことは、確かにそう。だけれども、やっぱり、根に、「がんばろう」。誰のためでもなく自分のためにまず頑張って、それがやがて人のためになる、そういう生き方をしていこうじゃないかっていう根本的な気持ちがすごく重要だと思う。がんばる。何のためにって、自分自身のためにまず頑張る。それで頑張れたら、人のためになるように、なんとか一生懸命努力する。その連続だね。何事も。

藤重）

自分自身でどこまで責任を負えるかを考える、判断することが大事なんですか？

加山さん）

そう。それでステージをまず、ぱっとやめた。そういうふうにだんだんだんだん縮小するけどさ、大きなところではスパンとやめて、決断して、あとは細々と、続けないわけじゃなくて、音楽はずっと続けていくよと。俺はまだまだ作って出してない曲があるからさ。

藤重）

加山さんは免許返納したときも、ケアハウスに移ったときも、無理をしない生き方を同世代のファンの人に参考にしてほしいと。少しでも、「加山さんもケアハウスに行くんだから自分も将来のことを考えよう」とファンの方が思ってくれればうれしいとおっしゃっていましたけど、今回の決断もそういう思いがあるんですか？

加山さん）

要はね、ダメなことは自分がダメだったからダメなんだ。じゃあいいことはどうか。いいことはみなさんのおかげなんだよ。みんな助けてくれたからいいことも何もかもあったんだ。それをはっきりするということ。まあダメなことはダメだったと、自分で反省する。それでダメだったことを反省してそれをプラスになるように。「じゃあ後は…」って思ったことを努力する、それによってそれを少しでも穴埋めできればなと。やっぱりね、命あればこそだけどさ、命ある限りは努力しなかったら何にも成り立たない。努力しなきゃ生きていられないよ、っていうぐらい本当にね、迷惑をかけていると思うんだよ、生きていること自体がさ。それがみんな、そういうことで一生懸命になってると、わかってくれるんだよな。で、「俺（加山雄三）も一生懸命になってるな」ってことをファンの人たちが聞いたら、「よく頑張ってますよね」って若い人から返事が返ってくるの、ちゃんとね。そうするとやっぱり頑張って良かったなって思うよね。

我々の場合はさ、歌でそれを表現して、ステージで表現して、みんなから返ってくる反応を見て、自分というものの存在を知るわけだよな。だけども実際に手紙でファンレターが来ると、それを１つ１つ読んでるとね、「力をいただきました」、と。「いやあ俺はあなたたちのおかげで力をもらえたんだよ」っていう気持ちで読んでるわけだよ。本当にありがたいと思うんだよな。そういうことを言ってくれて反応してくれる相手がいるってことがさ、ふつうの世の中生きているとそれはあまりないよな。だからその分だけ頑張らないとどうしようもない。もう頑張るしかない。そのぐらいの責任感をもたなきゃダメだと思ってね。いいこと言うね（笑）

藤重）

今ファンの方にメッセージがあるとすれば？

加山さん）

みなさん。やっぱり頑張っていこうよ、そういう気持ちになったほうがいいです。絶対あきらめちゃダメだよ。死ぬまであきらめないで。もう横になって動けなくなっても。ようし、これ以上、迷惑をかけないけども、何とかおかげさまで生きているんだよという気持ちになったら、それに対していつでも手を合わせる感謝の気持ち、それを忘れないでいただきたいと思う。それは絶対に大切なことだから。どんなことがあっても「ありがとうございます」。つらいことがあっても「ありがとうございます」。何でも感謝に結びつけるぐらいの、そういう大きな気持ちをもって生きていきましょうよ、という気持ちですね。

ディレクター）

今回のコンサート、けじめをつけるためのコンサートということでしたが、歌ってみて声が出た。あんなにたくさんのファンの人からの歓声が聞けた。けじめをつけるためとはいえ、後悔はないですか？

加山さん）

後悔はないよ。後悔するぐらいならやめなきゃいいんだから。そうじゃなくて俺はちゃんとけじめをつけることは大切だと。まだできるのに、惜しいなあって自分でも思うけどもこれが大切。これができるかどうかがその価値を決めるかもしれないなって。その判断力が大切なんだよ。海で長く生きてるとね、船長は判断しなきゃいけない。レーダー見ててね、ここから先はしけてるな、危険だが行くかどうか、いや、港へ避難した方がいいなと、判断するのは船長だから。何もかも責任を持たなきゃならない。俺は人生の船長のつもりでいるからさ。だから俺が頑張れるところは頑張るけども、ダメなところはちょっと避難入港しようっていう気持ちだな。

【インタビュー後記】

デビュー以来６２年間、ファンを楽しませてくれた「若大将」。

病気や老いといったイメージとはほど遠い存在でしたが、「病気をしてすべてのことに努力が必要になった。薄氷を踏む思いで、やれるところまでやったつもりでいる」という、ギリギリの判断でここまで歩んできたのだと知り、驚きました。

ファンはいつまでも加山さんを見ていたい。「永遠の若大将」である加山さん自身、その期待に応えたいと努力を続けてきました。誰もが、何かを終わらせるタイミングは難しいものだと思います。

しかし。

「人生の船長として、自分で判断できるうちに、自分の引き際を決める」。

加山さんが最後に大切にしていたのは、自分の人生を自分で決めることでした。

まさに６２年にわたって、自分とファンへの責任を果たし続けてきた、加山さんらしい「舵取り」だと感じました。加山さんの新たな船出が順風満帆であることを願っています！