🆕何が真実か プロパガンダ描くウクライナ映画~戦争とは?情報戦とは?~

ニュースウオッチ9
2022年6月30日 午後3:00 公開

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から4か月が経過しました。

戦況を巡って大量の情報が飛び交う中、ある映画が情報を受け取る私たちにどう向き合えばいいのか、問いかけています。

この映画、8年前にウクライナ東部で始まった親ロシア派とウクライナ軍との戦いで、国家によるプロパガンダが市民を巻き込み、憎しみを膨張させていく様が描かれています。世界で注目の映画を製作したウクライナ人の監督に話を聞きました。

(取材:水嶋大悟ディレクター 6月20日放送の特集を記事にしました)

6月、千葉県柏市で開かれた映画「ドンバス」の上映イベント。会場は満席でした。

映画は当初、単館上映の予定でしたが話題を呼び、全国50の映画館で上映されるまでに広がっています。

映画の舞台は、今から8年前のウクライナ東部、ドンバス地域です。

ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力が一部を占拠し、一方的に独立を宣言した当時の様子を、実話をもとに描いたフィクションです。

派手な戦闘シーンはほとんどなく、その水面下で繰り広げられるプロパガンダに翻弄され、互いに不信を募らせていく市民をテーマにしています。

見終わった観客は

ロシアの軍事や安全保障に詳しい、東京大学先端科学技術研究センターの専任講師、小泉悠さんが、満席となった観客を前に次のように語りました。

小泉悠さん:「たぶんいま起きていることは、この「ドンバス」の中で起きていることを想像しながら見ると、大体こんな感じなんだろうなということが、われわれの想像力としても理解できると思うんですね。これってフィクションなんですけど、限りなく事実に近いフィクション」

私たちは、映画を製作したウクライナ人のセルゲイ・ロズニツァ監督に話を聞きました。ロズニツァ監督は2018年にこの映画でカンヌ映画祭の(一部門で)監督賞を受賞した、世界的な映画監督のひとりです。

青井キャスター:「この作品に込めた思いを聞かせてください」

ロズニツァ監督:「(戦争の中で)人間性が崩壊していく過程を描こうと考えました」

「現在のウクライナ侵攻と2014年の出来事は地続きでつながっています。しかし、世界は何もせず目を背けてきたのです」

【フェイクニュースはどのように作られるか】

映画は、実話をモチーフに取材を重ね、13のストーリーからオムニバス形式で構成されています。

そのひとつに、インタビューに応じた女性がウクライナ軍による攻撃で犠牲者が出たと証言するシーンがあります。

この女性が化粧をしているシーンもあり、実は、ロシア側の勢力が用意した、「クライシスアクター」と呼ばれる役者であることに気づきます。

フェイクニュースがどのように作られていくのかを克明に描いているのです。

ロズニツァ監督:「戦争を後押しするのが、プロパガンダです。人々は今、自分で考える力を失い、インターネットなどのメディアに操られやすくなっています.それが悲劇を招いている一因です。発信される映像が、私たちの意思決定に大きな影響を与えています。映像という侵略者に対して私たちは無防備なのです」

【戦争は道徳的基準を破壊する】

フェイクニュースやプロパガンダが広まると、何が起きるのか。街頭でさらしものにされる捕虜になったウクライナ軍の兵士のシーンです。ロシア側のプロパガンダに沿ったイメージを植え付けられた市民たちは、群衆となって暴力を加え始めます。若い人からお年寄りまで、次第にエスカレートしていく残酷な様子を克明に描写しています。

市民のひとりは「正しい人たちがあんたなんか撃ち殺すわ」と叫び、暴力はさらに激しくなっていきます。

このシーンについて

ロズニツァ監督:「あれは私が作った言葉でなく、現実の出来事の中でかわされた言葉です。悪人から人々を守ってくれる善人という意味で「正しい人」と言ったのだと思います。私たちがその言葉を使った女性を調べてわかったのは、実は彼女が、柱にはりつけられた男の隣人だったということです」

「戦争は人々の道徳的な基準を破壊します」

「この戦争は、悲劇的な結果をロシア、ウクライナ、双方にもたらすでしょう」

終わりの見えないウクライナ情勢を前に、いま私たちはどう向き合っていけばよいのか、監督に問いました。

ロズニツァ監督:「立ち止まって深く考えることです。伝えられる映像や情報について表面的にとらえるのではなく、熟考するのです」

「市民が愚かであれば、プロパガンダは効果を発揮してしまいます。受け取る側もまた発信する側と同様に責任を負っているのです」

青井キャスター:ロズニツァ監督は、戦争が引き起こすのは、社会の解体、そして人間関係の解体である。そのことを伝えたくて、あえて生々しくグロテスクに描いたとも話していました。

(6月20日に放送した特集を記事にしました)

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取材:水嶋大悟ディレクター

2008年入局。現在は福岡放送局。NHKスペシャル「原爆初動調査」(2021)、BS1スペシャル「”安保の裏方”が見た沖縄」(2022)をはじめ、戦争の記憶をめぐる番組を多数制作。