アメリカ中間選挙で何が 激戦州ネバダの「ヒスパニック票」から読み解く

NHK
2022年12月14日 午後1:08 公開

11月に行われたアメリカの中間選挙。議会上院では、与党・民主党が主導権を維持した一方、議会下院は共和党が多数派を奪還しました。開票が始まってから大勢の判明まで8日かかるなど、激戦となった今回の選挙で鍵を握ったとされるのが、中南米にルーツを持つ「ヒスパニック」と呼ばれる人々の票です。両党は全人口の20%を占めると言われるヒスパニックをどう取り込もうとしたのか。激戦州のひとつネバダ州の選挙戦を追いました。

《激戦のネバダ州  注目はヒスパニック》

世界有数の観光地、ラスベガスがある西部のネバダ州。今回の中間選挙で、議会上院の激戦州のひとつとなりました。民主党の現職コルテスマスト氏と共和党の新人ラクサール氏が激しく競り合い、投票日直前までの世論調査では共和党がわずかにリードしていました。

こうした中、両党ともに力を入れていたのが、ヒスパニックの人々の票の取り込みです。例えば共和党のラクサール氏は、テレビの選挙広告でヒスパニックの人たちが話すスペイン語を使って、バイデン政権の経済政策を批判するなど、アピールしていました。

スペイン語で有権者に支持を訴えたラクサール氏(共和党)

ヒスパニックは、伝統的に移民政策に寛容な民主党を支持する人が多いとされてきました。しかし、2年前の大統領選挙でネバダ州では2%の僅差でバイデン大統領が勝利したものの、トランプ氏がその前の大統領選よりも10%、ヒスパニックの得票率を伸ばしたことや、今回はインフレへの不満などから共和党へ支持を変える人も出ていたことなどから、どこまでヒスパニック票が共和党に流れていくかが注目されていたのです。ヒスパニックは、ネバダ州の人口の30%を占め、その投票行動が結果を左右すると言われていました。

《経済対策をきっかけに共和党支持に》

今回、共和党に投票することを決めたヒスパニックのリディア・ドミンゲズさん。2人の子どもを育てているシングルマザーです。かつて空軍で勤務していましたが、退職し、今は貯金を取り崩しながら、学費や生活費を捻出して暮らしています。

防犯対策用に犬を飼うリディア・ドミンゲズさん

共和党に票を入れる理由は、バイデン政権以降インフレが続き生活が苦しいことと、治安が悪化したと考えているからです。去年、全米の殺人事件の件数は前年を4%上回る2万2900件に上り、過去25年で最悪になりました。ドミンゲスさんは防犯対策として自宅の鍵を変え、大型犬を飼育、そして護身用の銃まで購入しました。

(共和党を支持するリディア・ドミンゲズさん)

「電気料金、バターなど、節約をいくら頑張ってもほかが値上がりしてついていけません。景気が悪いから犯罪が増えていると思うし、賃金も上がらないため、人々は自暴自棄になっていると感じます。増税ではなく共和党が今まで打ち出してきた減税が正しい政策だと思っているので、私は共和党を支持します」

SNS上でもヒスパニックが民主党から離れていく動きがありました。4年前に立ち上がったレクジット(“LEXIT”/由来は「Latin(ラテン系)」+「EXIT(出口)」)という団体は、ヒスパニックに共和党への支持を呼びかけています。今では11の州に支部があり、フォロワーも増えていると言います。

(LEXITネバダ支部 フランキー・ロドリゲスさん)

「ヒスパニックだから民主党に入れているという考えは間違えているし、民主党は私たちの票が入ることを当たり前だと考えている節がある。実際、敬虔なキリスト教徒も多いし、保守的な考えの人も多い」

LEXITネバダ支部ディレクター フランキー・ロドリゲスさん

共和党に近い政治コンサルタントのマイク・マドリッド氏は、ヒスパニック系の住民の多くが労働者層だと指摘し、今後の経済政策次第で、ますます民主党から共和党へ票が流れると分析しています。

(政治コンサルタント マイク・マドリッド氏)

「ヒスパニックの有権者にとって経済的な不安が最大の関心事だ。全米で労働者層に占める割合の伸び率はヒスパニックが最多になっている。民主党が、もともとの支持層である労働者層の期待に応えるような政策に戻るまではヒスパニックの有権者を失い続けるだろう」

マイク・マドリッド氏

《地道な訪問活動に力を入れた民主党》

対する民主党は、ヒスパニック票をつなぎとめることに懸命になっていました。民主党の支持基盤のひとつ、ホテルや飲食店などで働くおよそ6万人が所属する労働組合では、戸別訪問に力を入れていました。

労働組合の個別訪問

前回の大統領選挙では、過去最大のおよそ65万戸を訪問し、ビラを配るなどしてバイデン大統領の支持を訴えましたが、今回の中間選挙ではそれを上回る100万戸を目指していました。スペイン語が話せる組合員をヒスパニックの人々が多く住む地区に積極的に派遣し、どの候補を組合として推薦しているのかという情報から期日前投票ができる投票所の案内や郵便投票の仕方までを有権者に伝えていました。事務局長のパパジョージ氏は、直接有権者と会う地道な活動こそが重要だと話しています。

パパジョージ事務局長

(カリナリーワーカーズユニオン パパジョージ事務局長)

「ヒスパニックはとても重要で、今回はヒスパニックの人々の半数以上には戸別訪問をする予定です。選挙結果は僅差になると予想しますが、戸別訪問を頑張れば勝てると思います」

さらに投票日の1週間前には、オバマ元大統領が応援に訪れて支持を訴え、てこ入れをはかっていました。

ネバダ州のヒスパニックの政治行動を研究しているジョン・トゥーマン氏に話を聞きました。トゥーマン氏は、ヒスパニックの中では、トランプ前大統領が取ったような、移民に不寛容な政策を今後も共和党が取るかもしれないという警戒感が根強く、今回の選挙で、民主党への支持はそれほど揺らがないと指摘しました。

トゥーマン教授

(ネバダ大学政治学部副学部長 ジョン・トゥーマン氏)

「ネバダ州に住んでいるヒスパニックの特徴として、その多くがメキシコ系です。他の州に住んでいるヒスパニックと比べリベラルな人が多く、もう少し共和党が移民政策などで妥協すれば支持は増えると思いますが、今回はそうはならないでしょう」

《民主党が勝利 今後ますますヒスパニック票が重要に》

選挙の結果、民主党のコルテスマスト氏が僅差で勝利しました。出口調査では、ヒスパニックの62%が民主党、35%が共和党に票を入れたことが分かり、想定されていたほどヒスパニック票が共和党へ流れることはありませんでした。

50年前は、全米の5%しか占めなかったヒスパニックの人口は、今では20%近くを占めるようになり、黒人より多くなっています。今後その割合はさらに増えていき、アメリカの人口構成が大きく変わっていくことが予想されています。2年後の大統領選挙、そしてその後の選挙でも、ヒスパニック票の行方が大きな焦点になりそうです。                                                      

                        (放送日:2022年11月8日)